「罵詈雑言もデマも何でもあり」斎藤知事、ドイツ極右政党、トランプ…ポピュリズムが吹き荒れた2024年。騙されないための唯一の処方箋とは?
集英社オンライン / 2024年12月23日 11時0分
ここ最近、SNSが政治に与える影響が議論され始めてきたが、それは日本だけの問題ではない。2024年はポピュリズム(大衆からの人気を得ることを第一とする政治思想や活動)が世界各地でその勢力を拡大し、政治の地図を書き換える年となった。背景には、加速する一方の経済格差や地域間格差、移民の増加や多文化主義の進展にともなう文化的アイデンティの揺らぎ、SNSを中心とした情報環境の変化……等々、複合的な要因があるとされている。分断の背景を国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏が解説する。
反エリート主義型のポピュリズム
各国、各地域で表出しているポピュリズムの形態は同じとは限らない。しかし、先進国における昨今のポピュリズムは、いずれも反エリート主義と結びつく傾向が強い。そう指摘するのは、国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏だ。
モーリー氏(以下同)「たとえばドイツ。今年、極右政党『AfD(ドイツのための選択肢)』が大躍進しましたが、その背景には、社会的、経済的、政治的要因がそれぞれ絡み合っています。
特に旧東ドイツ地域でAfDが強い支持を集めていますが、これは東西ドイツ統一後、30年以上が経過した今でも旧東側地域のインフラや経済が遅れていること。さらに文化的にも社会的にも“東ドイツ人”は西ドイツ側の人々にずっと見下される傾向があること。そうした構造的格差への抵抗、西側の支配階級層に対する反発も少なからずあったと見られています」
メルケル政権による100万人規模のシリア難民受け入れによる影響は、東側住民により重くのしかかり『自分たちの生活水準がさらに下がる』という強い不満を生むことになった。そんな“東ドイツ人”を、西ドイツ側の人たち、知識層は『不寛容でかわいそうな人たち』と見る向きもあったとも言われている。
「経済難でギリギリの生活を送る東側住民にとって、それは屈辱的な視線であったことでしょう。そうやって積み重ねられた負の感情が渦巻く中で、 “オレたちの代弁者”を装う政治家やデマゴーグが、既存政党への不満やエリート層への憤りを煽った。その結果が、ドイツ東部各州での州議会選挙におけるAfDの躍進に影響を与えました」
反エリート主義型のポピュリズムは、ドイツだけではなく欧州全体、アメリカ、さらに日本でも広がりを見せている。
政治家や官僚などの既存の権力構造に対する不信感が、新しい政治勢力の台頭を促す一方で、そこに付随する過激なメッセージが、社会の分断や対立をさらに深めている。
既存の政治エリートによる圧力
「反エリート主義型ポピュリズムにはテンプレートがあります。もちろんそれぞれの国や地域で特有の“文脈”もあり、主張自体はまったく異なります。しかし、ポピュリズム的アプローチで既存政党に反発を覚える有権者の心をつかむ、という点においては非常に似通っている。
誤解を恐れず言うと、日本で言えば大阪維新の会の手法はAfDっぽい。そもそも大阪維新の会の台頭は、中央(東京)に対する地方の反発や、既存政治システムへの批判的態度と密接に関連しています。
ストレートに申しますと、大阪の有権者の中で、中央(≒東京)の支配階級層に対する反骨心…というより嫌悪に近い感情があると思っています。維新は、そんな大阪のローカルアイデンティティをテコに支持を集めている。その構造そのものは、ドイツ東部におけるAfD躍進を支えたそれとほぼ同じなんですよね」
この秋、兵庫県知事選で繰り広げられた“お祭り騒ぎ”もまた、同じ構造で捉えられるとモーリー氏。
同選挙は、前知事でもあった斎藤元彦氏がパワハラ疑惑などで不信任を受けて失職、再選を目指す形で行われたが、「既存の政治エリートによる圧力」として斎藤氏自身がこの問題を利用した側面がある。
斎藤陣営は「孤立無援」を強調しつつ、既存の政治体制に対する反発を前面に打ち出した。さらに支持者たちがマスメディアによる報道を『偏向的で不公平』と批判することで、有権者の間に『自分たちの声が正当に扱われていない』という感情を醸成し、連帯感を作り上げていった。
