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“組織内フリーランス”ではない! 「4時半に起きてルポライターとしての原稿の執筆。10時からは会社の勤務時間」二刀流記者の創作アウトプット術

集英社オンライン / 2025年1月16日 7時0分

「うらやましいぐらいに人間っぽさがある」 3年間で35カ国のアフリカを取材したルポライターがたどり着いた“自由に生きる”ために必要なこと〉から続く

新聞社の特派員としてアフリカの最深部に迫ったルポ・エッセイ『沸騰大陸』。ルポライターとしての活動により「組織内フリーランス」として自由に取材をしているように思われがちだが、「実際はまったく違う」と著者の三浦英之氏は言う。睡眠時間や命を削ってまで、彼が描きたかったものとは。創作スタイルから紐解く。〈全3回の3回目〉

【画像】開高健や沢木耕太郎への想いを語る三浦氏

写真家として

――三浦さんの著作の大きな特徴の一つが、著者本人が撮影した写真です。今回の『沸騰大陸』にも、表紙カバー含めて、多数の貴重な写真が収録されています。



三浦英之(以下同) 海外メディアと日本メディアの大きな違いの一つに、ライターとカメラマンの分業制があります。海外メディアの多くは、ライターとカメラマンがそれぞれ完全に分業されているのに、日本では現場の記者が大抵、現場の写真撮影も担うことが多い。

クオリティーとしては、前者の方がだいぶ良いものができるのですが、僕自身としては、後者の方が有り難く感じています。

――なぜでしょうか?

僕はそもそもカメラマン志望なんです。大学院を卒業した時の第一志望は、無謀にも米ナショナル・ジオグラフィックでした(笑)。僕はネイチャー・カメラマンになりたかったんです。

職業記者になって感じることは、国内外のどの現場でも、やはりカメラマンは最前線に行く。一番危険なところ、一番ホットなところに、両肩に大きなカメラをガチャガチャぶらさげて行くんです。実にかっこいい。

ライターは、そこからだいぶ離れた安全なところで記者会見に出たり、人々の話を聞いたりする。弾丸の飛び交うようなところで、人々の話は聞けませんから。でも、僕自身は現場の最前線に行きたいんですよ。だからいつもカメラを持って、僕は「一番前」に行きます。

――取材の最前線の空気が、写真からも文章からも伝わってきます。

でも一方で、僕は写真の人間じゃなくて、文章の人間なんだと自覚しています。写真に関しては、やはりプロのカメラマンのほうがうまい。

文章については、これまでの積み重ねもあり、「商品」として人に読んでいただけるものを書ける自信があります。

でも、僕はカメラを手放さない。なるべく最前線に行って、写真を取り、そこで見たものを、感じたことを、自らの文章に置き換えていく。僕はそういう現場では意図的にズームレンズではなく単焦点レンズを使ってるので、どうしても対象に寄って行かざるを得ない。それも自分の文章に良い効果を与えてくれていると信じています。

――一人で両役をやってると、煩わしく感じることはありませんか?

全くないですね。逆に、取材対象者に真正面から向き合い続けていると、ちょっと照れて恥ずかしかったりするんですよ。でも、カメラを構えると、いろんな角度で寄ることができたり、「あ、この人、こんな表情するんだ」とかっていう発見があったり、文章を書くための、すごくいいツールになるんです。

僕が「ノンフィクション作家」じゃなくて「ルポライター」を名乗っているのも、絶えずカメラを抱えて、現場にできるだけ足を運び、写真を含めた作品を作っているから、というのが大きな理由の一つです。

先人たちの轍の上を歩く

――三浦さんの作品には共通して、取材対象に鋭く切り込む視点と、取材当事者としての思いがにじみ出る部分とが絶妙にバランスしており、そこがとても印象に残ります。このあたりに関して、ご自分ではどう感じていらっしゃいますか?

これは、これまでルポルタージュやノンフィクションという分野を築きあげてきてくれた先人たちの影響です。

僕は学生時代からこうした分野の作品を読むのが大好きで、例えば、開高健さんだったりとか、児玉隆也さんだったりとか、沢木耕太郎さんだったりとか、近藤紘一さんだったりとか。朝日新聞でいえば、本多勝一さんや伊藤正孝さんかな。

そんな作家やジャーナリストの大先輩たちが書いた素晴らしい本があり、それを何度も何度も読み返してきた。

そこにはやはり、取材対象やテーマの話だけじゃなくて、僕がいま作品化しているように、酒を飲みながら仲間とこう語り合ったとか、銃弾の飛び交う戦場を鉄兜をかぶって駆け抜けたとか、それぞれ取材する自分たちの話がいっぱい出てくる。

それがいつも脳裏にあるから、「ああ、開高さんも多分こうやって取材していたんだろうな」とか、「近藤さんならどんなふうにアプローチしたかな」と考えながら取材しています。

――これから先、今度は三浦さんの作品を読んだ若い書き手が、同様に影響を受けることもありそうです。

影響と言えば、最近とても驚いたことがあります。1994年のちょうどルワンダ内戦の後、共同通信のアフリカ特派員で沼沢均さんという方が、ケニアからコンゴに向かう途中、乗っていたチャーター機が墜落して死亡しているんです。

沼沢さんは3年間ぐらいアフリカ特派員をしていて、日本に帰任間際だったんですが、死後、『沸騰大陸』と同じような本を出しているんですよ。

――同じような本を?

