「客が笑っていないのを、無視できない自分が悔しい」“テレビから消えた芸人”村本大輔が語ったニューヨーク・スタンダップ修行の苦悩
集英社オンライン / 2024年12月12日 18時0分
テレビから消えた芸人――2024年2月に渡米し、スタンダップコメディアンとして精力的に活動している村本大輔(44)。言葉も環境もちがうなか、「翼がない状態」で奮闘を続ける村本は、ニューヨークで何を感じているのか。12月20日に日本で行なわれるライブを前に独占インタビューをお届けする。
”がんばってるから”と送られる拍手は、ちょっと屈辱的
――2月に渡米されてから、現地ではどのような活動を。
村本大輔(以下同)ニューヨークのコメディクラブやバーで、いろいろなオープンマイクに出てます。オープンマイクというのは、入場料を払えば誰でもステージに上がって自由に言いたいことを言えるスタンダップのステージ。そこでほとんど毎晩、英語で5分のネタをやってます。
だいたい朝は8時に起きて、コーヒーショップでネタを作って、ChatGTPで英訳。それをアメリカに住んでる友だちに送って微調整してから、丸暗記する感じで。
――日本では息をもつかせぬマシンガントークが村本さんの代名詞でしたが、英語でのネタ披露は苦労されてますか。
そうね、かなり。丸暗記って、定着するまでに数日かかるときもあって。1回目は一番ひどくて、舞台の上でもがんばって思い出しながらなんとかしゃべってる感じ。そしてそれを、お客さんも固唾を呑んで見守るみたいな。優しい眼差しで見てくれる人もいれば、興味なさげにスマホ見てる人もいるけど。
――回を重ねるごとに、徐々に定着していく感じですか。
そうなんだけど、ようやくペラペラ話せるようになったところで、全くウケなかったりするわけ。要は、語学力の問題じゃなくて、シンプルにネタの問題だったと。そういうときに「この1週間なんやったん…」って落ち込んだりします。
――アメリカのコメディクラブに立たれて、ここが一番上手くいってない、ここが悔しいと思うことは何ですか?
うーん、なんやろね…。しゃべれないのに、必死でがんばってるから送られる拍手とかは、ちょっと屈辱的ですね。しゃべり方が下手だからかわいいと思われるとか。
もしも翼があったら、じゃないですけど、俺がペラペラしゃべれてたら、もっともっといいリズムでいけて、笑わせられるのに…とかってことですかね。頭の中では自由に飛び回れるんですけど、いざ口に出すと「アイ、アム、ア…」となってしまう感じがね。
ただ、ウケないこともそうだけど、お客さんが笑っていないのを、自分が無視できないということも悔しいというか。
――どういうことですか。
日本のお笑いって、万人を笑わせないといけないっていう概念が色濃くあるように思ってて。例えばバラエティー番組でも、誰も笑わなかったら「スベった」って言われる。つまりお客さんが「ウケた」かどうかが重要視されている。
でもアメリカのコメディは、ウケなかろうが、みんな自分が言いたいことを言って、それで面白いと思ってくれた人が集まってファンになってくれる。そもそも「ウケる」も「スベる」もないんですよ。
この価値観って、日本にいたら、特によしもとにいたらなかなか覆せないですよ。毎日、「ウケたやん」「スベったやん」が飛び交ってるわけですから。
だから早く、毎回、目の前のことに合わせなくてもいいという自分になりたい。もっと自分勝手で、ワンマンでいいということを、日本から出てきて感じてます。
「日本人」というキャラクターを簡単に使いたくない
――アメリカのスタンダップコメディには、ジョークにしていいことと悪いことの暗黙のルールみたいなものは、共通認識としてあるんですか?
それについていうと、「アメリカでは…」と語れないくらい、コメディの世界も分断しているのを感じますね。
ジョー・ローガンという有名な、ポッドキャストの登録者数もめちゃくちゃ多いトランプ支持者のコメディアンがいて。彼はテキサスのほうにある「コメディ・マザーシップ」というコメディクラブのオーナーなんだけど、そこにはふたつの部屋があって。ひとつが「ファット・マン」、もうひとつが「リトル・ボーイ」。つまり長崎と広島に投下されたふたつの原爆の名前が付けられてるのよ。
そういうのを見ると、これはやったろう、こいつらにはガツンと言ってやろう、というモードになるんだけど、そのコメディクラブでは、トランスジェンダーの人のこともめっちゃネタにする。なんなら傷つくほうが悪いっていうくらいのスタンスで。
その一方で、ニューヨークのコメディクラブなんかだと、ポリティカルコレクトネスを気にしながら、すごくリベラルにやってる。だからアメリカのコメディも、トランプとカマラの大統領選が示すように、一筋縄では語れないんだよね。
――これまで村本さんは、ネタの中で日本社会におけるマイノリティーの存在に触れることが多かったですよね。今度はアメリカという多民族社会の中で、自身がマイノリティーな存在になった。そのことがネタ作りにどう影響していますか?
