「せいろ」&「おぼん」ブームの火付け役である人気料理クリエイターが「紙の料理本」にこだわった理由
集英社オンライン / 2024年12月1日 13時0分
日本中に「せいろ」ブームを巻き起こした料理クリエイターのりよ子氏と、SNSで200万人のフォロワーを抱えるHideka氏。二人ともまだ20代、書籍よりもネットでの情報収集が当たり前のデジタルネイティブ世代だ。料理本よりもウェブメディア、さらにはSNSに慣れ親しむ彼女たちにとって、「紙の料理本」とはどんな存在なのか。
今年9月末に刊行されたレシピ本「すべてを蒸したい せいろレシピ」(りよ子・著)と、11月末に刊行された「一汁三菜 おぼん献立」(Hideka・著)。
前者はすでに累計発行部数7万部(2024年11月20日時点)を突破し、日本中に「せいろ」ブームを巻き起こしており、一方、後者は発売前の重版決定と「おぼん」ブームが兆しをみせている。
レシピ本を買うと「よし、やるぞ」って気合いが入る
――Hidekaさんは27歳、りよ子さんは28歳と同世代です。今年、初のレシピ本を刊行することとなったわけですが、そもそもおふたりは料理にまつわる情報はどのようなところから収集しているのでしょうか。
Hideka 料理を始めたころ、まずはレシピサイトの「クックパッド」から入りました。冷蔵庫にある食材名で検索してレシピを探すという使い方です。その後、料理動画サービス「DELISH KITCHEN」を使うようになりました。動画付きでわかりやすいので、いまもよく見ますね。
りよ子 私はHidekaさんとは反対で、作りたい料理から検索して、必要な食材を買いに行くというスタイルです。卵が入った肉巻きおにぎりが流行っていたときにInstagramで見かけて、「面白そう!」と思って作りました。レシピを見て、それを自分の手で再現するのが楽しいし、達成感も感じられるんです。
Hideka 私もおいしそうな料理を見て作りたくなることはありますね! 料理本とは少し異なりますが、「からだにおいしい野菜の便利帳」(高橋書店・刊)っていう栄養素などの情報がまとまった本を買って、勉強しています。
――調べれば情報を集められるなか、あえて本という形を選んだのはなぜでしょう?
Hideka インターネット上にはいろんな情報がありますが、やっぱり本のほうが信用できる気がします。あと、情報が1冊にまとまっているので、これさえ全部覚えればいいかなっていう安心感もありますね。網羅されている感じというのでしょうか。
りよ子 私は、たまにお菓子作りの本を買うことがあり、米粉のお菓子の本などを持っています。グルテンフリーが流行っていたときに私もハマっていたんですが、卵も小麦粉も牛乳も使わないお菓子の情報って、ネットで調べても出てこなくて。本なら付箋を貼ってキッチンに置いておけばパッと開けるので、そういった点も便利です。
Hideka あとは、憧れのインフルエンサーさんの本を買うこともあります。持っているだけでうれしい気分になるし、それを読むと自分も頑張ろうって思えます。周りの友人を見ていると、同棲や結婚を機に、「料理を頑張ろう!」っていう気持ちで買うという子はいる印象です。
りよ子 私もそれはあります。買い揃えると「よし、やるぞ」って気合いが入るので。
Hideka 今回私の本を予約してくれたフォロワーさんから、「初めての料理本です」っていうコメントをいただくことがけっこうあって、みんなどこかで頑張るきっかけが欲しかったのかもしれないなって感じました。私の本がそのきっかけになったっていうのは本当に嬉しいです。
りよ子 本を買ってくださった方から、「家族で楽しんでいます」っていうコメントをいただくことがけっこうあって意外でした。「本を開きながら家族から『これ作って』って言われたので作りました」って。家族のコミュニケーションツールにしていただけるのは予想外でした。ほかには、「この本の料理を作るためにせいろを買いました」という方も。「せいろの本は、中華料理を紹介するものが多いなか、これは日常使いしやすいです」って言っていただけることもあります。
「せいろ」も「おぼん」もかわいい見た目に癒されるという声多数
――おふたりは書籍を出版される前からすでに多くのファンを抱える料理クリエイターですが、もともと料理が好きだったのでしょうか。
りよ子 社会人になりたてのころは料理ができなくて、それこそ「クックパッド」とかを見ながら作っていました。ただ、もともと健康や美容には興味があって、ヘルシーな料理を作る方法を探していろいろ試すなかで、せいろに辿り着きました。
Hideka 私は大学時代に料理教室に通っていて、そこで「自分でもこんなにおいしい料理が作れるんだ」って感動して、教室に週1で通うくらいにハマっていました。料理を振る舞うと両親がとても喜んでくれて、それも嬉しかったです。料理ができる人ってかっこいいなっていう憧れもありました。
