「母になれない」でも「母にならない」とまで決意できない…「普通に幸せ」に生きる難易度が高すぎる世の中を生きるには
集英社オンライン / 2024年12月29日 11時0分
〈「子どもを産みたくない」が「子ども嫌いの冷たい女」に変換されるのはおかしいのでは? 「子どもが好き」という言葉が持つ好意的イメージの不思議〉から続く
「母になりたい」とはとても思えない、でも、「母にならない」というファイナルアンサーもできない。どうして産みたいと思えないのか、どうして産みたくないと言い切れないのか。コラムニストの月岡ツキさんは、いま私たちが生きている社会で子どもを幸せにする自信がないからだという。
【画像】「この世は生きるに値する、ということを子供たちに伝えたくて映画を作っている」と語った監督
書籍『産む気もないのに生理かよ!』より一部を抜粋・再構成し、母にならない女性の葛藤をお届けする。
親になる決意が持てない
「まだ存在していない人間の意思は聞けないし尊重できないわけで、そうなると新たな人間を意図してこの世に産み出すという行為はすべて『すでに存在している人間(親)が何らかの希望を満たすために行うもの』ということになる。
『生まれてくる子供の意思を尊重して、彼らが『生まれてきたい』と強く希望したので、子供をつくることにしました』というのは、どだい不可能なわけだ。
世の中には「そんなこと考えたこともなかった」という人も少なからずいると思うのだが、私は「そんなこと」ばかり考えてしまう人間である。「子供という他人の人生を、私が勝手にはじめていいのか?」と思ってしまうのだ。
だから、おいそれと親になれないでいる。
親になる、ということは、「自分のところに生まれてきたら、その子供はまあまあ幸せになれるだろう」という確信と、「自分は親になったらそこそこ子供を幸せにしてやれるだろう」という自信がないとできない行為ではないか。
実際に親をやっている人は、「いやいや、そんな確信も自信もないですよ」と言うかもしれないが、「子供を幸せにできないだろうなあ」と思いながら意図して子供を持とうとする人は、あまりいないように思う。みんな少なからず、「自分は生まれてくる子供を幸せにできる」と信じて親になっている。
その確信や自信が失われないように頑張ろう、と思うのが「親になる決意」ってやつなのだろう。
私はその点で、確信や自信が全くない。よって決意ができない。生まれてきた子供が幸せになれるかどうかには不確定要素が多すぎて、何ら保証できることがないからだ。
勉強が苦手だったら?
いじめられてしまったら?
人とかかわるのが苦手だったら?
そういった、子供自身がコントロールしきれない要素を乗り越えてなお、幸せに生きていけるのだろうか?と思うと、簡単には「大丈夫」とも「私が幸せにしてみせる」とも言えないのだった。
「この世は生きるに値する」
子供自身だけでなく、社会の環境も不確定要素ばかりだ。
戦争に環境問題に自然災害に、私たちすでに生きている人間ですら10年後に無事に生きているのか不安になるような世界である。
生まれてくる子供に保証できるものなんて何もないと感じる。ちょっと深刻に考えすぎ?いやいや、そうとも言えないような出来事ばかり起こっているじゃないか。
こんなに不確定要素だらけなのに子供を産み育てている人を見ると、正直なところ「よくやるな」と思ってしまうのも事実だ。「どうしてそんなに自分も世界も信じられるの?」と。
私と同い年で母親になっている女友達は、学生時代から子供を産むまでのあいだに「子供が欲しい」という感情に迷いが生じたことは一度もなかったという。無事に授かれるかどうかが不安だったことはあるし、親になってからも子育ての方法で悩むことはあるが、そもそも親になるかならないか、で悩んだことはなかったらしい。
いろいろな不安要素を「えいっ」と飛び越えて「きっとなんとかなる」のほうに賭け、「だって欲しいんだもん」とエゴだのなんだのをまっすぐに無視できる姿が、私には素直に輝いて見える。
ラピュタが見たかったから危険を冒して旅立った『天空の城ラピュタ』のパズー、海の見える街で働くことに憧れて、無謀でも実際やってみた『魔女の宅急便』のキキ。宮崎駿作品をビデオテープが擦り切れるまで見て育ったはずなのに、全然そんなふうに生きられない大人になってしまった。そうなれないからこそ何度も見てしまうのかもしれないが。
宮崎駿は2013年の引退(その後、撤回した)会見で「この世は生きるに値する、ということを子供たちに伝えたくて映画を作っている」というふうに言っていた。
この会見のとき私は20歳かそこらで、当時は引退の事実にだけショックを受けていたが、30歳を超えた今となってはあの引退会見のときの言葉がボディブローのように効いてきている。
「この世は生きるに値する」
この言葉は今現在この世を生きている私を勇気づける一方で、同時に後ろめたい気持ちにもさせる。
彼の作品を何度も何度も見て育ってきた私は、「この世は生きるに値する」と心から思えているのだろうか?それを次の世代の子供にも胸を張って言えるのだろうか?
