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大手ビール会社を50代で早期退職、五島列島でクラフトジン造りへ「当時、仕事に不満はなかったけど…」おじさん3人がセカンドライフを選んだワケ【2024 インタビュー記事 3位】

集英社オンライン / 2024年12月20日 8時0分

〈一夫多妻のヒモ男〉妻は4人、子ども10人中8人母親が別…“幼卒”36歳無職男性のモテすぎ人生「働く気はない。ヒモの才能を使わないのはもったいない」最大16人の彼女がいたことも…【2024 インタビュー記事 2位】〉から続く

2024年度(1月~12月)に反響の大きかったインタビュー記事ベスト10をお届けする。第3位は、50代で脱サラしたおじさん3人が、夢を追いかけて五島列島へ移住した記事だった(初公開日:2024年9月8日)。キリンビールで知られる飲料メーカー、キリンホールディングスを早期退職し、長崎県五島列島でのクラフトジン造りを次の生業にすると決めた男たちがいる。大企業で安定した地位に就き、定年退職まであと数年という3人がなぜ早期退職をし、家族と離れて日本列島の西の果てにある離島に移住、クラフトジンの蒸留所を始めたのか。(前後編の前編)

【画像】早期退職した3人が立ち上げた「五島つばき蒸溜所」

働くこと、しかも現場が大好きな自分の人生、この後どうするのか

門田クニヒコさん(53)、小元俊祐さん(59)、鬼頭英明さん(60)はキリンビールをはじめとする飲料メーカー、キリンホールディングスの元同僚だった。

長崎県五島列島最大の島、福江島で「五島つばき蒸溜所」を興し、代表となった門田クニヒコさんはキリン時代、主に商品開発に携わってきた。

「47都道府県の一番搾り」「氷結ストロング」などのヒット商品を生み出し、キリンの看板を背負って多くの人をお酒で幸せにしてきたという自負がある門田さんだが、50歳を契機にセカンドライフについて考え始めたという。

「当時、仕事に不満はありませんでした。ただ、50歳になる際の会社の研修で『自分年表』を書かされるんですが、その時あらためて『キリンで仕事ができる時間はあと少しなんだ』と自覚して。仕事が大好きだし、マネジメントよりも現場が大好き。この後の自分の人生は、どうするのか。そう自問した結果、思い切って会社を飛び出し、新しいステージで、大量消費とは対照的なお酒造りへの挑戦を決めました」(門田氏)

一緒に起業する仲間として門田さんが誘ったのは、キリンの商品開発研究所の先輩だった小元俊祐さんと、「富士山麓」などのウィスキーをはじめとする、さまざまな酒のブレンダーとして活躍してきた鬼頭英明さんだ。

クラフトジンを選んだのは、表現の自由度が高く、「風土」を表す酒としてオリジナリティを出せると思ったから。

蒸留所の候補地としては静岡市、愛媛県西条市などにもリサーチに訪れたが、五島列島の歴史と風景、そして、つばきの木が決め手となった。

五島に1千万本以上自生し、果実から採れる油は食用にもなるつばきをキーボタニカルに、この離島でクラフトジンを造ることにした。

新たな酒に求めた「風景のアロマ」

島で蒸留所を建てる場所を探す中、3人が心ひかれたのが、半泊(はんとまり)という小さな浜辺の集落だ。

この浜辺は江戸時代末期、キリシタン弾圧から逃れるために、長崎の大村藩からやってきた数家族が上陸。土地が狭く、半数だけが留まって住み着いたため、半泊と呼ばれるようになった。

今では5世帯6人だけが住むこの集落には、キリスト教解禁後の大正11年に建てられた小さな半泊教会があり、たった一人の信徒さんが祈りを続ける。

島の中心部から車で30分、くねくねとした細い山道を抜けてやっと辿り着く小さな入り江の風景と、厳しい禁教時代にも人々が祈りを受け継いできた精神性、その暮らしに寄り添うつばき。

慈しみを感じるこの場所でなら、自分たちが新たな酒に求める「風景のアロマ」を造れると、3人は教会の隣りに蒸留所を建てることを決めたのだった。

「キリンのような大企業では絶対に会議を通らない(笑)」

取材当日、筆者が蒸留所に着くと、マーケティングディレクターの小元俊祐さんが、隣の半泊教会から案内を始めてくれた。

元々、バーボンウイスキー「フォアローゼズ」が好きでキリンシーグラムに入社した小元さん。その後念願叶い、同酒のブランドマネジャー職も経験した。

門田さんが「怒ったところを見たことがない」と全幅の信頼を寄せる先輩だ。

「ジンというのはジュニパーベリー(ねずの実)を使えばあとは自由に造れるお酒なんですね。ここではつばきをキーボタニカルに、地元のゆず、和紅茶など全17種類のボタニカル(香味植物)を1日1種類ずつ別々に蒸留。それを月に3回ブレンドし、1回のブレンドでボトル千本分、今は1か月に3千本分造っていますが注文に追い付かず、これから5千本に増やせるよう、倉庫を別に建てているところです」(小元氏)

小元さんが説明してくれたような、ボタニカルを1種類ずつ別々に蒸留するのは、ジン造りの常識においては異例で、一般的には全て一緒に蒸留するのだそう。つまり、3人が選択したのは、とんでもなく手間と時間のかかる手法なのだ。

「ここでやっていることは、不確定要素の掛け合わせで、キリンのような大企業では絶対に会議を通らない(笑)。でも、不安は全然なかったです。条件付きで事業を引き継ぐなどではなく、3人のアイデアでゼロから始めるんだから多分うまくいく。そう思ってました。でも、もしもうまくいかなかったら、この年ならまだやり直しがきくなと」(小元氏)

とんでもなく手間暇をかけた蒸留、ブレンドを手掛けるのが、門田さんが「天才」と評するブレンダー、鬼頭さんだ。

キリンの富士御殿場蒸溜所で33年間勤めた、酒造りのエクスパートだったが、門田さんから独立の誘いを受け、なんと2週間後に門田さんより先にキリンに辞表を出してしまったという。

「キリン時代は最大公約数のお客さんが美味しいと喜び、楽しんでもらえる味をと、いろいろなお酒を造ってきました。スピリッツ、ワイン、リキュール、焼酎…でも、ある時から、特定の場所でそこの特産品を使ったお酒造りをしてみたいと思うようになって。

そんな3年前、門田から誘いがあって、渡りに船と辞表を出した(笑)。ちょうど後を任せられる人が見つかり、このタイミングを逃したら飛び出せないかもと思った」(鬼頭氏)

こうして3人は銀行の融資と全員の退職金、クラウドファンディングを合わせて資金1億円を調達し、2022年に福江島に移住。同夏、半泊の静かな浜辺で蒸留所の工事が始まり、12月「五島つばき蒸溜所」開業となった。

取材・文/中島早苗 
NHK『いいいじゅー!!』(BS 毎週金曜午後0時~0時30分 放送)

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