りよ子 私も料理ができる人ってかっこいいなって思っていました。あと、丁寧な暮らしをしている人は、自分でちゃんとしたごはんを作っているっていうイメージがあって、憧れていました。せいろを初めて使ったのは4年ぐらい前で、本格的に使うようになったのはここ2、3年ですね。最初は市販のシュウマイを蒸すなど「THE せいろ」な使い方をしていました。
Instagramを始めたころ、仕事が激務だったので家に帰って食事を作る元気がなかったんです。そのときに、冷蔵庫にある食材を入れて火にかけて、待つだけっていうせいろの手軽さにハマりました。蒸している間はほったらかしにできるので、お風呂の準備とかもできるし。しかも湯気が出ている姿になんだか癒される。ごはん作りが、ほっとひと息つく時間に変わりました。
Hideka せいろって見た目もかわいいし、癒されますよね。おぼんも、SNSの投稿を始めたころに、見た目がかわいくて取り入れるようになりました。Instagramのアンケート機能でフォロワーさんにアンケートをとったときに、おぼんが入った写真が好きという声も多くて。おぼんだと、見た目がカフェ風に仕上がるんです。あとは料理を運びやすいところも魅力。少しこぼしたとしても、テーブルが汚れないなど実用性もあります。
りよ子 おぼんの上にお皿が並んでいる光景ってかわいいですよね。
料理の投稿で大切なのは再現性の高さと彩りの良さ、そして時々失敗作
――そもそもおふたりがSNSに投稿を始めたのはどのようなきっかけなのでしょうか?
りよ子 仕事が忙しくてしんどい時期に、仕事以外で社会とつながりを持てる場所がほしいなと思って始めました。鍋料理も好きなので、実は少しだけ鍋を投稿していた時期もあるんです。でもしっくりこなくて。それでちょうどせいろにもハマっていて、レシピを調べたりしていたんですが、点心などせいろを使った中華のレシピはあっても、私がやりたい日常系のせいろ料理を発信している人はいなくて。それで始めました。
Hideka 私はどちらかというと作った料理の記録用として始めました。料理ってけっこうエネルギーがいるので、せっかく頑張って作ったならそれを残しておきたいなと思って。なので最初は、自分の作りたいものを作って載せていただけだったんですが、やっぱりそれだと同じ料理が続いて見ている側は飽きてしまうので、次第に同じメニューばかりにならないようになど、考えるようになりました。あと彩りが大事だと気づき、赤、緑、黄色が揃うように意識するようにもなりました。
りよ子 私も自分でリアルに食べるごはんよりも、見栄えがいいものを選んでアップしています(笑)。まだ投稿が少なくて誰にも見られていなかったころって、ただ冷蔵庫にあるものを蒸していたので、あまり写真映えしていなかったんです。でもフォロワー数が1万人を超えたぐらいからは、彩りを意識するなど、おいしさだけでなく見せ方も考えるようになってきました。
Hideka 私も1万人ぐらいになったときから意識が変わりました。地味なごはんは載せられないなって思って、少しだけ前よりも頑張るように(笑)。なので失敗したものはあまり載せないようにしているんですが、いまはストーリーズにたまに載せていますね。コメントでも時々言われるんですが、親近感を持っていただけた気がします。
りよ子 私もフォロワーさんが増えてきたばかりのころは失敗を気にしていましたが、途中から多くの方に見ていただいているっていうこと自体に慣れてきて、妙に凝ったものではなく等身大のものを載せられるようになりました。
Hideka あとは、フォロワーさんが実際に作ることを意識して、マネしやすさを考えるようにもなりました。簡単に作れて、誰でも再現できるレシピにすること。
りよ子 フォロワーさんが再現できるかどうかってすごく大事ですよね。特殊な調味料や食材ではなく、誰もがスーパーで買えるものを使うようにしたりしています。
――ビジュアル面で大切にしていることはありますか?
Hideka 私はリール動画とフィード投稿の両方をあげていて、リールは視覚的にわかりやすくすること、フィードはレシピとかゆっくり見たいものを紹介するという形で使い分けるようにしています。
りよ子 私は、とにかく「せいろってすごく簡単に使えるんだよ」っていうことが伝わる構成にすること。食材を切って、ぽんぽんぽんってせいろに入れて、火にかけて放置して、フタを開ければ完成っていう、「めっちゃ簡単だよ」っていうのを全力で伝える動画にしているつもりです。
Hideka そもそもおぼんって細々したものがひとつにまとまるっていうのが利点なので、少し小さめのお皿を使うようにもしています。大きいお皿だとおぼんを使う意味があまりないなと思うので。あと、副菜は1、2分で作れるものにすること。電子レンジを使ったり。
――おふたりは、そういったレシピをどのようにして作っているんですか?
