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「そば並盛310円」“日本一の立ち食いそば屋”10円の値上げをも葛藤する理由「常連さんのため」「みんなが潤うことは不可能」

集英社オンライン / 2024年12月30日 17時0分

円安や物価高騰が止まらず、2024年も家計が圧迫される日々が続いた。特に飲食店は、過去最高の倒産ペースとも報じられるほどに厳しい一年を過ごしたようだ。そんな中で、「早い・安い・うまい」を掲げる立ち食いそば屋はどうだったのだろうか。

【画像】デカすぎる! これでたった230円のジャンボゲソ天

日暮里駅の行列ができる店

東京、山手線の日暮里駅から歩いて4分ほど、にぎやかな駅前から少し離れたところにある立ち食いそば屋「一由そば」。

年始と夏季休暇をのぞき、24時間無休で営業しているこの店は、“日本一の立ち食いそば屋”との呼び声も高い。12月中旬の平日、12時ごろに行くとすでに長蛇の列ができていた。

列に並んでいるのはランチで来たと思われるスーツ姿の大人から、外国人観光客らしき人まで多種多様。何人かに話を聞いてみると、驚いたことに、そのほとんどから「ここに来るのは初めてです」との返事が返ってきた。

一由そばは以前から有名店であったが、今年4月にフジテレビ系にて放送されたドキュメンタリー番組『東京ゲソ天ブルース』で特集されたのをきっかけに、さらに多くの人が訪れるようになった。

そんな中で、この日話しかけた中で唯一、何度も店に通っているという男性がいた。50代の会社員で、一由そばに通い始めてもう10年以上経つという。毎月、2、3度は秋葉原駅にある職場からこの店にまで足を運ぶ。

「実は私、お昼はあまり食べないんです。でも、ここのゲソ天が本当においしくて、出汁のしょっぱさもいい。わざわざ事務所を通り越してここにまで来ています」とその理由を明かした。

一由そばの看板メニューである「ゲソ天」は、来店したほとんどの客が注文している。筆者自身、何度か一由そばに行っているが、豊富な種類の天ぷらを見て悩んだ末に、やっぱりゲソ天を注文してしまう。

この日はランチタイムということもあり、並び始めてから30分ほどして、ようやくそばにありつけた。お昼休みが1時間ほどの会社員にとって、列に並ぶだけで貴重なその半分を消費してしまうのは死活問題だが、それでもあまりあるほどの魅力が一由そばにはある。

490円から540円になったジャンボゲソ天そば

注文したのは「ジャンポゲソ天」と「そば(並盛)」。一由そばのゲソ天は、ミニサイズでも十分な大きさがあり、通常サイズの時点で、他店のゲソ天の大きさを優に上回り、ジャンボともなると、それ一個で一食分になるほどのボリュームがある。

漆黒のつゆに浸るそばを覆い隠すほどに巨大なゲソ天。ガリッと歯ごたえがしっかりある衣の中には、大きくブツ切りされたゲソが無数に入っており、ゴリゴリとした食感が楽しめる。

このクオリティーのゲソ天を提供しながら、値段はそれぞれ100円(ミニ)、180円(通常)、230円(ジャンボ)と破格。

これに加えて、そば並盛一杯は310円だ。いまや、牛丼一杯が500円近くになり、有名バーガーチェーンのランチセットも最低600円。ワンコインでおなかいっぱいのランチを済ませることが難しい現代において、一由そばはまさしく救世主だ。

一由そばは今年、2度の値上げをしている。一度目は9月、ゲソの価格高騰を受けて、ゲソ関連の商品が10円~30円値上げした。

そして12月、原材料費と光熱費の高騰を受けて、そば・うどん・ご飯類のメニューを各20円(大盛30円~)の値上げをした。年始の段階ではジャンボゲソ天とそばの並盛のセットを頼んでも490円だったのが、いまでは540円だ。

ただハッキリ言って、それにしても安い。安すぎる。その証拠が、行列に現れている。今年、何度か一由そばにいったが、並ばなくてよかったのは一回だけ。ド平日の16時ごろに行ったときのみ。それでも店にはひっきりなしに人は訪れていた。

そのほかは、平日の14時ごろ、平日の深夜23時ごろなど、時間を変えて行ってみたが、どの時間でも20分以上は並ぶことになった。

こんなに人気ならもっと思い切って値上げもしていいのでは? 値上げに関する事情について、一由そばの代表取締役・山本社長に話を聞いた。

わずか10円の値上げすらも葛藤する理由

「私たちの店にはたくさんの常連さんが来てくださります。中には毎日来る方もいます。そうなると、10円、20円の値上げだとしても、月に換算すると大きく変わってしまいますよね。そう考えると、簡単には上げられないなって思ってしまうんです。それに、やはり立ち食いそば屋として、『早い・安い・うまい』をモットーにしているので、そこは変えたくないなと」(山本社長、以下同)

とはいえ今年は二度の値上げしても、客が減っている様子は全くない。それに、どの時間帯でも行列になってしまっている以上は、値上げをすることでその問題も解消できて、客と店のWin-Winの関係ができそうだが……。しかしここについてもやはり、一由そばとしてのポリシーがあるようだ。

「確かに値上げをすることで、いろいろと解決できる問題はあるかもしれませんね。しかし、こう言ったらきれいごとに思われるかもしれませんが、値上げで解消できるものもあれば、失うものもあるのだと思います。正直言ったら、“安くて、うまくて、そしてみんなが潤う……”というのはほとんど不可能に近いじゃないですか。それでも、ギリギリのところでバランスを取り続けていきたいと思ってしまうんです」

立ち食いそば業界の未来はどうなるのだろうか。

コロナ禍、そして物価の上昇、日本一の立ち食いそば屋・一由そばは苦難の中でどのように経営を続けてきたのか。後編へ続く。

取材・文・撮影/ライター神山

〈立食そば屋大量閉店〉“日本一の立食そば屋”が憂慮する実情「不誠実だと思っている」「値上げに納得してほしくない…申し訳なくて」維持するには “家族経営でしか無理”と苦悩を告白〉へ続く

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