デビュー15周年・朝井リョウ「直木賞を受賞した後に就職したわけではなく…」もはや若手作家ではない35歳がめざす「わけわかんない人」
集英社オンライン / 2025年1月1日 8時0分
〈作家・朝井リョウ(35)「本来、小説が持つ武器を諦めたくなかった」あらすじを一切明かさずに売り出した『生殖記』に込めた想い〉から続く
早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』(集英社、以下『桐島』)で、第22回小説すばる新人賞を受賞。その鮮烈なデビューから今年、15周年を迎える作家・朝井リョウさん。戦後最年少で直木賞を受賞するなど、“早咲き”のイメージが強い朝井さんだが、「年齢の物珍しさがなくなる時期が、これから本格的に始まる」との実感も。文芸界での現在地と、これからの展望を聞いた。(前後編の後編)
鮮烈なデビュー飾るも本心は「一発屋になると思っていた」
――朝井さんはいつから小説家になりたいと思われてたんですか。
朝井リョウ(以下、同) 子どもの頃、3歳上の姉の真似事をよくしていたんですが、姉が自由帳に動物の物語を書くみたいなことをしていて、それも真似するようになったんですね。その作業がすごく楽しくて。
それを小学校、中学校とずっと続けていると、周りの同級生より作文を書くのが早かったり、文章を褒められる機会が増えたり、どんどん自分のアイデンティティになっていったんです。
「クラスで劇やります!」ってときも、「あの子、書くの得意だったよね」みたいに、自然とそういう話が回ってくるようになって、文章の読み書きが好きだということが自分の存在感に直結している感覚がありました。そのうち長いものを書くようになって、投稿を続けて、小説すばる新人賞に拾っていただけました。
――小学6年生のときに初めて小説の投稿をされたんですよね。
そうですね。小3ぐらいでうちにパソコンが来て、タイピングを覚えて、ワープロソフト「一太郎」とフロッピーディスクを使うことで投稿用の原稿用紙100~200枚くらいの原稿を書けるようになりました。小学生の手書きを投稿するわけにもいかないので。
ちょうどインターネット黎明期で、小説を投稿する掲示板が登場し始めたころでした。そこに短い小説を投稿したりすると、知らない人が感想を書いてくれるのがすごくうれしくて、その延長線上で投稿していましたね。誰かに読んでもらいたかったんです。
――その流れで、早稲田大学在学中に書いて投稿した『桐島』がデビュー作になったという…。
それまで一次選考を通ったことが一度あるだけだったので、寝耳に水でした。
それだけでも奇跡なのに、デビュー作がたくさんの人に届くという、宝くじが当たるような、ものすごい幸運にも恵まれました。とても高い下駄を最初に履かせていただきました。映画の影響も本当に大きくて、『桐島』はあの素晴らしい映像化のおかげで本当に多くの人にタイトルを知っていただきました。それから1年以内に『何者』(新潮社)で直木賞をいただいて、「もう運全部使い果たしただろ!」って思ってました。
一発屋になるんじゃないか、いや一発屋になれるだけですごいだろみたいに先回りして自分を慰めていたので、デビュー15周年を迎えられたことに本当にびっくりしています。ものすごい幸運の持ち主だと思います。
年齢の物珍しさがなくなっていく35歳以降
――デビュー作で注目を浴びて以降も、コンスタントに作品を出し続けられるのは、間違いなく朝井さんの努力の賜物だと思います。ただそこにはいろんなご苦労もあったのでは。
いや、私は本当に超高い下駄を履かせてもらっていたんですよ。直木賞のときも「戦後最年少」みたいに年齢で注目していただきましたし。当時は、そういう物珍しさがなくなっていく30~40代の自分はどうなっているのか、メッキが剥がれているんだろうな、と思っていました。
今は、まさにこれからそういう時期が本格的に始まるんだろうなと思っています。今まで履いていた下駄の高さがすり減って、同業者の方々と同じ装備で戦うという状況がやっと始まるのかなと。
――会社組織だと35歳は中間管理職的ポジションですが、文芸界の35歳はどういう位置づけなんでしょう。
年齢でいうと、まだめちゃくちゃ若手の部類だと思うんですけど、キャリアでいったら中堅なのかな。最近読んですごく面白かった石田夏穂さんの小説『ミスター・チームリーダー』の主人公が31歳でチームリーダーという役職に就いていて、そうだよな、同年代の友達はもう部下とかいるもんな、と思いました。
――それで驚いたことなんですが、朝井さんは大学卒業後、一般企業に就職されてたんですよね。
そうですね。よく「直木賞も受賞したのにどうして就職したんですか?」と聞いていただくこともあるんですけど、時系列でいうと逆なんですね。
就職したタイミングではもちろん直木賞はいただいてなかったし、作家として食っていけるイメージも全く湧いていなかった。だから、「私……小説家だけど就職します!」みたいな決断があったわけではなくて、「大学卒業か~就活だ~」という感じでした。
――じゃあ作家生活が軌道に乗り始めたから退職されたんですか。
具体的には言えないんですけど、当時一つ大きなお仕事のご依頼をいただいていて、「これはすごい意義のある仕事だ」と思って引き受けたんです。
同時に、その仕事を引き受けるなら会社員との両立は厳しいなとも感じていました。なので退職を決断したら、その仕事の話が丸ごとなくなって、結果的に退職だけしていました。でも正直、兼業生活をずっと続けていくのは自分には体力的に難しそうだったので、きっかけが降ってきてくれた感じです。
夢は「なにしても驚かれない人」
――今年デビュー15周年ですが、今年の抱負や今後の展望があればお聞かせください。
とりあえず『生殖記』の次に準備している長編小説をちゃんと完成させて、デビュー15周年に合わせて世の中に出すことを目下の課題にしています。
大きな目標でいうと、「わけわかんない人」になりたいですね。
――朝井さんのめざす「わけわかんない人」って、いったいどんな人なんですか⁉
たまに文学賞のパーティーに行くと、“権威”側の文脈に呑み込まれることなく、でも年齢もキャリアも重ねている、という人がいらっしゃるんですよ。例えば、デビューしてすぐのころ、たくさんの人がひしめき合うパーティー会場で志茂田景樹さんを見つけたときは、志茂田さんだけ文学の世界のしがらみの外側にいるような、物差しが人と違う感じがあって、とても輝いて見えました。
キャリアは重ねていて、存在感もあって、でも威圧感はない。そういう人、素敵ですよね。
ただ、年齢重ねていくにつれ気を抜くと“権威”側に呑み込まれていくことがあると思うんです。それに、何か人を巻き込んで行動を起こしたいときには、“権威”側での立ち位置も大事だったりする。
そう考えると、“権威”とうまく共存しつつ、「なにしても驚かれない人」になるのが夢です。私がいきなりどんな行動に出ても、まああの人はそういう人だから、と皆がジャッジを諦めるような人になるのが夢ですね。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部
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