世界の長者番付トップ10内に入ったサラリーマンの稼ぎ方とは? 出世より収入…令和に求められるマインドセット
集英社オンライン / 2025年1月2日 10時0分
2024年の1月1日に亡くなった経済評論家の山崎元氏。実の息子に実際に送った手紙を基に書かれた書籍『経済評論家の父から息子への手紙』は、発売からまもなく1年が経過しようとする今でもベストセラーとして読まれ続けている。
【画像】世界の長者番付トップ10位になんとサラリーマンがランクイン
本書籍から一部を抜粋・再構成し、今となっては昭和世代の働き方がいかに古いかを解説する。
「昭和生まれの働き方常識」は“割が悪い〟
まず、古い世代の働き方の常識がどのようなもので、なぜダメになったのかを確認しよう。元号にさしたる意味はないが、「昭和生まれの働き方常識」とは以下のようなものだ。
「安定した職を得て、出世して、労働を高くかつ長く売る」というのがその要約だ。典型的な良い就職先は、大企業であり、国家公務員だった。医師や弁護士のような時間単価が高くて「食いっぱぐれがない」職業もいい仕事だとされた。
サラリーマンの場合なら、「できるだけ大手の安定した会社に入り」、「失敗を避けながら人事評価上の競争を勝ち抜いて」、「なるべく偉くなること」が目指すべき職業人生だった。部長、役員などと最終ポストが上がると年収が増える。退職金や、退職後の待遇でも差がつく。相対的にはまあまあのお金持ちになることができた。
一方、「クビになる」ことのコストは極めて大きかった。クビになった会社と同程度の安定感や社会的なステイタスを持っていて、同じような報酬をくれる企業への再就職は大変難しかったからだ。
このような事情だから、大企業に就職してそこに勤め続けることが重要だった。
だが、一つの組織に居続けるとなると重要性が増すのが人事だ。人事評価で失点を受けると、これが一生尾を引く可能性があった。雇う側から見ると、人事評価の差を餌に、たいしたお金を払わずに社員を大いに働かせることができた。
人事は、基本的に好き嫌いで決まる。これは現代でもそうだし、世界的にそうだ。嫌われた者が脱落するシステムなのだ。評定者の言いなりになることが求められる。「悪目立ち」することを避けるのが、サラリーマンの心得だった。
しかし、旧来型の働き方では、同期入社100人のうちの1人か2人しか出ない役員になるような成功者でも、「より高い給与・ボーナス」という形で、自分の時間を売ってお金を得ていたに過ぎない点に注意しよう。
サラリーマンは、出世して、自分の労働時間の単価を上げて、長く勤めて、より大きなお金を手にしようとした。
医師や弁護士も時間売りビジネス
他方に、医師や弁護士のような専門職になって、「高い時間単価」を得る労働を売る手段もあった。長年「収入が良く、社会的なステータスが高く、安定していて、いい商売だ」とされていた。
ただし、これらの専門職も「自分の時間を売ってお金を得る」時間売りのビジネス・モデルであることに変わりはない。
こうした状況は今でも残っているが、「大企業役員」、「医師」、「弁護士」のような職業の成功者は、せいぜい数億円単位程度の資産を持つ「中金持ち」になるに過ぎない。しかも、多くの場合それは晩年に入ってからだ。その割にはポジションを得る上でのハードルが高い。
古い働き方常識に従うと、大いに不自由な職業人生を送り、小さな確率で成功するものの、成功しても大金持ちにはなれない。つまらない。割が悪いからやめておけ。
より正確に言うと、いったん企業に就職してもいいが、早く別の選択肢を持つべきだし、企業との関わり方・働き方には昭和世代とは異なるスタイルが求められる。
当面の職と収入の安定に満足して、ぼんやり過ごしていると人生のチャンスをどんどん失っていく。
「新しい働き方」は効率性と自由を求める
昭和の働き方が是とされたのは、経済全体が成長していたこともあるが、それ以上に社員の側の交渉力が弱かったからだ。
一つには、転職が難しくて会社を辞めるという選択肢が行使しにくかった。
また、もう一つには、会社が用意したポストと働き方で会社の言いなりに働いているので、会社側から見て「自分の代わり」がたくさんいることも、使う側の力の強さにつながっていた。この点は、働く側の工夫のなさにも問題があった。
「新しい働き方」は、第一に、稼ぎに「時間の切り売り」では達成できない効率性を求めて、なるべく若い時点で効率良く財産を作ることを目指す。
