〈発達障害グレーゾーンで悩む若者たち〉簡単な質問に”マニアックな長文メール返答”で顧客から大クレームを受けた20代…こだわり、先延ばし…
集英社オンライン / 2024年12月3日 11時0分
発達障害には、コミュニケーションやイマジネーション能力の低さ、空気が読めない、整理整頓が苦手といった「生きづらさ」につながる特性がある。しかし、発達障害と確定にはいたらない“発達障害グレーゾーン”の場合では、そういった特性の凹凸が少ない傾向がある。そのため、悩みやトラブルの原因に気づきにくく、適したケアや対策ができていないことも多いという。今回はそんなグレーゾーンで悩む20代、30代のケースを紹介する。
【画像】発達障害を疑ってカウンセリングにくる人は、比較的若い世代が多い
『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
社会に出てから発覚するグレーゾーン
近年、社会に出てから初めて発達障害を疑い、精神科や心療内科を受診する人が増えています。
企業でカウンセリングをしていても、「自分は発達障害かもしれない」という悩みを抱えて相談にくる人が少なくありません。
メディアなどで頻繁に発達障害が取り上げられることも影響しているでしょうが、社会構造が複雑になり、適応できない場面が増えてきたことも一因ではないかと思われます。
筆者のところに発達障害を疑ってカウンセリングにくる人は、比較的若い世代が多いように感じます。
学生時代は環境に適応できていたけれど、社会に出てから適応が難しくなり、ネットなどで調べると発達障害の特性が自分に当てはまるので心配になったという人が多いです。
発達障害は脳機能の発達に関する障害で先天的なものとされていることから、気づいていなかっただけで、社会人になって初めて発達障害を発症することはありません。
グレーゾーンはなおさら、社会に出てから発覚することが多いといえます。
「学生時代は上手くいっていたのに……」と悩むBさん
Bさん(男性20代)は、電子工学系の一流大学院を出て、主にシステム開発の仕事を担当しています。
システム開発は、頭を使って黙々と作業することが得意なBさんに合っていましたが、慣れていくにつれて担当するパートが多くなり、会議でのプレゼンや発言の機会も増えていきました。
しかしそれはBさんにとって、歓迎すべき事態とはいえませんでした。
なぜなら、Bさんは周囲の空気を読むことが苦手で、社の内外を問わず知らないうちに相手を苛立たせてしまうからです。
会議で、自分が開発した案件のこだわりのある箇所についてだけ長々と説明したことがありました。
当然、周囲は白けた反応でしたが、会議が終わってからも、忙しそうにしているメンバーに何度も同じ箇所を説明に行ったりしました。
顧客へのアフターフォローでも、簡単な質問に対しマニアックな長文メールで回答して、クレームがきたことがありました。
次第に周囲から厳しく指摘されることが増え、Bさんは、コミュニケーションが上手くいかないと悩みだしました。
Bさんの“こだわり”や“空気が読めない”というのは、社会人になって始まったことではありません。
学生の頃も、クラスで“浮いている”と感じたことはあるそうですが、成績優秀だったので特に問題にはなりませんでした。
しかも、大学院では彼の“こだわり”によって緻密な論文を完成させることができ、学会で賞を獲ることもできました。担当教授から褒められることも多く、研究室では「できる人」というキャラで通っていたということです。
しかし、最近では、同僚から「そこは全然重要じゃない」などと相手にされなかったり、一生懸命回答した取引先からクレームがきたりして、自信を失うことばかりだったそうです。
そのため会社に行くのがつらいと思うようになってきたということです。
Bさんは自分の特性をネットで調べ、発達障害の1つである〝自閉スペクトラム症〟に行きつきました。
そして、「自分は自閉スペクトラム症ではないか」と筆者に相談にきたのですが、その後受診した精神科では「その傾向がある」と言われました。
