日本でインプラント治療が多い本当の理由「1本50万もする自由診療の背景には…」
集英社オンライン / 2024年12月30日 10時0分
〈「甘いもの好きはむし歯になりやすい」はウソ? 大事なのは食べ方にあり「コーラを飲むなら一気飲み、ケーキなら…」〉から続く
歯を失った際の再建方法として選ばれる「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」。今の日本では、新しい選択肢としての「インプラント」が注目を浴びているが、実はデメリットも多くあると、日本歯周病学会認定医の前田一義先生は警鐘を鳴らす。なぜ日本では「インプラント」が受け入れられているのか。
その背景を論じた『歯を磨いても むし歯は防げない』より一部抜粋、再編集してお届けする。
「歯が抜けたらインプラント」はアメリカ流
むし歯や歯周病などで歯を失ったときの再建方法として、現在は「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」の3種類あります。
このうちインプラントは、「食べる」という点で入れ歯より優れています。同様にブリッジも「食べる」という点で入れ歯より優れています。
ではインプラントとブリッジのどちらがいいかというと、私は基本的にブリッジをお勧めしています。
ブリッジは、失った歯の両横の歯を削り、これらを土台に人工歯を支えるというものです。両横の歯と人工歯の3本で一体となるイメージです。入れ歯のように取り外す必要がなく、違和感が少ないのが特徴です。
ブリッジがインプラントより優れているのは、噛む力を自分でコントロールできることです。これは人工歯を支える両横の歯が、自分の歯だからです。
人間の歯は、繊細なセンサーの役割も果たします。たとえば食べ物の中に砂が入っていたら、すぐに「何かある」とわかります。そこで「噛むのを瞬時にやめる」ことができます。食べ物に応じて、噛む力もコントロールできます。
一方、インプラントの場合、歯と違って歯根膜がないので、このコントロールができません。人工歯はセンサーのような役割を果たせません。
インプラントは、たとえるなら義足や義手のようなものです。たしかに義足や義手でも歩いたり物を持ったりできますが触覚はなく、微妙な力加減は難しいところがあります。
インプラントも、これと同じです。
もちろん、ブリッジにもデメリットがあります。健康な歯を削らねばなりません。とはいえ「自分の歯に近い」という点で、ブリッジのほうが優れています。
ブリッジは自分の歯で人工歯を支えるので、多くの歯を失った人には適さないとされていました。
ところがイエテボリ大学のヤン・リンデ名誉教授が、歯がたくさん抜けた人でも、残った歯をそれぞれブリッジでつなげることで人工歯を支えられる「フルブリッジ」という方法を実用化されています。
インプラントを選ぶかどうかについては、その国の考え方が表れている気もします。
たとえば、アメリカはスウェーデンと逆です。アメリカではむし歯や歯周病が進行すると、すぐに抜歯してインプラントにすることを勧めます。一方、ヨーロッパはインプラントではなく、自分の歯を修復しつつ、長く使おうとします。
同じことが建物にもいえ、ヨーロッパでは昔の街並みをできる限り残そうとします。戦乱で街が破壊されても、壊れた建物を修理しながら、できるだけ長く使いつづけています。
一方アメリカは、もともと古い街並みが存在しません。だから、ダメになったものは、どんどん壊し、より新しくいいものをつくろうとします。
日本は歴史こそありますが、アメリカに倣う傾向があります。少なくとも歯については、古いものを大事にしながら、長く使い続ける発想ではないように思います。
患者の「歯のメンテナンス」を第一に考えていないセメントリテイン
前項でお伝えしたインプラントに対するヨーロッパとアメリカの違いは、インプラント治療自体にも表れています。
インプラント治療には「スクリューリテイン」と「セメントリテイン」の2種類あります。リテインは「保持する」の意味で、アメリカはセメントリテイン、ヨーロッパはスクリューリテインが主流です。
