2024年は「始まりの年」令和ロマンM-1連覇の快挙、無所属芸人が賞レースで快進撃…、松本人志不在で脚光を浴びた“芸人たち”
集英社オンライン / 2024年12月24日 17時0分
日本一の漫才師を決める「M-1グランプリ2024」(ABCテレビ・テレビ朝日系)は、令和ロマン(髙比良くるま、松井ケムリ)の連覇で幕を閉じた。番組放送中「神回」という言葉が関連ワードとして話題になっていたようだが、まさに近年で最高レベルかつ劇的な「M-1」になったと言えるだろう。2024年のお笑い賞レースはまさに「始まり」の一年だったのではないか…。
ドラマティックだった「M-1」
今回の「M-1」のドラマ性を高めたのが、ファーストラウンドの1番手から3番手までの出番順を決める抽選「笑神籤(えみくじ)」だ。
抽選者の役目を担ったのが、東京五輪、パリ五輪の柔道66kg級金メダリストの阿部一二三選手。
阿部選手は、自分と同じように「令和ロマンに連覇して欲しい」とコメントしたあと、「笑神籤」で令和ロマンをトップバッターで引いたばかりか、前年準優勝で「打倒・令和ロマン」に燃えるヤーレンズを2番手で、悲願の優勝を目指す4年連続ファイナリスト・真空ジェシカを3番手で立て続けに導き出した。
序盤で優勝候補を3連発で出した“引きの強さ”は、今大会を神回化させた影の立役者である。
特に、令和ロマンが2年連続トップバッターに選ばれた効果は大きかった。
例年、審査員は後々の出場者への点数配分も考えて、トップバッターへの採点は意識的に控えめになる(基準点は90点とよく言われている)。
しかし王者・令和ロマンが出てきて、しかも想像以上に隙がないパフォーマンスを見せたことで、点数は高騰化。
ただ、審査員的には逆に「これを上回る漫才はそうそう出てこないだろう」と、基準点ではなく自分の中での上限点を決めることができたのではないだろうか。
令和ロマンがトップバッターになったことで、審査員としても腹を括るところがあったように感じる。
それにしても、あらためて実感したのが令和ロマンの憎らしいほどの強さ。
筆者が知る限り、真空ジェシカがファーストラウンドで披露した「商店街」、バッテリィズが最終決戦で披露した「世界遺産」は、両コンビのここまでのキャリア史上、最高傑作級のネタである。
それでも令和ロマンは、ファーストラウンドで真空ジェシカの1つ上の順位をいき(2位)、最終決戦でバッテリィズも退けてみせた。
そんな令和ロマンのすごさは、ネタをモノにしていくまでのスピード感と調整力だと筆者は思っている。
今回の決勝ネタ2本はいずれも10月に作られたものだと聞く。これは令和ロマンが優勝した7月開催「第45回ABCお笑いグランプリ2024」のときも感じたことなのだが、筆者はその2日前、「ABC」のファイナルステージで披露されたネタを劇場公演で鑑賞していた。
そのときのウケはそこまで爆発的ではなかった。なんなら共演していた、さや香のコント、華山の漫才の方が笑いが大きかった。
ただそれからわずか2日で、ネタが一気に洗練されていた。本番では、2日前とは異なる印象に仕上げていて、爆笑を集め、優勝を手にした。
今回の「M-1」でも、ネタを仕上げるスピード感と調整力の高さがあるからこそ、10月に作ったネタであっても、ライバルたちを上回れたのではないか。
また令和ロマンは今大会で、自分たちをラスボスに位置付け、「終わりにしましょう」と絶望感を与える台詞を口にし続けてきた。
ただ「終わり」は「始まり」でもある。
事実「M-1」は、2023年末から続く「令和ロマン時代」を経て、2025年大会で新たな王者を迎えることになる。
20回目の開催という節目を迎えた2024年大会は、旧来の「M-1」と新しい「M-1」が入りまじった時期と言って良いのではないだろうか。