自閉スペクトラム症の特徴としては、言語以外のメッセージであるメタメッセージ(表情や声色、ジェスチャーなど)が受け取れない、固執傾向(こだわりが強い)、相手の立場に立つといった想像力が働きにくいなどがあります。
言葉によるコミュニケーションは、言葉自体によって20%、メタメッセージによって80%伝えられるといわれており、メタメッセージの読み取りが上手くいかないと“空気が読めない”ということになってしまいます。
近年、Bさんのように社会に出て初めて、この障害(グレーゾーンを含む)が自分にあることが分かったという人が増えているのです。
異動により症状が現れたCさん
発達障害グレーゾーンの人たちは、環境への適応が上手くいく場合とそうでない場合があります。今度は異動により環境への適応が難しくなったケースをお伝えしたいと思います。
Cさん(女性30代)は、商品企画部から秘書課に異動になりました。
アイディアの豊富な彼女は、新企画を考えたりすることが得意で、商品企画部では大ヒット商品を生み出したこともありました。その反面、予算管理や仕事の段取りは得意ではありません。
斬新なアイディアを出すことが多々ありましたが、その中には明らかに予算オーバーになるような企画もありました。
企画書には、予算や段取りなども入れていくのですが、チームのメンバーに恵まれていたCさんは、周囲にフォローしてもらいながら企画を形にしてきた経緯がありました。
しばらくは商品企画部にいたかったCさんですが、秘書課へ異動となり、出世コースとされている役員秘書の仕事に就くことになりました。
Cさんが担当することになった役員は秘書に全幅の信頼を寄せていて、飲食店の予約まで任せるタイプの人でした。
最初は張り切って役員の指示に対応していたCさんでしたが、「美味しい和食のお店を探しておいて」などと頼まれると、ついついお店探しに気を取られてしまい、名刺やスケジュールの管理、諸々の精算などの日々の業務を「あとでまとめてやればいいか」と先延ばしにすることが多くなりました。
その結果、役員から秘書が管理している(はずの)名刺の連絡先を聞かれてもすぐに分からない、月末に経理から役員の精算書提出を求められても出せないといった類いのことが増えてきました。
このような状態になったのは、CさんにADHDの傾向があったからです。
ADHDに見られる特性の中には、子どもから大人になるにつれて目立たなくなるものもありますが、「不注意」や「衝動性」は大人になっても残りやすいといわれています。
興味や関心の度合いによってやる気の度合いが変わってくることも、ADHDの特性の1つです。
「不注意」における特性の1つに“先延ばし”があります。Cさんも、ルーティンワークを「やらなければ」と思っていながら、他に興味を引くことがあるとそれを優先し、本来業務を先延ばしにしていました。
「忙しいからあとで」「まとめてやればいいか」と“先延ばし”にしているうちに、往々にして期限を守れなくなり、仕事に適応できない状態になっていたのです。
「衝動性」は、衝動のコントロールが苦手なゆえに、自分の欲求のまま無計画に行動することです。
“無計画な買い物”や“衝動買い”がその例で、ADHDの人は買い物に行くと気持ちが大きくなる傾向があるといわれています。
商品企画部にいた頃のCさんが、予算度外視の商品企画をしていたのは、「衝動性」によるものだった可能性があります。Cさんは、予算に関してはチームメイトがフォローしてくれていたので、活躍できていたといえるでしょう。
Cさんは役員秘書になって3か月経っても、ルーティンワークを先延ばしにするクセが抜けませんでした。役員に注意されることが増え、他部署からクレームを受けるようにもなり、すっかり自信をなくして、うつ状態になっていきました。
職場の産業医から精神科の受診を促され、「ADHDの傾向がある」ことが分かり、仕事への適応が難しいとして適応障害の診断を受けて休職に入ることになりました。
発達障害のグレーゾーンの人は環境への適応が難しくなり、適応障害などの二次障害につながることがあるのです。
文/舟木彩乃 写真/Shutterstock
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