りよ子 大きく分けて、普段のごはんでおいしくできたものがあったらそれを投稿するパターンと、外食をしたときにユニークな食材の組み合わせに出合ったら、それをせいろでも試してみて投稿するパターンがありますね。
Hideka 私も、レストランの料理やデパ地下の惣菜とか、そういったところから食材の組み合わせ方を学んでいます。そこに自分なりのアレンジを加えるようにしていて、私だったらあの食材を足すかなとか、こういった味付けにしたほうがおいしそうだなとか考えます。
りよ子 お風呂に入っているときなどにアイデアを思いつくことも多いですね。缶詰やレトルトカレーをせいろで温めるというアイデアは、まさにそうやって思いつきました。これをやったらどうなるんだろう?っていう好奇心でいろんなものにチャレンジしています。
――試したけれどイマイチだったものはありますか?
りよ子 生サバは、そのまませいろに入れて蒸すだけだとくさみがあって失敗しました。あとは生麺タイプのラーメン。これも、そのまま蒸すとゴムみたいな食感になっちゃって、これはダメだなと。それと、書籍にお餅のレシピを載せているんですが、最初に試したときはでろでろに溶けちゃって……。何度か挑戦してちょうどいい蒸し時間を見つけました。
なぜ令和のいま「せいろ」と「おぼん」がブームに?
――無印良品でせいろが品切れになったり、定食カフェ「おぼんdeごはん」がレシピ本を出したりと、「せいろ」と「おぼん」がいまブームになっていますが、本来はどちらも昔からあるアイテムです。なぜいま注目されていると思いますか?
りよ子 ここ数年、「丁寧な暮らし」というものが流行っていて、実際、SNSではそういったテーマで発信している人も増えています。せいろやおぼんは、その一部として取り入れやすいアイテムのような気がします。
Hideka せいろ料理は油をあまり使わずヘルシーですし、昨今の健康意識の高まりとも相性がいい気がしますね。
りよ子 SNSのコメントを見ていても、ヘルシーさに惹かれている方はけっこういますね。あとは、「調理もお手入れもラクそう」というコメントもあります。そして意外なところだと、「楽しそう」って言われることも。作った料理をただお皿で食べるんじゃなくて、せいろだったりおぼんだったり、何か違う要素が加わることで楽しく感じるのかもしれないですね。
Hideka ワクワク感が生まれるのかも。
――そんなおふたりが次に挑戦したいことはありますか?
りよ子 発酵料理ですね!
Hideka ブームがきていますよね!
りよ子 ですよね! 麹とか、味噌とか。Instagramにも麹調味料を手作りしている動画があがっているので、やってみたいなって思います。2025年には必ず挑戦しようと思います!
Hideka 私は、りよ子さんの書籍にもあった、同時に2、3品作れる料理を研究していきたいなと思っています。時短にもなりますし。
りよ子 料理以外だと、オフラインのイベントを企画できたらいいなって思っています。直接フォロワーさんにお会いする機会を作りたいです。
Hideka 私は2年前くらいから思ってるんですが、自分のオリジナルのブランドを作ってエプロンをプロデュースしたいなって思っています。お気に入りのエプロンがあったらもっと料理が楽しくなると思うので。シンプルで着やすくて、軽くて料理もしやすいものを考えたいです。
――最後に、今回作った書籍をどんな方に届けたいか教えてください。
りよ子 本の「はじめに」にも書いたんですが、仕事が忙しかったときにせいろにめちゃくちゃ癒された経験があるので、「忙しくて毎日コンビニ飯とかお惣菜とか食べています」っていう方に手に取っていただけたらと思いますね。
せいろは本当に調理もお手入れも簡単なので。これだけで生活ががらりと変わるのでおすすめです。自炊のハードルって意外と低いんだと感じてもらえると思います。丁寧に暮らしている気分にもなれて心にもいいですし。
Hideka 私は、夫の喜ぶ顔が見たくてご飯を作っているところがあって、今回の本も大切な人のために作りたくなるレシピが多いんです。なので、誰かにおいしい料理を作ってあげたい人、そして自分のためにおいしい料理を作りたい人に届けたいですね。簡単なのに、感動するほどおいしいレシピがたくさんあります。
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