フジテレビの日曜・朝にしゃべり続けて30年『はやく起きた朝は…』はなぜ長寿番組になったのか? 伝統を体現し続ける番組にこれから立ちはだかる1つの問題
集英社オンライン / 2024年12月1日 7時0分
〈〈『サザエさん』55周年〉マニアが選んだ珠玉の神回「波平が痴漢に間違われ…」「ノリスケがまさかの失言で出禁に…」〉から続く
2024年の4月で30周年を迎えた『はやく起きた朝は…』。磯野貴理子、森尾由美、松居直美の3人が日曜朝におしゃべりを繰り広げるほのぼのとしたトーク番組だが、番組の本質はフジテレビのバラエティの伝統を色濃く引き継いでいるのだ。その理由をテレビ番組に関する記事を多数執筆するライターの前川ヤスタカが分析する。
お台場に移転する前から続く30周年を迎えた長寿番組
皆さんご存知のとおり、フジテレビ本社ビルの所在地といえば港区お台場である。
しかし、今から27年前、1997年の社屋移転までは新宿区河田町にあった。
現在その跡地には高層マンションが建ち、唯一その痕跡として名を残していた「喫茶店ふじ」もすでに閉店。フジテレビがそこにあったという雰囲気は微塵もない。
そんなもはや跡形もないフジテレビ河田町本社時代に始まり、現在も続いている唯一のレギュラーバラエティ番組。それが『はやく起きた朝は…』である。
長寿番組ゆえ改めて説明するまでもないが、毎週日曜朝6時30分に、磯野貴理子・森尾由美・松居直美の3人が最近あった出来事を話したり、視聴者のはがきを読んだりするトークバラエティである。この春にはなんとめでたく30周年を迎えた。
もともとは今とは時間帯が異なり、日曜朝9時30分『おそく起きた朝は…』のタイトルでスタート。
その後、日曜13時30分『おそく起きた昼は…』を経て、2005年から現在の日曜朝6時30分『はやく起きた朝は…』へと変遷している。
時間帯とタイトルこそ変わっているが、基本的な内容はこの30年大きく変わっていない。
番組が開始した1994年。それぞれの年齢は、磯野30歳、森尾28歳、松居26歳であったが、今や磯野貴理子は還暦。
3人は人生の半分以上をこの番組とともに過ごしていることになる。
おそらく当初は3人もここまでライフワーク的に長く続く番組になるとは思っていなかったであろう。
バラエティを主戦場としていた3人の中堅女性タレントが、日曜の午前中にゆるく明るくAMラジオのようにトークする番組である。
もしも数年で終わっていたなら人々の記憶にもそんなに残ることはなかったかもしれない。
しかし30年もの長きにわたり続いているが故に、番組の歴史は彼女たちの半生そのものとなっている。
「視聴者と人生を共にしている」
磯野貴理子は二度の結婚・離婚に加え、脳梗塞で倒れたこともある。
松居直美も結婚・出産・離婚、森尾由美も出産・アメリカ生活・孫誕生などを経ており、3人のほぼすべてのライフイベントがこの番組とともにある。
視聴者は彼女たちとともに歳をとり、彼女たちの人生を見ながら、まるで親戚の会話を聞くように番組を楽しむ。
同じフジテレビの長寿番組でも画面の向こうの『サザエさん』は歳を取らないが、『早く起きた朝は…』は画面の向こうも歳を重ねていく。
この「視聴者と人生を共にしている」感覚こそが、この番組が長い間根強いファンに支持されている由縁ではないかと思う。
元来フジテレビには『めちゃイケ』など、バラエティの体裁でレギュラーメンバーの人生の岐路・葛藤を見せていく伝統があるが、『はやく起きた朝は…』はそういったイベントを過度に脚色せず、あくまで3人のトークの中で消化していく。
例えば、5年前に大いに話題になった磯野貴理子2度目の離婚告白の回。
なんてことのないトークの流れで突然「急なんだけどさあ、あたしさ、離婚することになって」「えっ?誰が?」「あたしあたし」と切り出す貴理子。
号泣する直美に「やめてやめて、泣かないで。悲しくない全然大丈夫」とフォローした後、24歳下の夫に「自分の子供が欲しい」と言われたことを告白という流れであった。
なかなか衝撃的な告白である。
ゴールデンのテレビ番組ならCMを何度もまたいで話すような内容かもしれない。しかしこのトークはわずか2分である。
だがトークそのものは2分であっても、これまで築いてきた何十年もの蓄積があるからこそ、視聴者はなんでもないよと気丈に振舞う貴理子の気持ちも、手で顔を覆い号泣する直美の気持ちも、そしてあえて言葉を挟まない森尾由美の気持ちもよくわかる。
貴理子がこの回で「ずっと見てくれている方にさ、報告をね。急に旦那の話しなくなるのも変だからさ」と話したように、3人は視聴者にトークを通じて人生を見せていく。
そういう番組なのである。
“3人組トーク”の伝統を作り出した
長きにわたる人生劇場というのももちろん当番組の魅力の一つだが、フジテレビの御家芸ともいえる「3人組がトークする」というフォーマットを確立したというのもこの番組の功績といえるのではないだろうか。
もちろんそれまでも『やっぱり猫が好き』などドラマにおける3人会話劇はあったが、いわゆるトーク番組としては『はやく起きた朝は…』がフジテレビにおける3人トークの象徴的存在と言ってもいいだろう。
「はや朝」の直後にオンエアされる『ボクらの時代』も基本的に3人のトーク番組だし、深夜番組で長く続いている『久保みねヒャダこじらせナイト』もそうだ。
「はや朝」の30年には及ばないものの、『ボクらの時代』は17年続いているし、「久保みねヒャダ」も不定期ながら11年続いている。
やはり3人組トークはやはりフジにとっては伝統あるフォーマットなのである。
そもそも磯野貴理子は『笑っていいとも!』のアシスタントでもあった3人組、チャイルズのセンターだったし、松居直美は『欽ドン!良い子悪い子普通の子』が生んだ3人組「よせなべトリオ(良いO L、悪いOL、普通のOL)」の一員だった。何かと3人組には縁があったのだ。
ちなみに「はや朝」の着席配置におけるセンターが貴理子なのは、チャイルズ時代の立ち位置をベースにしているからなのだそう。
思い返してみると「はや朝」のトークにおいてパンチラインを生み出すのは基本的にいつも貴理子だ。やはり彼女は根っからのセンター気質なのかもしれない。
最後に、これから3人が60代に突入し、視聴者も高齢化していくにあたり懸念材料になりそうなことが一つある。
それは、朝6時30分が60代以上にとって決して「はやく起きた朝」ではないということだ。
他局のご高齢の方に向けた時代劇再放送は、朝の4時からやっている。
「はやく起きた朝」を名乗るなら、午前4時くらい、下手したら3時台くらいにする必要があるのではないか。
うーん。果たしてそれは「朝」なのだろうか。そこを朝と言っているのは片岡鶴太郎くらいなのではないか。
いや時間帯はいつでもいい。3人が70代になっても、80代になっても、いつまでも変わらずに他愛のないトークをし続けてくれればそれで十分。
これからも人生を共に歩む視聴者として3人を見続けていこうと思う。
文/前川ヤスタカ サムネイル/©フジテレビ
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