第二に、働き方の「自由」の範囲をかつてよりも、もっと大きく拡げたい。
そして、二つの目的は矛盾しないので、安心してほしい。一方のより良い達成を目指すことが他方の達成をもサポートする相乗効果がある。
そのために必要なマインド・セットは、(1)常に適度な「リスクを取ること」、(2)他人と異なることを恐れずにむしろそのために「工夫をすること」の2点だ。
息子よ。君に宛てた手紙の中では、「『自分を磨き、リスクを抑えて、確実に稼ぐ』ことを目指す古いパターンよりも、『自分に投資することは同じだが、失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的に取って、リスクの対価も受け取る』のが、新しい時代の稼ぎ方のコツだ。リスクに対する働きかけ方が逆方向に変わった」と書いた。あの部分の意味はこういうことだ。
世界で最も成功したサラリーマン
さて、新しい働き方の、具体的な手段の要点は「株式とうまく関わること」だ。これに尽きる。少し極端な例だが、「Forbes(フォーブス)」誌による2023年の世界の長者番付の上位10人を見てみよう。
1位から10位まですべて、手持ちの株式の評価額が大きいことで富豪になっている人々だ。仕事の内容としては、有名投資家のウォーレン・バフェット氏が少々異質だが、多くは企業の創業者で自分の会社の株を大きく持ったまま会社を成長させて富豪になっている。
だが、この中で最も注目すべきは、第10位にランクインしているスティーブ・バルマー氏だろう。バルマー氏はマイクロソフト社の長年の社員で創業者のビル・ゲイツ氏に信頼されていたが、天才ではない「ただのサラリーマン」だ。
しかも、ゲイツ氏の後にマイクロソフト社の社長を務めたが、バルマー時代のマイクロソフトは業績が停滞した。それでも、マイクロソフトの株式を持ち続けていたら、次の社長の時代の同社の再成長による株式時価総額の増大で、資産評価額10兆円を超える富豪となって番付にランクインした。経済的には、世界で最も成功したサラリーマンだろう。
ここにいる人々はすべて、自分の時間を売って毎年報酬を稼いで、それを積み重ねて富豪になった訳ではない。彼らの資産は株式によって作られている。
株式による報酬を取り込め
株式には資産の形成をスピードアップさせる要因がいくつか組み込まれている。これからの時代に効率良く資産を作るためには、株式と上手く関わることが必要だ。
手短に言うと、株式性の報酬を利用することに成功した者は、広い範囲の労働者から利益をピンハネできる「会社」の一部を権利として持つ。
そして、その権利は、成長性まで含めて、さらに将来の分までまとめて評価された価値を「今」手に入れることができる手段でもある。だから、短期間に、大きな資産を手に入れることができる。株式の性質については、後で詳しく説明するが、これ以外にも株式には効率良くお金を作りやすい性質がある。
株式の利用方法を知っている方が断然得なのだ。
加えて、今や、お金持ちになるために目指すべき方向性は、旧来型の「リスクを取らずに堅実にポイントを積み重ねる」から、「適度にリスクを取って、早く大きなリターンを得ることを目指す」に、180度変わった。これは、ベンチャーの起業に参加するような場合だけでなく、ストックオプションをくれるような会社で働く場合の心構えについても言えることだ。
適切なリスクを取り続けることと、他人とちがう労働力になる工夫が必要なのだ。「リスクを取らずに、他人と同じように働きたい」という希望を持つと、不利な側へ、不利な側へと経済的な「重力」が働く。
経済の世界は、リスクを取ってもいいと思う人が、リスクを取りたくない人から、利益を吸い上げるようにできている。このことが、今はよりはっきりと現れつつあり、現在、その気づきの効果が大きい。
広く学生に言いたい。周囲と同じ「就活」を行って何十枚もエントリーシートを書き、仮に首尾良くまあまあの大企業に就職できたとしても、それは人生のゴールにはほど遠いし、職業人生の魅力的なスタート地点ですらない可能性が大きい。
図/書籍『経済評論家の父から息子への手紙』より
写真/shutterstock
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