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「トレンドを見誤った」営業利益9割減で正念場の日産、カルロス・ゴーン独裁時代との“奇妙な符合”

集英社オンライン / 2024年12月12日 7時0分

リユース市場活況も「大黒屋」ひとり負けの謎…インバウンドの「爆買い」で急成長も今や“崖っぷち”3つのワケ〉から続く

一時は立て直しに成功した日産自動車が、再び傾きかけている。2025年3月期上期は9割もの営業減益の見込みとなった。今期の通期営業利益は期初に5.5%の増益を予想していたが、7割を超える減益に引き下げている。また、半年で2度にわたる下方修正も行なった。日産は今期から販売台数の拡大を目指していたが、それが失敗。その姿はカルロス・ゴーン氏が権力を握っていた時代と酷似している。

【グラフ】日産自動車の業績推移

EVでは他社に先行した日産だが…

日産は今期通期売上高を前期比10.4%増の14兆円と予想していた。

それを11月7日に0.1%増の12兆7000億円に改め、1割近い増収から横ばいへと修正したのだ。

日産の主力市場の一つが北米で、当初の今期販売台数は前期比13.3%増の143万台を計画していた。

前期の販売台数は同23.3%増の126万2000台。コロナ禍からの復調が鮮明で、2年連続の2桁増になるはずだった。

しかも、2019年3月期の販売台数は144万4000台。今期の販売計画を達成すればコロナ禍前の水準まで回復したことになり、復調を印象づけるに十分なものだったのだ。

ところが、上半期の販売実績を鑑みて今期の北米の販売台数は前期比6.2%増の134万台に引き下げた。

今期の上半期における営業利益は329億円、前年同期間と比較して3038億円減少している。

そのうち、1945億円(64.0%)は販売台数や販売費用によるもので、特に「販売費用/価格改定」が1027億円のマイナスと、大きな要因になっていることがわかる。

日産は主力の北米エリアで販売代理店に対するインセンティブを引き上げた可能性が高く、日本経済新聞は2024年7~9月の日産のインセンティブを1台平均4000ドルとしており、業界平均よりも3割高いと指摘している(「日産、不振の米国で生産3割減 世界販売目標達成危うく」)。

2024年1月に日産の米国部門は主力車ローグの改良新型を間もなく発売すると発表。

これは旧モデルを売り切る前に新型の市場投入に踏み切るものであり、インセンティブを高くしなければ、旧型の在庫が積み上がる懸念もあったのである。

ただし、誤算もあった。

現在のアメリカで人気なのは、EVよりも安価で燃費がよく、航続距離も満足できるハイブリッド車だ。

日産はe-POWERという駆動力をモーターで生み出す技術を開発しているが、高速燃費が悪いために北米エリアではガソリン車を中心に販売してきており、日産はアメリカという主力市場において、売れる車が少ないのだ。

販売台数増を掲げた日産であったが、市場が変化して売れる車が少なかったうえ、販売戦略を間違えて競合よりもインセンティブを引き上げなければならず、販売台数も伸びずに利益を削る結果となったというわけである。

日産の山積する経営課題を引き継いだ内田氏

日産は2020年3月期に6712億円という巨額の純損失を計上したが、これは日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の負の遺産とも言うべきものだ。

ゴーン氏は2017年に日産、三菱、ルノーの3社連合で2022年までにグローバル販売台数を1400万台に拡大すると公言。

当時の販売台数は1061万台であり、大胆な販売戦略の引き上げ策を打ち出した。

しかし、それが無茶なものだったことは、数字が物語っている。

2020年3月期の巨額損失の主要因が5220億円もの事業用資産の減損損失だ。将来の台数見通しに基づき、生産能力が余剰であるために減損損失を出さざるを得なかったのだ。

ただし、この会計処理によって減価償却費が削減されて利益が出やすい状態となった。

ゴーン氏は失脚し、2019年12月に内田誠氏がCEOに就任。2020年5月に収益性を重視する事業構造改革計画「Nissan NEXT」を発表し、2024年3月期に営業利益率を5%にするという目標を掲げた。

生産能力と車種数をそれぞれ20%引き下げ、北米などのコアマーケットに集中して一般管理費も削減するというものだった。

日産は2024年3月期に営業利益率が4.5%となり、目標に近い水準まで高まった。一定の成果を出したのだ。

2024年3月に中期経営計画「The Arc」を発表。100万台の販売増などを目標に掲げ、構造改革からの反転攻勢に打って出たのだ。

ゴーン氏と内田氏が販売台数の増加にこだわった背景にEVがある。

日産は2010年に世界初の量産型電気自動車リーフを発売し、この領域での先駆者となった。

ゴーン氏による典型的なトップダウン型の意思決定で始まったプロジェクトである。

リーフをはじめとしたEVの開発や製造には巨額の投資が必要であり、販売台数を拡大して収益性を高め、次世代車の技術開発に必要な資金を確保する必要があった。

2015年にはテスラがModel Xの出荷を開始するなど、EVを取り巻く環境は大きく変化していたため、ゴーン氏にも焦りがあったはずだ。

アメリカ市場でEVの覇者になるのは?

日産はアメリカでEVセダンの開発を進めており、2025年からの生産を計画していた。

ミシシッピ州のキャントン工場に5億ドルを投資し、日産とインフィニティブランドの新型EVを生産するというものだ。

日産はアメリカにおける販売数の4割をEVにするという計画を立てていた。

足元の販売台数に弾みをつけてシェアを高め、EVへの移行をスムーズに進めようとしたのだろう。

「The Arc」には「地域ごとに最適化した戦略により、販売台数増とEV移行の準備を推進」とある。

アメリカでの日産ブランドの浸透を図り、次なるEV需要を獲得しようと青写真を描いていた様子が浮かび上がる。

急伸するBYDはアメリカへの進出に苦心しており、日産がEVシェア拡大に布石を打とうとしたとも言えるだろう。

しかし、アメリカでのEV販売の伸びが鈍化したことを受け、EVセダン2車種の開発は延期が決定している。

日産はアメリカ法人の従業員を対象に希望退職者を募集し、6%程度が応募したことが明らかになっている。

トロイカ体制は早くも崩壊

経営判断を下すにあたって、経営トップに権力が集中したこともよく似ている。

ゴーン氏の右腕と称された元COOの志賀俊之氏は2015年に代表権を外れた。官民ファンドの産業革新機構のトップに就任することが決定し、利益相反を懸念して距離をとったのだ。

副社長としてゴーン氏を長らく支えたパトリック・ペラタ氏も2012年9月にセールスフォースに転身している。

内田氏がCEOに就任し、経営を支えていたのはアシュワニ・グプタCOO、関潤副COOの2名だった。

これは日産トロイカ体制と呼ばれ、経営再建に期待されていた。新体制になった内田氏は、社員と経営層が一丸となってワンチームとして進めたいと語っていた。

しかし、関氏は2019年12月に日本電産からのラブコールで退任すると発表。アシュワニ・グプタ氏は2023年6月に任期満了で退任した。

これ以降、ナンバー2のCOOは不在となり、内田氏に権限を集中させたのである。

内田氏が経営トップに就任して5年。一般的な任期を考えれば、交代してもおかしくはないタイミングだ。

しかも、日産は東芝を非上場化に追い込んだアクティビスト、エフィッシモが株式を取得したことが明らかになっている。

日産車体の親子上場を解消するよう求めることが背景にありそうだが、日産の経営陣に揺さぶりをかける可能性もある。

内田氏は当面、難しいかじ取りが求められるだろう。

取材・文/不破聡 写真/Shutterstock

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