「もちろん斎藤氏に対するパワハラ疑惑を過剰に取り上げるなど、マスメディアの報道姿勢に問題がなかったわけではないでしょうが、マスメディアを巨悪化することで、『既存秩序を壊してやろう』という陣営側と有権者側の感情が見事に重なりました。
ネットやSNSを通じて拡散された斎藤陣営、ないしは斎藤氏を応援するアカウントの発信では、『斎藤さんは既得権益層に改革を阻まれた被害者だ』という前提に立ち、(新聞やテレビが報じない)センセーショナルな話題に踏み込み、『真実を暴く』というポーズを取った。“真実”を暴くためであれば、ルールを逸脱することや、お行儀悪く他者を罵ることすら許容されました」
洋の東西を問わず、反支配階級層運動において「行儀の悪さ」は許容され、むしろカリスマ性の一部として機能する傾向がある。
最大のスターはアメリカのドナルド・トランプ次期大統領であり、また彼を支える閣僚候補たちもその発言内容や行動は過激だ。
感情的な分断を増幅させる装置として、SNSを悪用
日本でも、ポピュリズム的な要素の強い政党のリーダーは “お行儀の悪さ”が目立つ。
「日本保守党の百田尚樹さんの“子宮摘出発言”なんて、通常であれば失脚につながるけれども、そこは許され、れいわ新選組の山本太郎代表も過去にデマや風評被害を広める発言を繰り返していますが、支持者はそれを許容する。立花孝志さんについては……言うまでもありません。テレビやラジオ、新聞・雑誌など既存のメディアに対しては、高潔で慎重な振る舞いが求められ、小さなミスや軽率な発言は厳しく追及され、どこまでも揚げ足を取られるいっぽうで、ポピュリストは“お行儀の悪さ”さえ武器にして支持を集めることができる」
このムーブメントを加速させているのがSNSである。X(旧Twitter)では、既存のメディアや既得権益層だとされる人々の発言に対し、重箱の隅を突くような揚げ足取りが横行している。
一方で、ポピュリストの発言はどんな過激なものでも偽りのない“本音”として歓迎される傾向にある。発言の内容ではなく“誰が言ったか”によって批判や支持の基準が変わる。こうしたダブルスタンダードが、さらなる分断を生んでいる。
「社会全体の感情的な分断を可視化し、増幅させる装置としてのSNSを、無節操なポピュリストたちが悪用しているのは誰の目から見ても明らかです」
私たち一人一人の処方箋
感情的なメッセージやセンセーショナルな主張が優先される言論空間。真偽不確かな情報や明らかな嘘、誇張が一気に拡散され、それが一種のエンターテインメントとして消費されている。
そしてただのエンタメだったものが、実際の選挙結果にも影響を及ぼすようになっている。
ただし、日本のポピュリズムは「まだマシ」だとモーリー氏はつぶやく。
「日本は良くも悪くも“口だけ”文化。財務省や中央銀行、その他行政機関に対する批判はあっても、それを文字通り“壊してやろう”というアクションにはつながっていかない。デモに参加したり、ビラを配るような実行動に移る人も限られている。憤りが、すぐに行動に移らないんですよ。でもアメリカでは、銃を持って集会に行くし、車を何百キロも走らせてデモに参加したりする。国民性として暴走し始めたら、止まらないところがある。それに比べたら、日本はまだ“ブレーキ”が利いている社会なのかなとは思いますね」
ポピュリズムは単なる政治運動ではなく、社会構造や市民感情を映し出す鏡。モーリー氏の指摘は、現代社会が抱える根本的な課題を浮き彫りにしている。
現代ではトランプ氏をはじめ、右翼的な思想が席巻しているが、言わずもがな60年代の反権力闘争では、左翼的な思想がポピュリズムを支えていた。
時代により形を変えるポピュリズムを冷静に捉え、事実に基づいた議論を進めるために、すべきこととはなんだろうか。
「私たち一人ひとりが、SNSで流れる情報を批判的に読み解き、その上で既存メディアから発信される情報も、無批判に信じることはやめ、常に真実とは何かを冷静に考えていく力を持つことではないでしょうか。要は、嘘を嘘だと見抜ける人になること。結局、処方箋はそれしかありません」
文/モーリー・ロバートソン氏
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