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「ばあちゃんの芋の煮っころがしも料亭が真っ白に炊いた芋もどっちもおいしい」菊乃井3代目がこだわる料理の「ハレ」と「ケ」とは

集英社オンライン / 2024年12月17日 7時0分

「白いご飯、ぬか漬け、それと…」7つのミシュラン星を獲得した料理人がたどり着いた最期に食べたい3つとは〉から続く

おおげさに「うま~い」「おいしい〜」を繰り返すテレビのグルメ番組に、京都の老舗料亭「菊乃井」の跡取りとして生まれ、「ほんまにおいしいものって何や?」ということを追及して70余年の村田吉弘がぴしゃり! とダメだし。

【画像】京都の名店「菊乃井」で提供される「ハレの料理」とは

近著の『ほんまに「おいしい」って何やろ?』より一部抜粋、再構成して、料理が提供する「心と体の栄養」についてお届けする。

「ハレ」の料理と、「ケ」の料理の違い

「ハレとケ」という考え方があります。「ハレ」は漢字で書けば「晴」で、晴れ着などというように「普段とは違う、特別に改まった」という意味。「ケ」は漢字で書けば「褻」で、「日常」とか「普段」のこと。そういう意味では、料亭の作っている料理は「ハレ」の料理ということになるでしょう。

一方、「ケ」の方は、「おふくろ味」「おばあちゃんの味」「おばんざい」「ふるさとの味」「滋味」とか言われる料理の分野ということになるでしょうか。

「ふるさとの味」や「滋味」はまさに「地味」で、飛び上がるほどおいしい、うまいというわけではないけれど、食べた時に何となくほっこりする。ものの味そのものが体のなかに沁みいる、そんなおいしさ。

「おふくろの味」というのは、「心の栄養」ですね。その味噌汁を飲んだ時のシチュエーション、生まれた家の古くさい畳の匂いとかも込みで、母親の味噌汁の味そのものを覚えているわけではない。

味の要素として、そうした「ほっこり」とか「心の栄養」という部分はとても大事なことやと思います。ただ、基本的に過去は美化されますから、「あの頃に食べたもの」はどんどん美しく頭のなかで膨らんで、とろけるようにうまかったということになる。そして、それらは「心」とか「頭」の話ですから、「体の栄養」とはあまり関係がない。

一方、私らは「体の栄養」も充分考えた「ハレ」の料理を作っていますが、年中「ハレ」ではちょっとしんどい。年中はあり得ない。この頃、金持ちの若い人らは年中「ハレ」の料理を食べていますけれども、「過ぎたるは及ばざるがごとし」で、病気になりますよ。

やっぱり、「ハレ」と「ケ」はある程度はっきりと分かれている方がいい。そのうえで、どっちがうまいかと言われると、どっちもうまい。

おばあちゃん炊いてくれた芋の煮っころがしもおいしいし、料理屋の真っ白けに炊いた芋もおいしい。どっちがおいしいねんとかいうものではなくて、それは別のものやろうという考え方でいい。

結局、食べ物にはそれぞれ、その時その時の「思い出」とか、「強烈な印象」とかがからまっていて、それを食べるとそこにトリップしますよね。海の近くへ行ったり、ハスの花が咲いている池のそばに行ったり、いろいろなところにトリップする。トリップすることができる。食べ物、料理というものはそういうものです。

私ら料亭、料理屋の料理というのは、そういうふうに、食べた人がいろいろなところにトリップできるような、そういう思い出につながるような料理を提供しようともしているわけです。料亭は「ハッピーハウス」であり「大人のアミューズメントパーク」であると私が常々言っているのも、そういう考えが基本にあるからです。

「菊乃井の料理」が提供する「心の栄養」と「体の栄養」を存分に楽しんでいただければ幸甚です。


文/村田吉弘

ほんまに「おいしい」って何やろ?

村田 吉弘
ほんまに「おいしい」って何やろ?
2024/9/26
1,980円(税込)
248ページ
ISBN: 978-4087817591
著者の村田氏は、京都の老舗料亭「菊乃井」の跡取りとして生まれ、「ほんまにおいしいものって何や?」ということを追及して70余年。
世界中の美食を食べ歩き、味覚そのものを研究するアカデミーを作り、「日本料理店」として現在まで本店・支店で併せて7つものミシュランの★(星)を獲得し続けている「料理界のカリスマ」である。
アラン・デュカスをはじめフランス料理のカリスマ・シェフたちとの交流も深く、アカデミーの仲間たちとともに「和食」をユネスコの無形文化遺産にも押し上げた。
広島サミットの料理は各国首相に絶賛された。料理界を代表する文化人として史上初めての黄綬褒章を受け、文化功労者にもなり、「京都の伝統や日本文化のご意見番」としても知られている。
そんな村田氏も若き頃は、フランス料理のシェフをめざして行ったパリで放浪生活を送り、ソルボンヌの学食やフランス料理のレストランで受けた人情の温かさに感動する。
やがてフランス料理の文化的な奥深さに感じ入り、自分がなすべき仕事は「日本料理」と自覚する。
日本に帰ってきたあとは、修行先で包丁を突き付けられるほどのいじめにあうが、人の嫌がることを率先して引き受け何倍も働き、次第に周囲に実力を認められていく。
初めて店長を任された新店に閑古鳥が鳴く中、夜の商売のお客から大会社の会長まで、皆から何かを教えられ、やがて一流の料理人として、経営者として成長していく。
昨今の、おおげさに「うま~い、おいしい」を繰り返すテレビのグルメ番組や、「お金さえだせば、おいしいものを食べられる」と勘違いするグルメ・ブームには、ぴしゃり!とダメだしをしつつ、身近な給食や家庭の手料理まで「おいしさの本質」を追及し、後進を育てている。
抱腹絶倒! 歯に衣を着せぬ食の世界と波乱万丈な人生を語り、食の本質、食の未来を熱く迫る! (豪華カラー口絵つき!)

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