「うらやましいぐらいに人間っぽさがある」 3年間で35カ国のアフリカを取材したルポライターがたどり着いた“自由に生きる”ために必要なこと
集英社オンライン / 2025年1月15日 7時0分
〈「生け贄」として埋められる子ども、78歳の老人と結婚させられる9歳の少女、銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年…メディアが報じないアフリカの「不都合な真実」〉から続く
アフリカ取材作第4弾となる『沸騰大陸』を刊行したルポライターの三浦英之氏。中編では、広大で多様性に溢れるアフリカの実像や独特の国家観、「命が短い」という認識のもとに人々が自由に生きる姿など、さらに驚きに満ちた話が続きます。〈全3回の2回目〉
【画像】「アフリカは日本の80倍面積がある」と熱弁する三浦氏
アフリカにおける民族と国家
――我々はすぐに「アフリカ」と一言で言いますが、『沸騰大陸』を読むと、国や地域によって驚くほど多様性があるのがわかります。
三浦英之(以下同) アフリカ大陸ってメルカトル図法(赤道付近が小さくなる)の影響で、世界地図的に見ると比較的小さく見えてしまうのですが、面積は日本の実に80倍もあり、とにかく広いんです。
アフリカ特派員時代はよく、南端の南アフリカから、所属新聞社の中東総局がある北部のエジプトに通っていたんですが、南アとエジプトとの距離、たとえば日本からだとどれぐらいの距離に相当するかわかりますか?
――いえ、ちょっと想像がつかないですね。
日本からだとちょうどフィンランドに行く距離とほぼ同じなんです。それぐらい遠いし、広い。そしてそこには無数の民族が混在しているのですが、彼らにとってまず民族が先で、国家という概念はどちらかというと、後から押しつけられたものという認識がある。
面白かったのは、ケニアの奥地に取材に行ったとき、現地の古老に「いまのケニア政府についてどう思うか?」と尋ねたら、古老は笑いながら「ケニアって誰だ?」って聞き返してきたんです。
半ば冗談だったのかもしれないけれど、そういうところっていまだアフリカにはあるんです。最初に民族があり、次に国家という枠組みが存在している。
――国家という概念が乏しい?
アフリカって、国境地帯にも一面のサバンナが広がっていて、国境自体がよくわからないですしね。その中で、地域によっては人々が民族という集合体でしか物事を考えていないようなところがある。
彼らはGPSとかを持ってるわけでもないし、国の境目を意識せずに行ったり来たりしている。税金だってほとんどの人が払っていないし……。だから、国民という意識がすごく希薄なんじゃないかと感じます。
たとえば「内戦」と言っても、国家の枠内で戦っているというよりは、たまたまその国家の枠内に居合わせた、異民族同士の諍いだったりするんです。
――狭い島国でいろいろなものに縛られて生きている我々には、想像が難しいところがあります。
そうですね。日本という小さな島国であまりにも多くのものを背負いながら生きている僕らからすると、対極にいる「最も遠い人たち」と言えるかもしれません。
でも、彼らにはある意味、うらやましいぐらいに人間っぽさがある。愛や憎しみといった感情がものすごい激しいんです。喜ぶとゲラゲラ笑うし、夜などは焚き火を囲み、太鼓をドンドンドンドンやりながら、歌って踊る。そういう根源的な楽しみは、ひとたびその喜びの輪の中に入ると、本当にワクワクするし、楽しかったりする。
同じように、空を見上げて「わっ、こんなにも星が見える」という感動や、ヌーの大群がものすごい勢いでガーッと川を渡る姿を見た時の、体が震えるような瞬間とか。それはたとえば、日本で夜の8時半にビールをカチャッと開けてNetflixを見る、そうした楽しさとは次元の違う、僕らのDNAに深く刻まれた「生きる喜び」みたいなものを日々、感じながら生きているんです。
「命が短い」という認識で自由に生きる
――その一方で『沸騰大陸』には非常に残虐な、目を覆うようなエピソードも出てきます。
確かにそうですね。誘拐した女の子に爆弾を巻きつけて、市場に誘導して爆破したりとか、大きなビルを建てるために、建設現場に子どもを生贄として生き埋めにしようとしたりとか、そういうことが平気で起こる。
法律もあまり機能しているようには見えないし、犯罪行為に歯止めのかかりにくい社会であるのは事実です。
その大きな理由のひとつは、平均寿命が短いからではないかと思うんです。内戦もあり、事故もあり、病気があるのに、病院も医師もものすごく少ない。ちょっとしたことで人が亡くなる。自分もいつ死ぬかわからない。
我々と比べると、相対的に「命が短い」という認識があって、だからみんな欲望のままに、激しく生きようとする。過激な暴力に加担する人もいるし、人を激しく愛したりもする。
――ひたすら長寿を願い健康を気遣う我々の世界とは対極的です。
ただ、そんな真逆の世界だからこそ、僕らが学べることってすごくあると思うんです。一言で言うと、僕ら日本人は、もっともっと楽しく生きていい。もっと喜んでいいし、もっと悲しんでいいし、もっと自分の中にあるものを爆発させていい。
人目を気にして型にはまって生きることに、どれほどの価値があるのか。いつも組織や上司の評価を気にして、その家畜のような人生をまっとうしたときに、誰に「評価」してもらうのか? ばからしい。自分の人生は自分で選び、自分の評価は自分で決める。
アフリカの人々の自由に生きる姿を、僕らはあらためて見つめ直す必要があると思うんです。
――そうした何にも縛られない自由というのは、日本では特に難しく感じます。
ただ、誤解を恐れずに正直に言えば、日本は世界的に見ても断トツに平和で住みやすい国なんです。治安もいいし、食事もおいしいし、人々は優しいし、温泉もあって、文化はユニークで、サービスも素晴らしい。こんな国、世界中探したってありません。
一方でひどく不幸に見えるのは、人々があまりにも周囲の目を気にして生きているということ。それは古くから続く家族制度のせいかもしれないし、学校の教育のせいかもしれないけど、これほど治安が保たれて統制がとれているがゆえに、そこから少しでもはみ出ると、「出る杭は打たれる」。
今の日本で、生きづらさを抱えてる人とか、閉塞感を抱えてる人ってものすごく多いと思うんです。そういう人こそ、『沸騰大陸』を読んでもらうと、「ああ、人はこんなにも自由に生きられるんだ」と思っていただけけるんじゃないかと思うんです。
アフリカには問題もいっぱいあるけれど、生きるヒントもいっぱいある。ガラクタも宝石もゴチャゴチャになって詰め込まれている、まるで「おもちゃ箱」みたいな大陸です。
取材・文・撮影/集英社学芸編集部
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