偶然にも、「M-1」の看板でもあった審査員長・松本人志(ダウンタウン)が芸能活動休止によって一旦その座から降りた。さらに審査員数は、7人制から9人制へ。
漫才分析に長けたNON STYLE・石田明、「ミスター『M-1』」の笑い飯・哲夫が2015年大会以来2度目の審査員、そしてオードリー・若林正恭、かまいたち・山内健司、アンタッチャブル・柴田英嗣が新たに加わった。
「審査員が多すぎるのでは」との危惧もあったが、蓋を開けてみればそれぞれ実にスマートな言い回しで出場者の漫才を評した。
特に、バッテリィズに対する石田の審査評は素晴らしく、ダイタク、ジョックロックとの比較を恐れることなく口にし、予想していないタイミングで笑わせてくるバッテリィズの漫才のすごさとうまさを言い表していた。
大胆な「審査員改革」は成功を収めたと言って良く、「これからの『M-1』のあり方」の幕開けを告げたようだった。
2024年のお笑いの賞レースは「始まり」
振り返れば2024年のお笑いの賞レースは、「始まり」を感じさせるものが多かった。
「R-1グランプリ2024」(3月開催)では、街裏ぴんくが優勝して「『R-1』には夢があるんですよ」と雄叫びをあげた。
そして「『R-1』王者はなかなか売れない」というジンクスを吹き飛ばすように、街裏は「水曜日のダウンタウン」(TBS系)などで活躍。
また同大会決勝には、事務所無所属の「どくさいスイッチ企画」が勝ち上がって4位に食い込んだ。名のある事務所の所属芸人が集まる中、この結果はまさに快挙だった。
事務所無所属芸人の快進撃は「女芸人No.1決定戦 THE W 2024」(12月開催)でも見られた。フリーの漫才コンビ、にぼしいわしが優勝を飾ったのだ。
大型のお笑いの賞レースで事務所無所属の芸人が頂点を獲るのは、2002年「R-1ぐらんぷり」のだいたひかる以来。
お笑い芸人の事務所独立が相次ぐ昨今、にぼしいわしの優勝は、賞レースに向けた新しいルートが開けた瞬間にもなった。
「THE SECOND〜漫才トーナメント〜2024」(5月)ではガクテンソクが優勝。
そんな中、同大会は「松本人志不在の賞レースの始まり」として話題に。
しかし、くりぃむしちゅーの有田哲平が松本に代わって大会の見届け人的役割に抜てきされた。有田がこういったポジションを引き受けるのは異例のことだ。
しかも、これまであまり絡みがなかった司会・東野幸治とのマッチアップも見ることができた。さまざまなところで新鮮さを覚える大会となったわけだ。
なにより、この「THE SECOND」で「松本がいなくても違和感なく賞レースを楽しめそうだ」というムードが広がったのではないか。
それでも「キングオブコント」は「M-1」同様、松本不在の影響がどれほどあるのか注目された。
しかし、東京03の飯塚悟志が“審査員長格”をきっちり務め上げた。他の審査員が94点、95点、96点と似通った採点を連発させたなか、飯塚は明確に点数差をつけていった。
そしていずれも、自分の審査基準や好みに忠実に採点・順位付けした。コントに対する自分の信念を貫き、厳しい目で出場者たちをランク付けしたその姿勢には、飯塚の覚悟があったように思える。
やはり松本不在からくる飯塚なりの責任感があったのではないか。
だからこそ、飯塚への審査への信頼が強まった。2025年の「キングオブコント」ももちろん、審査の中心的存在を担うことだろう。
松本人志不在からくるこれまでとは異なった動き、そしてお笑いシーンの新しい息吹を感じさせた芸人たちの存在。2024年は「始まり」を告げる1年だったように思えた。
取材・文/田辺ユウキ
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