危険すぎるトランプ政権の「同盟国への罰金」政策…ではハリス民主党政権ならば日本にとってお得だったのか?
集英社オンライン / 2024年12月2日 7時0分
トランプの米大統領復帰が決定したことを受け、各報道機関が様々な懸念を表明している。しかし、今回の大統領選の結果から、もうひとつ問われなければならないのは果たして「民主党政権の継続ならばよかったのか」という点だ。
経済学者の大西広氏の書籍『反米の選択 トランプ再来で増大する“従属”のコスト』より一部抜粋・再構成し、解説する。
現状ではなく「どのような変化が必要か」を問う必要性
「ハリスになればバイデン外交が継続されるだろう。しかしトランプになるとどうなるかわからない!」──これは異口同音に語られてきた「外交専門家」の言い方で、日本でも選挙戦の最中、9月3、4日に言論NPOが東京で開催したシンポジウムでもすべての「専門家」がその立場を採っていた。
私の見るところ、肉体労働者風の言いまわしでまくしたてるトランプと同類と見なされることを避けた逃げ口上に聞こえるが、トランプの復活は「政権交代」なので確かに政策は大きく変化することにある。ただし、我々の課題はその「予測不能」を「予測可能」とすることであって、専門家がその役割を果たせていないことに正直がっかりする。
これは言い換えると、「専門家」なるものがいつも現状の延長でしかものを考えることができていなかったことを意味するが、その「現状」はそろそろ根本的に転換されなければならない段階に達している。
たとえば、1970年代にニクソン大統領が金とドルの交換を停止し、米中関係の改善という大転換をリードしたが、アメリカ一国で世界の半分をカバーしきれなくなったアメリカがこうした転換をいつかしなければならなかったのは確かなことであった。
そして、もしそうすると、中国のプレゼンスが科学技術と経済でここまで高まり、合わせてグローバル・サウスがここまで前面に出るようになった現在ではどのような変化が必要かが再度問われなければならない。
トランプの「予測不能性」はそうした要素なしに考えられないということが重要である。
危険すぎる「同盟国への罰金」という政策
実際、ニクソンと同じく共和党に属する(もっと言うと奴隷解放というこれも大転換を成し得たリンカーンと同じく共和党に属する)トランプの外交は従来のアメリカ外交の継続ではまったくない。
相当に明確な「アメリカ・ファースト」であり、いいかえれば「自国本位」であり、よって日本を含む同盟国への今後の要求は過去とは比較にならないものとなる。
岸田政権がバイデンに約束してしまった軍事予算のGDP比での倍化の厳格な実現にとどまることなく、GDP比3%への3倍化の可能性も現実にある。
軍事費の負担分担は「中国の膨張を抑えるため」であり、「北朝鮮の核放棄のため」であるから、そしてアメリカの軍事負担は「アメリカ国民の容認する限り」であるからである。それらの条件が満たされなければいくらでも増やすという論理となっているからである。
こうした「自国本位」の政策は純粋に経済的な分野でも高い確率で予測される。
それは第1期トランプ政権で国家安全保障補佐官を務め、第2期トランプ政権でも国務長官か国家安保補佐官になると見られているロバート・オブライエン氏が選挙中の9月10日に米政治専門紙「ザ・ヒル」に寄稿文を書いており、そこではアメリカの技術開発企業が中国など「敵国」からだけでなく韓国や日本、欧州企業からも不公正な競争条件に置かれており、この解消のためには少なくとも同盟国に巨額の罰金を賦課すべきだとしているからである。
これは彼が政権に復帰した時、実際にこの政策が導入されかねないことを意味しており、非常に危険である。
日本が今後も「同盟国」でい続けられるならば、つまり今後も変わらず対米従属を続けるなら、我々は今後ずっとこうした要求に応え続けなければならなくなる。
この一点だけをとってもそろそろ「同盟国」を止めなければならないと読者には訴えたい。
同じことをしても「同盟国」でなければ「罰金」は要らない、「同盟国」ならそれを払えというアメリカに今後もついて行くのかどうかが問われる選挙結果なのである。
日本にとって民主党の継続ならばよかったのか
ただし、こうしてトランプ政権の危険性を主張すればするほど、それではバイデン=ハリスなり民主党なら良かったのかという問いにも答えなければならない。
バイデンやハリス、そして民主党の「ものわかりの良さ」を評価するなら、過酷な要求はなされないとは思われるものの、それはその方が「同盟国の離反」という破局的な結果を招かずにすむと考えているだけのことで、「同盟国」たるものの本質がなくなるわけではない。
日本はこの「同盟国」を続けることによって、すでに日米繊維交渉の時代から何度も何度もひどい目に遭ってきた。今後、予測される事態が厳しいからと言って従来が良かったということには決してならないのである。
実際、このオブライエン氏の論文は「中国の膨張」やアメリカの弱体化のもとでどうすべきかという観点からのもので、それこそがニクソン(やリンカーン)に通じる「路線転換志向」のものの見方であった。
それは、トランプや共和党が「路線維持」をそもそも持続不可能と見ていることを意味する。あるいは、少し言い換えて、「同盟国」に対する過去とは比較にならない規模の負担分担要求をしなければアメリカ自身がもたなくなる、アメリカ国民の負担が限界を超えると考えているということになる。
トランプや共和党が「アメリカ・ファースト」という名の「自国本位主義」の権現のようになっているのはそのためである。
しかし、こうしてアメリカ国民の負担がどうなろうと我々には知ったことではない。アメリカが世界でしてきたこと、我々にしてきたことの是非こそが問われなければならないのであって、それこそが目的である。私は経済学者なのでその検討は主に経済問題にしぼられるが、である。
たとえば、トランプが「アメリカ・ファースト」を叫ぶ一方で、バイデンや民主党が叫ばなかったのは「世界の正義」を守る庇護者としての大国の自覚を持っていたからだとされる。
「民主党の善悪観」を鵜呑みにしてはならない
だが、アメリカが「世界の正義」としてやってきたことは殆どすべてがその真反対のものであった。
「民主主義の庇護者」を自称してアメリカは中東やウクライナに民主主義を導入したが、多数派宗教と少数派宗教が国内で激しく対立している国(ユーゴスラビアやアフガン、イラクやシリア)や多数派民族と少数派民族が国内で激しく対立している国(その典型がウクライナ)に多数決民主主義を導入してもそこで社会分裂と内戦しかもたらされなかったことを我々は知っているからである。
もっと言うと、たとえば民主党政権が在韓米軍を維持・強化してきたこと自体、それが朝鮮半島の緊張関係を少しも緩和できなかったのだから、それを肯定的に評価できない。
第1期トランプがやったことは、この緊張関係自体を壊そうとし、金正恩との2度の会談を行ったのもそのためであった。
私から見れば、この意味で第1期トランプがやっていたことの方がよほど「世界の正義」に合致する。バイデン=ハリスやアメリカ民主党の善悪観をそのまま鵜吞みにしてはならないのである。
写真/shutterstock
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