ユーミンが“優れた声を持っている"と評する歌い手「男性はスガくん、女性は平原綾香、ikuraちゃん、松田聖子と…」【松任谷由実×武部聡志】
集英社オンライン / 2024年12月22日 11時0分
〈【松任谷由実×武部聡志】「武部さんが好きだと言ってくれる私のナンバーは、“ああ、わかってくれてるな”と思うものばかりなんです」〉から続く
武部聡志・著(門間雄介・取材/構成)『ユーミンの歌声はなぜ心を揺さぶるのか 語り継ぎたい最高の歌い手たち』が発売後、即重版が決まるなど話題になっている。
本書のテーマは「優れた歌い手とは何か」。カラオケで高得点を取る上手さと人を感動させる優れた表現は違うと武部は喝破するが、本書内でも特に言及されている松任谷由実にも「優れた歌い手とは何か」という問いをぶつけてみた。そこで出てきたミュージシャンたちとは……。〈全3回の3回目〉
ユーミンの歌声の魅力とは
――本書のテーマのひとつでもありますが、あらためて武部さんは由実さんの歌声の魅力をどのようなところに感じていますか?
松任谷由実(以下、ユーミン) 本人を目の前に歌声の魅力を語る(笑)。
武部聡志(以下、武部) (笑)。まずはワン・アンド・オンリーの声質ですよ。こればかりは、あとから練習しても身に着けられません。一声出した瞬間にユーミンだとわかる声を持っていること。それから声のバイブレーション、波動みたいなものが、ステージで演奏していてビリビリ伝わってくる。それはリスナーの人にも伝わってるんじゃないかな。
ユーミン ホーミーみたいな、ね。
武部 そう。そのバイブレーションって、誰もが持っているわけじゃなくて、言葉で説明するのが難しい、テクニカルな部分を超越したものなんです。
ユーミン そこにあぐらをかいちゃうと、テクニックなんて全然なくていいって思っちゃうけど(笑)。でも自覚はあまりないんですよね。幼稚園の時、初めてテープレコーダーに録音した自分の声を聴いて、変な声だなと思ったまま。だからデビューにあたって、自分で歌えと言われた時は本当に嫌でした。
武部 その時、ユーミンに歌ったほうがいいと言った人は、先見の明があったということだよね。
ユーミン うん、アルファミュージックの村井(邦彦)さんと有賀(恒夫)さん。
武部 そのほうが曲が伝わると思ったわけだから。
ユーミン とくに「ひこうき雲」(73年)ね。デモテープっていうのかな、6曲くらい作った段階で「ひこうき雲」をまわりがすごく気に入って、初めは雪村いづみさんに歌ってもらったりしたのね。でも村井さんや有賀さんは何か違うって。そこからおはちが回ってきて。
武部 「ひこうき雲」がリリースされてから、もう50年以上経つわけだけど、あの曲はたくさんの人にカバーされて、僕もそういったカバーで演奏してきた。でもやっぱりユーミンにしか歌えない曲だと思う。
ユーミン そうだね。
武部 本書でも語っていることだけど、ユーミンの声じゃないと響かないっていうのかな。
ユーミン 私自身もあの曲に追いつくようにトレーニングしている感じ。困ったものですね(笑)。
――自分が作った曲に、自分が追いつこうとするんですか?
ユーミン うん。曲に引きずられてね。作品作りをする時も、まず曲を書いて、あとから詞なんです。たいてい、昔から。まず曲を自由に書いちゃうので、その字数やリズム、世界観に合う詞を持ってくるための技術が必要だし、インプットもたくさんしておかないといけない。
――歌い方もその曲に合わせるということですよね。
ユーミン そうですね。
――それは器用でないとできないことのように思いますけど。
ユーミン そういう点では超不器用ですね(笑)。
武部 そう? 曲によって、声の出し方を使い分けるわけじゃないけど、その曲にいちばんふさわしい表現をいつも的確に見つけているんじゃないかな。
ユーミン 何かね、歌手っていう自覚がいまだにあまりない。
武部 歌うこともひとつの表現なんだろうね。以前のユーミンの作品を聴いて、新たな発見をすることがいまだにあるけど、このあいだ「Autum Park」(86年)を聴き直していたら、これはユーミンにしか歌えない歌だと思った。
ユーミン 「Autum Park」はね、「ANNIVERSARY」(89年)のエチュードみたいな感じ。「Autum Park」が発展して、「ANNIVERSARY」になったというかね。でも言いたかったことは、「Autum Park」で言っているのかもしれない。その「ANNIVERSARY」が発展して、また次の何かになっていたりもするんだけど。
ユーミンにとって優れた歌い手とは
――由実さんにとって、優れた歌い手とはどういう人ですか?
