「連絡もらうのも迷惑です」“アラ還”で発達障害を宣告され、仕事も友人も失った男が2024年の最後にみつけた「希望」
集英社オンライン / 2024年12月21日 13時0分
〈アラ還・独身で受けたまさかの発達障害通告。カウンセラーは「やりたいことだけやりなさい」…知人も離れ「いっそのこと…」と思った瞬間に出会えた生き方のヒント〉から続く
独身フリーライターの桑原カズヒサ氏は、還暦を間近に控えた58歳のときに予期せず大学病院で発達障害の宣告を受ける。レギュラーの仕事も失い、酒に溺れ、現実から目を逸らす日々で、彼がいちばん辛かったこととはなんだったのか……。
発達障害診断より辛かったことは…
胸の中心を刃物で抉られるような痛みが走る。目を開くと窓から朝日が差し込んでいる。
2024年の前半は、いつもこんなふうに目覚めていた。
コロナ禍でレギュラーの仕事を失った矢先に、大学病院でまさかの発達障害宣告を受けた。予想外のことが立て続けに起こり途方に暮れた。
しかもそのとき、僕はすでに還暦間近の58歳。
今年になっても経済状況は改善しなかった。体調も悪化の一途を辿り、心因性胸痛に悩まされる日々が続いていた。
この間、いちばん辛かったのは診断結果を告げた友だちが次々と音信不通になったことだ。
大学の同級生の中で唯一連絡を取り合っていた、出版社勤務の友人に相談を持ちかけると「こちらも毎日忙しく疲れています(中略)はっきり言って連絡もらうのは迷惑です」というメールが届いた。
頭の中が真っ白になった。彼は僕のいちばん古い友だちだったのだ。
他にもふたり、過去には一緒に野球観戦したり、英会話教室に通ったりしたことのある友だちとも連絡がとれなくなった。
僕はもともと友だちが少ない。彼らはそんな僕が、最も頼りにしていた人々でもあった。
皆、中年の男性サラリーマンだった。彼らが去っていき、仕事とは無関係に知り合ったプライベートの友人はゼロになった。
それは発達障害の診断より辛いことであり、ただただ途方に暮れるしかなかった。
「頭に誰かが捨てていったガラクタが詰まっているようだった」
せめて、もう少し若ければと思った。
レギュラー仕事を失ったこともあり、30年以上続けたライター業が自分に向いているかも疑わしくなってきた。
学生時代や20代のうちに発達障害に気づいた人が、自分の適性に合った仕事を探して天職に巡り逢えた事例をネット記事で読んだが、今の僕に自分探しをしている余力はとてもではないが、ない。
将来について考えると、ベッドに横たわっていても恐怖で脚がすくんだ。
気がつけば就寝前に睡眠導入剤と酒を同時に飲むようになっていた。胸痛と飲酒は関係しているようだった。
医者には何度も止められたが、それでもやめられなかった。
こんなことをしていたら寿命が縮む。素人でも分かることだ。でも、その頃の僕はそれでもいいとさえ思っていた。
生活費を捻出するために原稿を書き、単発のアルバイトをする。今はとにかく凌ぐしかない。
それ以外、何も考えられない。
頭に誰かが捨てていったガラクタが詰まっているようだった。
そんな中、東京で開催された「発達障害当事者会フォーラム2024」に参加して、初めて多くの当事者と話す機会を得た。
参加者は皆、若く、どうみても僕は最年長だ。
関西で当事者グループを主宰している男性に、発達障害診断を伝えたら友人が離れていったと告げると「あぁ、それ発達障害あるあるですね」と言われた。
彼曰く、多くの当事者が似たような経験をしている。「それ、かえってよかったんですよ。今あなたの周りに残っている人が本当の友だちだと分かったでしょ」
彼の言葉を聞いてハッとした。この間、すべてを失った気になっていたが、そうではなかった。
僕の周りには手を差し伸べてくれる友だちも確実に存在したのだ。
試行錯誤の日々を過ごす2024年末
ある知人編集者は、ひさしぶりに連絡したにもかかわらず、こちらの苦境を知り仕事をふってくれた。
単発のアルバイトを紹介してくれる友もいた。「きっと、なんとかなるよ」と励ましてくれる長年の仕事仲間もいた。
本来なら、その人たちに感謝すべきなのに、勝手に自暴自棄になりかけていたのだ。
フォーラムで知り合った女性がこんなアドバイスをくれた。
「いちいち他人に障害があると告げない方がいいですよ。ただ、こんなことが苦手ですと伝えるだけで人間関係が楽になりますよ」
なるほど、と思った。
診断を受けてから僕なりに発達障害について学んでいたが、この障害を持つ人は共感力が低く、コミュニケーション能力に問題があるという。
思い当たるフシは多々あった。離れていった友人たちも、会社や家庭でいろんな悩みを抱えていただろう。
なのに、僕は相手の近況について聞きもせず、一方的に言いたいことをまくし立てていた。
だから、引かれてしまったのかもしれない。
生活を立て直すための具体的なプランは見えてこないが、今後はこれまでよりも他人の気持ちを思いやるようにしようと決心した。それができなければ、何も始まらないとも思った。
こんなこと還暦になって気づいているようでは遅い。目の前のことに手一杯で心の余裕がない状態で、自分の態度を矯正できるか自信はないのだが……。
でも生きていくためにはやるしかないし、そのことが今も力になってくれている友人知人の恩に報いることにも繋がるはずだ。
そう思うと少しだけ気持ちが前向きになった。飲酒量も徐々に減っていき、最近は全く飲まない日も増えた。
飲んでない日の翌日は胸痛が起こらない。そんな日は体も軽い。
それでも、まだ日没近くなると心細くなり、時々、酒を飲んでしまう日もあるが、最悪の時期に比べれば頻度は減っている。
将来について心配ばかりするのはやめて、今できることだけに集中しようと思いつつも、試行錯誤の真っ只中にいる2024年の年末であった。
文/桑原カズヒサ
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