「普通に幸せに」生きる難易度が高すぎる
子供という他人の人生を勝手にはじめられる人は、少なからず「この世は生きるに値する」と思っているのだ。この世にはいろんなつらいことがあるけれど、幸せなことだって必ずあるから、この世界に出ておいでよ、と。
私自身も、これまでの人生でいろいろなままならないことやつらいことがあったけれど、なんだかんだで今は幸せに生きていると感じる。ここに何かを足したり引いたりする必要がないと思うくらい。
もちろん、もっとこうなりたいとか、もっとこんなものが欲しいとか、こうなったらいいなあという願望はあるけれど、現在地にそこそこ満足している。
しかし、それはあくまで私がいろんな面で幸運だったからだ。だいたいにおいて健康だし、めちゃくちゃ金持ちなわけではないが貧困ではないし、気の合う夫や友達もいる。
幸運だったからこのクソみたいな世界でなんとかなっているけれど、このクソみたいな世界に新メンバーを勧誘したいか?と言ったら素直に「したい」とは言えないのだ。たぶんかなり大事な存在になるであろう自分の子供ならなおさらだ。
しかし、今よりももっと大変な時代、たとえば戦時中とか、戦後の復興期なんかはもっとクソみたいな世界だっただろうし、もっとみんな貧乏だっただろうに、今より子供は多かったのが不思議でならない。
本当にみんなその時代も「この世は生きるに値する」と思えていたのだろうか?
そこまで深く考えられないほど「結婚したら子供を持つのが当たり前」で「産めよ増やせよ」という世の中だったのだろうが、生まれてきた子供には幸せになってほしいという気持ちだってたしかにあっただろう。もしかしたら「幸せ」のハードル設定や定義が違ったのかもしれない。
今の一般的な「幸せ」はというと、健康に生まれ育ち、そこそこに勉学に励み、それなりの大学を出て、適齢期で結婚・出産して夫婦と子供一〜二人が食べていけるだけの収入を得て、病気にならず介護も必要とせずに年老いて死ぬ、というルートが思い浮かぶが、このルートに完璧に乗れている人なんて本当にいるのか?と思うくらい、「幸せ」になるのが難しくなった。
「普通に幸せに」生きる難易度が高すぎるのだ。
この世界を信じ切ることができない
こういうことを言うと、「幸せなんてものはそんな大それたものではなくて、お花が綺麗だなとか、空が青いなとか、家族や友達と過ごす喜びとか、そういうことを感じられるのが幸せなんだよ」という人もいると思う。
しかし実際のところ、食うに困るのでは花を見たり、空を見たり、人とかかわったりする余力も湧いてこないのだ。税金が上がって給料は増えないのに、今の日本社会は自分で稼いで食べていけない人への風当たりは強い。病気や障がいを持っている人やマイノリティへの風当たりはさらに強い。
「普通」のブロックだけを踏んで歩いていける人がほとんどいないのに、そこから外れたらなかなか引き上げてもらえないのだ。
花の美しさや空の青さや人とのかかわりは心を打つし、そういったものに触れるとき、たしかに「この世は生きるに値する」と思える瞬間はある。
しかし、人間が作った社会の仕組みがそういう小さな幸せを台無しにしていると思えてならない。だから私はどうしても、この世界を信じ切ることができない。
私はもう宮崎駿が映画を作る理由だった「子供」ではなく、「生きるに値する世界」を作る側の「大人」になってしまった。私が子供を世に生み出すことはないかもしれないが、これからの子供たちが大人になったとき、「この世は本当に生きるに値するのか?」なんて思わなくていい世界を作っていく側なのだ。
正直、全然明るい気持ちになれない。
それでも、この世を構成している一人の大人なりに、少しはマシな世の中になるように、小さなできることをやっていくしかない。
写真/shutterstock
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