ユーミン 実はボーカルにあまり興味がなくて、いろいろなものを聴いても、曲ばかり聴いているけれど……声かな、すごいなと思う時があるのは。
武部 声はその人しか持っていない武器だよね。
ユーミン うん。声質が歌手の運命を100%決めるね。
――声質に着目した時、すごいと思う歌い手は誰ですか?
ユーミン 洋楽、それも男性ボーカルを聴いていて、この人はいいと思うことが多いかな。スティングみたいな声とか。ちょっと紗がかかった、少年声が好きなんです。バリトンやバスではなく、繊細なほうが好き。だからスガ(シカオ)くんの声は好きな声ですね。
武部 紗がかかった感じで、少年性があるよね。イギリス声というか。
ユーミン そうそう、イギリス声。あとイーグルスのドン・ヘンリーも好きです。挙げていくとキリがないけれど(笑)。
武部 最近、一緒に仕事をする機会が多かったJUJUも、特異な声質を持つ人だよね。
ユーミン うん、そうだね。あと平原綾香。テクニカルな部分もそうだし、倍音の出方とか――。
武部 すごい波動があるよね。
ユーミン 松任谷さんが平原と「平原綾香 Concert Tour 2024 - 2025〜The Swinging Classics!〜」 のツアーを共同演出していて、私は用もなく、立て続けにライブに行ったんだけれど、昔より今のほうがすごい。今、平原がいちばんすごいと思ってるかな。YOASOBIのikuraちゃんも、意外と話す機会があって、すごいと思う。
武部 彼女はYOASOBIでAyaseくんの書いた曲を歌う時と、幾田りらとして自分が書いた曲を歌う時で、違いがあるかもしれないね。
ユーミン ステージで英語のMCをしている時の声が、彼女の声なんだなっていう気がする。声優さんのお仕事もしていたけれど、やはりあの声だからブレイクしたんだなって。松田聖子の声もすごかったな。
武部 彼女の声もワン・アンド・オンリーだね。
ユーミン あの温度感とか、「赤いスイートピー」の時の声……春色の声だよね。マシュマロのような。
武部 ユーミンは曲を提供する時に、声をイメージして書く?
ユーミン うん、そうね。レンジ(音域)は考える。そこまで突き詰めては考えないけれど、魅力的なレンジはどの辺りだろうって。できあがったあと、この声の温度感に曲が付いていったんだなと思うこともあるね。
――温度感とか、声をそういった感覚でとらえているんですね。
ユーミン いちばんは色です。声も、コードもなんだけれど。
武部 コードには色彩がはっきり出るよね。
ユーミン ……あ、宇多田ヒカルさんの声もやっぱりすごいなと思う。あの声の哀愁。声質としては、King Gnuの井口(理)くんも似ているんじゃないかな。勝手な印象ですけど。
武部 やっぱり世に出てくる人は、みんな個性的な声をしているよね。ikuraちゃんや井口くんだけじゃなく、藤井風くんしかり、Mrs.Green Appleの大森(元貴)くんしかり。声にオリジナリティーがあることは、すごく大事なことなんだと思います。
ユーミンにとって武部聡志とは
――40年以上ライブで共演してきて、由実さんにとって武部さんはどんな存在ですか?
ユーミン いつも出発点に帰れる感じ。キャリア的には、出発点はもっと前なんだけれど、結婚の頃にリセットして、セカンドブレイクした辺りが私のキャリアでいちばん大事な時期だったし、武部さんとはその時に出会ったから。武部さんに会うと、いつもあの頃を思い出せる。そこからスタンスも何も変わっていない気がするよね。
武部 やっぱり東京人独特の距離感があってね。土足で踏み入るようなことはしないから。
ユーミン かと言って、冷たいわけではないし。1970年代後半に私たちがやっていたことが、J-POPのエキスだと思うんだよね。
武部 うん、その礎を築いた人だから、ユーミンは。
ユーミン あのね、ゲームの発明者みたいなところがある気がする。同時にプレイヤーとしても、いまだに闘っているというか。
――武部さんにとって、由実さんはどんな存在ですか?
武部 僕は永遠にユーミンのファンですよ。まだ思春期だった頃、中高生の時にユーミンの音楽を聴かなかったらプロになっていなかったと思うし、これだけ一緒に仕事をしてきても毎回刺激をもらえる。ずっとファンでいられるアーティストなんです、ユーミンは。
ユーミン ありがたいことです。でも私たちは登山家のパーティーみたいな感じだから。2018年の「TIME MACHINE」ツアーの時かな、70歳になったら70公演しようって話していたけれど、それも夢みたいな話ではない。
――じゃあこれからも一緒に山を登り続けていく、と。
ユーミン いつまで続けられるかわからないけれど、ずっと一緒だと思いますよ。
武部 これからもよろしくお願いします。
ユーミン いや、こちらこそです(笑)。
取材・文/門間雄介 撮影/伊藤彰紀
武部聡志ヘアメイク/下田英里 松任谷由実ヘアメイク/遠山直樹
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