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リミットは2026年の説も…日本でブルゴーニュワインが飲めなくなる⁉ 現地の声とプロにきいた明暗

集英社オンライン / 2024年12月29日 13時0分

ボルドーワインと並ぶフランスの最高峰ワインのひとつであるブルゴーニュワイン。基本は単一品種でワインを造り、「畑(区画)によってワインの味が違う」ともいわれるが、気候変動の影響などより、将来的に入手困難になるのではと危惧されている。

【画像】ブルゴーニュワイン「1969年以降の収穫量と栽培面積の推移」

北へ北へと移動する生産地

気候変動が、世界のワイン産地に大きな影響を与えている。春の霜や夏の猛暑、干ばつなど異常気象が続き生産量は不安定な状況にある。

今年の仏・ブルゴーニュでは、地域によっては収穫量が7割から9割も減少したという報告もあり、ワイン愛好家の間で「ブルゴーニュワインの将来的な入手困難あるいは価格高騰」への不安が広がっている。

ワインと食のエキスパートでありワイン講師も務める株式会社 食レコの代表取締役、瀬川あずささんは、世界のワインの気候変動の影響について次のように語る。

「温暖化によってブドウの成熟が早まり、酸味や果実味のバランスが崩れることもしばしばです。さらに、豪雨や霜、雹(ひょう)の被害も増えています」

気候変動による異常気象の影響で、別の品種に植え替える必要が出てきたり、新たな交配種を作ったりする動きも出てきた。その一方で、生産者の間では「冷涼地」への注目が集まっている。イギリスやドイツ北部の、かつて“寒冷すぎる”と言われた地域が「ワイン生産に適した冷涼地」として、現在浮上しているのだ。

「イギリス南部では、温暖化の影響でスパークリングワインの大産地が生まれています。冷涼な気候が酸味を保持できるので、スパークリングワインに最適なのです。シャンパーニュ地方の生産者が、イギリスでスパークリングワイン造りを始める例も増えています。

またカリフォルニアでも、北部沿岸に位置するソノマ、中でも最西部のウエスト・ソノマ・コーストに愛好家は注目しています。冷涼な海風が、凛とした酸を持つエレガントなピノ・ノワールを産み出しているからです。このように、世界では気候変動の影響でワインの産地マップが大きく変化しています」(瀬川さん)

 作付面積を広げ、耐熱性のある品種改良を重ねて収穫量を調整

では気になるブルゴーニュワインの状況はどうなっているのか、ブルゴーニュ地方の生産者とワイン商を統括する団体、ブルゴーニュワイン委員会(BIVB)代表、ローラン・ドゥロネ/ Laurent Delaunay(以下ローラン)さんに直撃した。

 「2010年以降は毎年の変動が非常に大きくなっています。特に2021年は1981年以来最少の収量でしたが、翌年の2022年は平均を大きく上回る豊作となり、さらに2023年は過去最大の収穫量を記録しました。そして今年はまた大幅に減少しています。良い年と悪い年が交互に訪れるような、非常に不安定な状況がずっと続いています」(ローランさん)

収穫量は長い目で見ると右肩上がりだが、その要因は栽培面積の拡大であって、ヘクタールあたりの収量はむしろ減少傾向。やはり気候変動による影響なのだろうか?

「ブルゴーニュではまだブドウ栽培が行われていない適地を活用し、世界のニーズに応える体制を整えています。栽培面積の拡大は収量減少の解決策というより、世界の需要と供給のバランスを意識しながら品質維持を最優先に厳密に管理しています。

もちろん、気候変動の影響も避けられません。特に2021年と2024年の極端な低収量は、低温、霜や雹、多雨などが影響を与えています。そのため生産者たちは耐性のある品種の導入や収穫時期の調整など、柔軟な対応に取り組んでいます。こうした努力の積み重ねにより、ブルゴーニュワインは需要に応え伝統を守りながら進化し続けているのです」(ローランさん)

ワイン愛好家のマクロン大統領が本腰を入れる気候対策

 具体的にどんな対策を取っているのか、ローランさんが続ける。

「例えば一部の赤ワインの醸造では、従来の除梗(じょこう/ぶどうのヘタや柄を取り除くこと)をやめ、全房発酵を取り入れることで、果実味や酸味を保ちながらエレガントな味わいを引き出す工夫がされています。またシャルドネやピノ・ノワールのクローンを利用した耐熱性のある品種の研究や、古い品種の遺伝資源を保存して将来的な改良や適応に備えています」

さらに国家的なプロジェクトとして、気候変動による新たな病害や虫害への対策が進行中で、ワイン愛好家で知られるマクロン大統領の気候変動対策の一環であり、農業分野での持続可能な取り組みとして積極的に推進している。

「過去の豊作で数年間は価格が安定する見通し」という見方も

そうなると一方では調査や研究にかかるコストがワインの価格を押し上げることが懸念される。加えて今年再び収量がガクンと減少しているのを見ると、近い将来ブルゴーニュワインがやはり雲の上の存在になる不安をぬぐえない。

「2021年のような急激な価格高騰はないと思いますよ。22年と23年の在庫が十分に確保されているので需要を満たす余力があります。また世界的なインフレによりマーケット全体が高価格に敏感になっていますし、何より生産者自身が価格をこれ以上上げないよう意識しているのです。今後3~4年は価格が安定する見通しで、日本市場でも『手の届かないワイン』になる心配はしばらくありません」とローランさんは自信をもって話す。

投機の影響も大きいのも現実

一方の瀬川さんの見方はこうだ。

「例えばロマネ・コンティのような超高級ワインはもともと入手困難な存在ですが、その他の高級ワインも注目度や需要が急激に高まれば、今後さらに値上がりする可能性があると考えられます。たとえば、アルマン・ルソーのシャンベルタンは、2010年頃までは約2万円で購入できていましたが、今ではインターネットで90万円から100万円で取引きされているものまであります」

その大きな要因が投機筋からの影響。現在ボルドーはやや落ち着きを見せているが、ブルゴーニュのドメーヌ・ルロワのミュジニーやロマネ・コンティは、特に桁違いの価格で取引されるようになった。記憶に新しいところでは、今年6月のオークションで、ドメーヌ・ルロワ・ミュジニーの2015年が713万円で落札されたことが話題になった。

今買うなら、ブルゴーニュ南部やローヌ地方のワインがねらい目

一作年と昨年の豊作が頼りといっても、長期的には気候や市場環境次第で価格が再び上昇する可能性は否定できない。しかしすべてのブルゴーニュワインが高騰しているわけではない。オルタナティブにお財布事情に合わせて楽しむことはできる。

ブルゴーニュのシャブリ地区は、比較的手が届きやすい価格帯のワインが多い点で注目される。超高級銘醸地のような価格高騰が見られず、作り手によって価格も幅広い。またシャブリのワインは、もともと酸が強くキリッとした味わいが特徴なのだが、気候変動の影響がメリットとなり、最近では程よく丸みを帯びた親しみやすい味わいに変化したという声もある。

最後に瀬川さんからの朗報だ。

「値上がりする前に考えるなら、マコネ地区などのブルゴーニュの南部やローヌ地方に注目するのもいいかもしれません。ローヌのワインは、まだ比較的手頃なものも多く、投資やコレクションにも狙い目だと思いますよ」

年末年始はワインを楽しむ機会も多い。ブルゴーニュワインと日本料理は「精妙さ」と「繊細さ」という点で相性も良い。まずは価格を気にせずに楽しみたいものだ。

文/浦上優

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