「もう飛行機は盗まないよ(笑)」パスポートが下りない元赤軍・85歳の映画監督が、今もドキュメント映画を撮り続ける理由
集英社オンライン / 2025年1月2日 8時0分
49年の逃亡の末、昨年1月に亡くなった「東アジア反日武装戦線」のメンバー、桐島聡を主人公にした映画『逃走』が3月に公開される。
【画像】「3年以内に死ぬ」と医者に言われるも、現在も元気な足立監督
同作の足立正生監督は、1960年代後半に若松孝二や大島渚らと共に多くの意欲的映画を製作したのち、1974年に重信房子率いる日本赤軍にレバノンで合流し、1997年に現地で逮捕。刑務所に拘留された後、日本に強制送還され、出所後は精力的に映画を撮り続けている。85歳の今もいまだ衰え知らずの足立監督のパワーの源泉はどこからやってくるのだろうか?
6年前に「3年以内に死ぬ」と言われるも…
足立正生(以下同) よろしく(モスコミュールを片手に登場)。ここ(ユーロスペースの事務所)はタバコ吸っていいよな? 取材だし。なに、外じゃないとダメ?
――煙草は1日に何本吸われるんですか?
(指をVの字に)
――20本?
2箱。
――身体はどこも悪くないんですか?
医者には6年前に、これ以上吸ったら死ぬって言われてます。病院に行ったら、70歳までのデータしかなくて、僕がもう80歳すぎてるから、「てめえ、そんなデータじゃ信用できない」って言ったら、「タバコをやめない限りは病院に来るな」って言われ返されて、出禁状態なんだよ(笑)。
でもそのときに「3年以内に死ぬ」って言われて、いまでも生きてるから大丈夫なんじゃないかな。
――ここにきて、すごいスピードで映画を撮ってますよね。『REVOLUTION+1』は安倍晋三首相銃撃事件から3か月後に公開、今回の『逃走』も桐島聡が亡くなって1年も経たずに映画完成と。
僕は爪の先ほどの予算で、山上や桐島がどういう人間であったのかを描きたいだけだからすぐにできたね。
魚の干物で言うとその骨だけを描ければいいから、(予算は)少なくていいんですよ。それよりも、映画でしか表現できない人間性というものを、メディアでぐちゃぐちゃにされる前に早く自分の意見を出したい。
――鮮度があるうちに制作から公開までする、ということですか。
この現代社会の中で向き合う必要のある題材・人物をできるだけ早く、映画という表現で出すこと、それをテーマにしてるからね。
『REVOLUTION+1』は脚本を10校ぐらい書いたけど、それでも早くやれた。『逃走』も、本当はもっと早くできたんだけど、いろいろタイミングがあってね、遅くなった。
ホントは新聞記事みたいに映画を出したいんですよ。別に奇をてらってるわけではなく、必死に時代と向き合っているだけなんです。
映画を作れば作るほど懐は貧しくなるけど、社会的な大事件が起きれば、なにか考えるわけじゃないですか? それは社会の問題だけじゃなく、人間の問題であり自分の問題なので。
昔は若松とか大島渚と連日のように飲み屋でワーワーガタガタやっていて、そういう中で彼らは彼らなりの、私は私なりに作品で提案していたわけです。
それは問題提起だけじゃなく、映画っていう表現でもっと主張をしたいんです。その行為で時代と向き合うということだけは今もやめられないね。
パスポートは17回申請しても、1回も出ない
――制作のスピードもそうですし、『REVOLUTION+1』は国葬の日に上映というタイミングも図っていましたよね。
それは、映画のテーマがはっきりありましたからね。国葬なんて、冗談じゃないと。僕は安倍とトランプが並び立ったとき、「トランプ安倍 万歳」って言い続けてたの。安倍さんがもう少し生きていれば世の中の問題、政治の退廃がもっと出てきていたと思う。
だから、安倍が殺されたのは、私にとってみればもったいなかった。いまは石破のバカが路線変更して安倍みたいになってるけど。トランプ・石破で、日本の腐ったものが全部、表に出てくればいい。
――悪いウミが全部出ればいいと。
僕は日本赤軍のスポークスマンだったけど、(日本に)帰ってきて拘留されている間、取り調べは一回もなかったんだよ。
