大手企業を早期退職した男性(57)に立ちはだかった求職活動の高い壁「50代の挑戦がこんなに厳しいとは…」
集英社オンライン / 2024年12月26日 17時0分
〈〈早期退職者の後悔〉「今は毎日お金の心配ばかり…」地方公務員を50歳で退職…定年までの15年間の「自由」を選んだ男性の苦悩〉から続く
中部地方に住む伊藤さん(仮名、男性)は57歳で、新卒から30年以上勤めた会社を早期退職した。会社の管理職として責任あるポジションを任されていたが、定年前に突如襲った『ミッドライフ(中年)・クライシス』、そして50代の求職活動に立ちはだかった高い壁とは。
57歳で襲った「中年クライシス」
「60歳を迎えた先の生き方が見えなくなってしまった」
そう語るのは、中部地方に住む無職の伊藤さん(57)。今年春、新卒から30年以上勤めた会社を退職した。現在は妻と二人暮らしで、子どもたちはすでに社会人として巣立っている。
定年の65歳まで残り8年。会社の管理職として責任あるポジションにもいた伊藤さんだが、なぜ早期退職を選んだのか。
「若い頃は現場でバリバリ働いていましたが、40代以降は現場を退き、管理職や裏方・調整役に回ったんです。やりがいはどんどん薄れていく一方でしたが、給料は上がっていくし、育ち盛りの子どもたちもいたので、当時は会社を辞める選択肢はありませんでした。
ただ子どもたちが社会人として巣立っていき、末っ子が大学3年生になったタイミングで、生活の先が見えてきたんです。お金のことだけ考えたら65歳までしがみついた方がよかったんですけど、『このままここにいていいのだろうか…』という漠然とした不安や焦りが沸き起こってきました」(伊藤さん、以下同)
周囲を見渡せば、同僚や上司は肩書や自らの立場を守ることに必死で、心の底から魅力的だと感じる人は自分の周りから年々減っているように感じた。会社の経営状況も下火で、60歳から65歳の5年間は同じ仕事内容でも給料は半分にまで下がる。
悶々とした日々を送る中、突如会社のトラブルが立て続けに発生し、伊藤さんは精神的に追い込まれていった。不眠状態が続き、アルコールの量も増した。
「このままここにいたらまずい」
そう感じた伊藤さんは今年春、57歳で新卒から30年以上勤めた大手企業を退職した。
「妻は最後までこのような辞め方に反対でした。『労働者の権利なんだから、休職して傷病手当をもらいながらこれからのことをゆっくり考えたらいいんじゃないの』と言ってくれました。でも自分にはそれができなかった。今でも、会社のために粉骨砕身尽くしてきた自分が、どうしてこんな退職の仕方になったのか、よく分からないです…」
「50代の挑戦に優しくない社会」
しばらくは「どうしてこうなってしまったんだろう」と自分を責めたり、後悔の念に苛まれる日々を送っていた。経済的な面でも家族の不安そうな表情を見るたび、「もう少し我慢できなかったのか」と思う気持ちもある。
そんな中、失業手当を受給するために行ったハローワークで、職業講習を受講したことが一筋の光となった。
「この年齢で新しいことを学んで挑戦できたことがとても楽しくて、新しい友人にも恵まれ、少し前向きになれた自分がいました」
受講を終えたものの、「受講した職業は向いてない」と感じた伊藤さん。そこで心機一転、新たに求職活動を始めたが、日々痛感するのは高すぎる“年齢の壁”だ。
「『何歳からでも色んなことはできるよ』といいつつ、日本社会って50代で新しい挑戦をする人に優しくない社会だなとは感じます。求職サイトで応募しつつも、簡単には決まりません。今の時代、人手不足なので30、40代だと未経験でも範囲を広げればすぐ仕事が見つかりますが、50代だと経験有でも年齢で弾かれてしまう」
職を失って得たもの
57歳で職を失ったが、それでも得たものも大きかった。
「これまで仕事を最優先にしてきたので、家族の時間が増えたことは辞めて得られたことだなと思います。当時は忙しすぎて、国内の家族旅行でさえ渋っていましたので」
そう語る伊藤さん。現在は末っ子が語学留学中のヨーロッパに妻と旅行中だといい、現地からオンラインで取材に応じてくれた。
「仕事で一番辛かったときのことを最近よく思い出すんです。今考えると、なんで家族よりもあんなに仕事を優先して生きてきたんだろうとか、どうしてあんなに感情を押し殺してきたんだろうとか…。
まだ新しい仕事すら見つかっていないですが、これからは今まで蔑ろにしていた家族との時間を大切にしようと思っています。そして自分の心身の健康を大切に生きていきたい。それが第二ラウンドの人生の目標ですかね」
そして、60歳以降の働き方に関しても一つの志しがある。
「お金を貯めて死んでいく人が多いのは、みんな不安だからなんです。自分ではもう稼いでいくことができない。前の会社で働いていたとき、『これから自分も年金と退職金を抱えてお金が減っていくのを不安に感じながら、ただ生きていく人生なのかな』って思うとすごくつまらないなと感じてしまって。
だから、これからは定年に縛られない働き方をしていきたい。それが自分にとっての幸せな生き方だなと感じています」
そう話す伊藤さんの口調からはどこか力強さが垣間見れた。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部
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