日本人がアメリカに行くと、みんな「日本人である」ということを使いたがるねん。日本とアメリカのわかりやすい違いとか、それぞれの固定観念とかをネタにする。要は「こういうのウケるでしょ」ってやつです。でも僕はそういう、自分のルーツを使ったものはなるべく削ってる。
この前、知りあいのシェフともそういう話になったんだけど、例えばキャビアとフォアグラとか、マグロにウニとか、確かに簡単にお客さんに喜ばれるけど、そういうベタなことはしたくないよねって。
笑いの取り方も、「日本人」というキャラクターを使えば手っ取り早いけど、逆にそこを削ぎ落していくと、「自分って一体何者なんだろう」っていう問いにぶつかる。言うことがなくなって、なくなって、本当にしんどくなったときに、僕はこう思う、っていう自分特有の視点が見えてきたりするもので。
だから日本にいて同じことを繰り返すことよりも、違う文化の中で、少数派として、コメディアンとして、自分が何者なのかを確認する作業、突き詰めていく作業をしていったときに、面白い芸人になれるんじゃないかなって。
取材・文/金愛香
に続く
ウーマンラッシュアワー村本大輔、渡米後初となるトークライブ「Call me the GOAT at ニッショーホール」
詳細はこちら https://live.yoshimoto.co.jp/live/live-14706/
外部リンク
- 【後編】「『差別された』と騒ぐ前に、自分は笑いで返したい」ニューヨークから帰国したウーマン村本大輔「今が自分史上最高」と言えるワケ
- 村本大輔が考える”ジョークと差別の境界線”「世間の言葉に対する免疫力が下がってきている」中、コメディアンのあるべき姿とは
- 「テレビで忙しいのに、漫才のネタまで作って偉い? それ、逆やん」村本大輔が語るスタンダップコメディと日本のお笑いの決定的な違い
- 「テレビから消えた芸人」ウーマン村本を追いかけた映画『アイアム ア コメディアン』が突きつける日本人の”生きづらさ”の正体
- 「ダウンタウンみたいなコンビが来るかもしれへんで?」と言われ、そんなん無理やと思っていたらほんまに来た…伝説のお笑い講師が、思わず「キミは天才だ」と言ってしまった2人の芸人
この記事に関連するニュース
-
Mー1王者も恐れる、漫才で「滑った」ときのあの感覚 ノンスタ石田×ギャロップ林の同期対談が実現
東洋経済オンライン / 2024年12月21日 8時5分
-
ノンスタ石田明、M-1審査員のオファーに当初は…。反対だった“初の漫才分析本”を出したワケ
日刊SPA! / 2024年12月16日 8時53分
-
「これは差別なのか、それとも…」ウーマン村本大輔がニューヨークの舞台で自分の拙い発音をマネされて考えたこと
集英社オンライン / 2024年12月12日 18時0分
-
【M-1】お笑いの賞レースで「つかみ」は必要か? 2023年M-1決勝での令和ロマンが教えてくれた「つかみ」の正解
集英社オンライン / 2024年12月7日 11時0分
-
渡米後初となるトークライブ!ウーマンラッシュアワー村本 独演会「Call me the GOAT at ニッショーホール」本人コメント&ビジュアル解禁!
PR TIMES / 2024年12月3日 17時45分
ランキング
-
1「海に眠るダイヤモンド」最終回、ギヤマンの色に注目 朝子(杉咲花)との共通点に「意味があるんだ」「まさにダイヤモンド」の声
モデルプレス / 2024年12月22日 23時31分
-
2【M-1】審査員に松本人志不在の今大会 ネット「何の問題もない」「松本人志のコメント恋しい」
スポニチアネックス / 2024年12月22日 20時42分
-
3【M-1】令和ロマンが史上初の連覇達成!9人中5票“歴史的大会”で有言実行「去年の倍うれしいです!」
スポニチアネックス / 2024年12月22日 22時7分
-
41月に次女出産の安めぐみ、43歳誕生日を報告「お若い」「歳を重ねますます可愛いです」の声
スポーツ報知 / 2024年12月22日 17時56分
-
5明石家さんま 若い女性へ送るLINE文面の悩みを告白「何で突然びっくりマークが良くなった?」
スポニチアネックス / 2024年12月22日 16時23分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください