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〈立食そば屋大量閉店〉“日本一の立食そば屋”が憂慮する実情「不誠実だと思っている」「値上げに納得してほしくない…申し訳なくて」維持するには “家族経営でしか無理”と苦悩を告白

集英社オンライン / 2024年12月30日 17時0分

「そば並盛310円」“日本一の立ち食いそば屋”10円の値上げをも葛藤する理由「常連さんのため」「みんなが潤うことは不可能」〉から続く

飲食店の値上げが相次いだ2024年。「早い・安い・うまい」の代名詞である立ち食いそばから、ついに「安い」が消えてしまう日が来るかもしれない。日本一の立ち食いそば屋・一由そばの代表取締役・山本社長に話を聞いた。

【画像】閉店してしまった都内の立ち食いそば屋

「不誠実じゃないですか」値上げに関して本心を告白

まずはこの一年、食材と光熱費の高騰などを受けて、飲食店は過去最多のペースで倒産していったと報じられているが、年始と夏季休暇を除いて24時間営業している一由そばではどんな困難があったのだろうか。

「この一年というか、コロナ禍以降は人とお金の流れが大きく変わってしまいました。例えば物価で言いますと、材料の仕入れ値ですね。今まではだいたい、材料の仕入れの価格が少しずつ上がっていって3年を目処に、順次値上げをしていきました。

ウチが吸収できる限界を超えたときに値上げをお客様にお願いするっていうかたちで、一度値上げをすれば、3年はもっていたんですが、ここ数年は1年どころか、下手したら1年ももたないくらいで……。値上げのペースがあがっているんです」(山本社長、以下同)

実際、一由そばは今年9月と12月に2度の値上げをしている。どちらも計画的なことではなく、突発的に経営が厳しくなり、限界を迎えての値上げだった。9月に値上げした時点では、12月にも値上げをすることなど一切考えていなかったのだが、わずか3か月にして、状況が変わってしまったのだ。

現在、そば(並盛)の値段は12月に値上げしたことで310円になったが、ここに来るまで、あと6、7年はかかると思っていたという。

「都度都度、許容できる範囲を決めていて、そこを越えそうになったときに値上げをお願いしているという感じです。だって普通に考えたら、毎年値上げをして、今年は9月にも12月にも立て続けに値上げするなんて不誠実じゃないですか。だったら1回で値上げをしちゃえばいいと自分でも思うんです」

熟練の経営者でも予測ができないほど、コロナ禍以降は経済情勢が混とんとしている。衝撃的だったのは、原材料の高騰どころではなく、そもそも品物が届かないということだった。

家族経営しかない… 立ち食いそばの生き残る道

ビニール袋が不足して、「モノがあるけど包むものがない」という状況に陥り、紅ショウガなどを仕入れるのにも苦労が絶えない。名物のゲソ天も仕入れのルートをいろいろ探して、なんとか確保できている状態なのだという。

ほかにも最低賃金の値上げなど、「安さ」を売りにする商売ではとにかく向かい風が吹きっぱなしの情勢となっている。これからの立ち食いそば屋の未来はどうなってしまうのだろうか。

「究極言えば、昔ながらの値段で安さを売りにやっていくとしたら家族経営しかないのだと思います。基本的には外部のスタッフを雇わないで、自分たちが我慢して値上げ分を吸収して、身を削ってやっていくっていうスタイルです。

しかしそれでは後継者がいないので長続きしませんよね。継続的な事業にするには、ある程度の売り上げ、利益を出さなければならない。そうすると、今の時代、立ち食いそばの適正価格はいくらなのかなって考えるわけです。

ラーメン屋さんでは1000円出してくれる人がいますが、立ち食いそばでは……。以前、ウチでは300円あれば一通りのメニューが食べられましたが、今では500円出しても看板メニューを食べられない状況になってきている。いくらだったら、『安い・早い・うまい』なのかなと考えるわけです」

一由そばはもともと店の常連客でファンだった山本社長が経営を引き継ぎ、従業員を多数抱えながら店を回している。物価が上がったから従業員の給料を減らす……というわけには当然いかない。

特に一由そばでは、入ってきたアルバイトが1日や2日で簡単に辞めてしまい、またバイトを募集して新人を教育し直すという負担も大きかったため、最近では社員を中心にして、安定的な経営を目指している。

また、山本社長は後継者問題に直面していたほかの立ち食いそば屋の運営もしているが、「そういう店が自分自身も好きなんですよ。だから残ってほしい。自分ができるのであれば、残ってほしいという思いでやってます」と明かす。

2024年に閉店した都内の名店

実際、都内の立ち食いそば屋は今年だけでも名店が何店舗も閉店している。約50年続いた岩本町の「スタンドそば」は店長が逝去したために2月末に閉業、50年以上続いたカレーが絶品の末広町「きぬそば」は6月下旬に、1974年創業でごぼう天がウリの小伝馬町の「立喰かめや」が7月末に、日比谷の「都そば」はビルの建て替えに伴い10月末に閉業した。

値上げについて、客はどう感じているのだろうか。一由そばの公式Xが値上げに関する告知をポストした際は温かい言葉が寄せられていた。

〈オッケーオッケー! ぜんぜん受け入れます!〉

〈50円上げてもいいと思います〉

〈逆にそんな微々たる値上げで大丈夫なのでしょうか…心配です。身体に気をつけて少しでも長くつづけてください!〉

〈致し方ないです。無理せず頑張って下さい〉

しかし店舗では確実に影響は出ているという。

「やはり値上げを機に、来なくなってしまった常連さんもいます。ほかには、天ぷら2品を頼んでいたけど、1品にして調整してくださるお客様など、反応はさまざまです。

ただありがたいことに、私どものほうにも温かいエールがたくさん寄せられています。値上げに納得してくださるというか……。でも、納得もしてほしくないんですよね。申し訳ないので。今は、行列に並んでくださることが応援してくれていると思って頑張っています」

江戸時代から始まった立ち食いそばの文化。この歴史的な物価高騰の波を受けて、いったいいくつの店が生き残ることができるのだろうか。一人の客として、応援を続けていきたい。

取材・文・撮影/ライター神山

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