なにを聞いても、どうせ意味のあること言わないだろうって思われていたみたいで、担当検事とは東映ヤクザ映画の話ばかりしていた(笑)。
昔、わたしらが飛行機を盗んだときに当時の政府が超法規措置をしたから、政府は僕を骨の髄まで恨んでるんですよ。
おかげで、その後はパスポート(旅券)の申請も下りない。17回申請して、1回も出ないんですよ! 理由が「過去の活動を反省してない」「逃亡中の犯人と連絡をとっている」「なにもしてないと言うが今でもいろいろ運動をしている」。「以上のことから日本国の財産と安全を著しく損なう可能性があるから旅券は出しません」と。
でも、85歳が飛行機を盗んだりしないよ(笑)。
――(笑)。足立さんはアナーキストなんですかね。
いや、アナーキストっていうのは、もう少し真面目なんじゃないかな(笑)。僕は思想的にはシュールレアリストと思い込んでいる。偽物の現実をひっくり返したのを作品にすることで問題提起をする。それが本来の古いシュールレアリストのあり方だから。
悲惨さを招いた原因は自分にもある
――話は少しずれますが、連合赤軍にいた吉積めぐみさんのためにジョン・レノンのサインをもらったといううわさもありますが……。
1971年にカンヌ映画祭に行ったら、そこにジョンと(オノ・)ヨーコがいたんですよ。僕はもともとヨーコさんと知り合いだったけど、わざとミーハーみたいに「ビートルズのジョンだ! サインしてー」って近づいて行って、色紙のサイン書いてもらって、それをめぐみさんにあげたんです。
彼女が亡くなったときには棺にそのサインも納めました。後から、「売れば何億にもなる」って教えられたけど、「もう焼いちゃったから」って言ってやりました。
――このインタビューは新年に公開されますが、今の日本の状況を見て、なにか思うことはありますか?
85歳にしてまだ青年気分でいる俺に言わせると、政治は政治屋に任せとけ、口出すなっていう状態が30年続いたわけでしょ? それ以前の、高度経済成長から能率主義の管理社会になったあたりから生きづらいものになっていたけど。
自分が30年ぶりに娑婆に出てみると、それがさらに息苦しいものになっているって感じた。
僕、放浪老人みたいに、コンビニの横に座ってる若いやつに話しかけたりしていたんですよ。警察か補導員かと思われて警戒されたけど(笑)。
それで、話を聞いてみると、彼らは日々の生活での行き詰まりとか感じてないんだよね。今の状況は誰々のせいとか政治の問題だって考え方をしない、もうちょっと真綿で包まれた状態というか、そう思わないと生きていけない環境なんだろうね。
闇バイトとかに引っかかるのも、危機感の触感みたいなものが絶たれているからじゃないかな。その悲惨さを招いた原因は自分にもあると思っているから、若者が自前の触覚で生きられるようにする、というのがいまの私の映画作りのテーマなんです。
いまも撮りたいテーマが2つ、3つあるんだけど、予算面で止まってるんだ。
――最後に、85歳にして元気な健康の秘訣はなんでしょう?
酒も煙草もやめないことだね。それ以外、なんにもないよ。
取材・文/高田秀之 撮影/杉山慶伍
〈作品詳細〉
『逃走』監督・脚本:足立正生
出演:古舘寛治 杉田雷麟 中村映里子
企画:足立組
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎
アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子
音楽:大友良英
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 スチール:西垣内牧子 題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)
【2025年|日本|DCP|5.1ch|110分】(英題:ESCAPE)©「逃走」制作プロジェクト2025
配給・制作:太秦 製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com
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