両者の違いは、人工歯を土台にどうくっつけるかです。セメントリテインは、文字どおりセメントでつなげます。スクリューリテインはスクリュー、つまりネジで取りつけます。
便利なのは、スクリューリテインのほうです。ネジで取りつけているので、いつでも人工歯を取り外せます。人工歯を外して定期的にメンテナンスできます。
一方、セメントリテインは、セメントでくっつけているので取り外しがしにくいためメンテナンスが難しいという欠点があります。そしてセメントリテインは、取りつける際にセメントが人工歯の周囲に残りやすい問題もあります。このセメントが、インプラント周囲炎を起こす原因にもなります。
そんなセメントリテインがアメリカではなぜ主流かというと、見た目はこちらのほうがいいからです。スクリューリテインの場合、人工歯にネジを取りつけるための穴をあけます。これが見た目に格好悪いことから、アメリカではセメントリテインが好まれるのです。
日本のインプラント治療ではどちらも選べますが、アメリカ式を好む歯医者が多いのが現状です。「こちらのほうが見た目がいいですよ」と説明されれば、患者さんも「ではセメントリテインで」となるでしょう。
とはいえインプラント周囲炎になるリスクを考えれば、スクリューリテインのほうが安心です。
すでに述べたように歯について考えるとき、あるべき優先順位は一番が「歯の病気を治す」、二番目が「歯の機能障害の改善」、そして最後が「審美」です。セメントリテインが優先しているのは「審美」です。
スクリューリテインが優先しているのは一番の「歯の病気」です。歯のトラブルへの対応のしやすさから、優先順位を考えるなら、スクリューリテインのほうが望ましいように思います(ただし、条件によってスクリューリテインができない場合もあります)。
日本にインプラント治療が多い本当の理由
インプラント治療は、日本の歯科治療の一つの柱になっています。確かに「噛める」ようになるという点で、インプラントはよい治療法の一つです。とはいえ歯を失った際の治療法として、日本はインプラントに偏りすぎているように感じます。
日本では患者さんのむし歯や歯周病が悪化していると、すぐに抜くことを考えます。そしてインプラントに置き換えることを勧めます。インプラントは広く認知された治療法で、それなりに歳を重ねた人なら、周囲にもインプラントにしている人が少なくありません。
そこから「では、お願いします」ということにもなります。
しかし前項で述べたように、インプラントには問題点もあります。すでに述べたようにスウェーデンの歯科医療では、可能な限り自分の歯を残すことを考えます。それが無理な場合は、自分の歯により近いブリッジ治療にできないか検討し、それも無理な場合にインプラントを考えます。そして、インプラント周囲炎になりにくいスクリューリテインを選びます。
そうした過程を飛ばして、いきなりインプラント、それもセメントリテインで行う治療が、日本の歯科医療の現状です。
そこには日本の歯科医療が、アメリカの歯科医療に倣いがちなことがあるでしょう。そしてもう一つ、インプラントが自由診療ということもあるように思います。
繰り返し述べたように日本の保険制度では、むし歯や歯周病の治療の点数は低く抑えられています。患者さんにとってはありがたい話ですが、一方で歯医者にとっては場合によって赤字になりかねない治療です。
加えてラバーダムを使わない歯医者の場合、治療時に患部に細菌が入り、数年後に再発する可能性が高いのです。再発するたびに症状は悪化します。それなら「さっさと抜いてインプラントにしたほうがいい」となりやすいのです。
ここで、インプラントを勧める歯医者が多いのは、保険の根管治療に対し、インプラントは自由診療だからです。自由診療なら値段は歯医者が自由に決められ、それなりの利益を確保できます。
インプラントは1本50万円前後します。しかしラバーダムを行い、ちゃんと治療する自由診療の根管治療という選択肢もあります。日本では「インプラントがいい」という刷り込みもあり、高くても「インプラントで」ということになりやすいのです。
文/前田一義 写真/Shutterstock
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