そうなんです。『神よ、アフリカに祝福を』(集英社、1995年)という本なんですが、今読み返してみると、本当に『沸騰大陸』とそっくりなんです。

それはご本人が帰国したら本を出そうと思って、ワープロの中に原稿を書きためていたのを事故後、当時共同通信のデスクだった辺見庸さんらが見つけて書籍化したらしいんです。辺見さんは『もの食う人びと』のアフリカ取材で、沼沢さんとつながりがあったそうなんです。

もちろん、僕もその本をアフリカの赴任前に読んでいて、先日たまたま、沼沢さんが亡くなって30年という節目で、当時の同僚などが故郷の青森市にお墓参りに行くというので、同行させてもらいました。

その際、『神よ、アフリカに祝福を』を久しぶりに読み直したんですが、自分でもビックリするくらい『沸騰大陸』と手触りが同じだった。

30カ国ぐらいをめぐるルポで、ひたすら現地の人々の生活を書いている。あまりに共通点を多くて、読んでいて「ゾーッ」とするほどでした。『神よ、アフリカに祝福を』という作品をかつて読んで、こういうのを書けたらいいなという思いがどこかに残っていて、それに引っ張られる形で『沸騰大陸』ができたんだな、と。沼沢さんが僕の中に確かに「いる」。僕も新たな世代の書き手へ何か残すことができれば、嬉しいです。

新聞記者とルポライターの両立

――三浦さんはいまルポライターとして活躍する一方で、新聞社に所属する現役の記者でもあります。どのように両立しているのでしょうか?

最近よく「三浦さんは組織内フリーランスでいいですよね」って言われるんですが、大間違いです(笑)。周囲からは、僕があたかも筑紫哲也さんや本多勝一さんみたいに、会社組織に所属しながら自由に取材しているように見えているのかもしれませんが、実際はまったく違います。

僕は現在、朝日新聞の盛岡支局に勤務する地方記者なんですが、地方記者は今、本当に大変なんです。というのは、メディアの経営が大きく傾いてきて、特に新聞は地方からまず人を減らしている。かつての半分から4分の1ぐらいの人数で、回しているのが実情です。

その中で、僕は今年で言えば、全国版に年間2~3シリーズの連載記事を書き、新聞に170本の署名記事を書き、それとは別にネットサイトに100本以上の記事を出しています。

その合間を縫って、ルポライターとして年に1冊のペースで本を出せるように、取材と執筆を続けています。

――合計すると驚くべき数の執筆量です。

正直、睡眠時間と命を削っています(笑)。

1日のスケジュールとしては、まず朝は4時半とか4時40分ぐらいに起きる。だいたい午前5時から午前9時とか10時ぐらいまではずっと書籍用の原稿の執筆です。午前10時からは会社の勤務時間で、夜8時とか9時ぐらいまで働いて、帰ってきてすぐ寝る。

翌朝、起きたらコーヒーとマンゴー入りのヨーグルトを食べながら、また書籍用の原稿を書く。僕は書籍用の原稿はだいたい十数回書き直します。それを1年間続けて、ようやく人に読んで満足してもらえるような「商品」に仕上げられる。

――そうした日課の一方で、SNSでの発信をみると、いつも熱心に地方や国外に出かけていらっしゃるような印象があります。

たとえば昨日(当インタビューの前日)は勤務先の盛岡にいて、今日は新潟に行ってから東京(当インタビュー会場)に来ています。明日は講演で名古屋に行き、来週は福島と茨城に行く。来月は沖縄と台湾にも行く予定です。

現場を見たり現地の人の話を聞いたりすることがなにより大事なので、移動の労を惜しんではいけないし、交通費を削っちゃいけない、といつも自分に言い聞かせています。地方記者なので、東北以外への移動・宿泊はもちろん自腹です。

でも、それをケチると世界が小さくなる。フリーのジャーナリストの方々の場合は、経費はみんな自腹ですし、私はずいぶん恵まれていると思っています。

――三浦さんがこれまで書いてきた作品の世界を思い返すと、とても説得力があります。

僕は最近はどこか、そうした移動距離が原稿の質を決めているんじゃないか、と考えている節があります。走りながら考える、ビジネスホテルやドミトリーの狭いテーブルの上でメモや原稿を書く、それが僕のスタイルなんじゃないかと。

思えば『沸騰大陸』も、当時の膨大な移動距離によって成り立っている本です。200ページちょっとの中に、20カ国以上の生活や人生が散りばめられている。僕が移動した距離と、自分の目と耳で確かめた「物語」を、ぜひ読んでいただけたらと思います。

「一匹狼」ではなく、「一頭象」と呼ばれたい

――『沸騰大陸』では、その膨大な移動距離の先に見えたアフリカの雄大な景色も、印象的に描かれていました。

アフリカでは、見渡す限りの大地や壮大な夕焼けとか、テレビや映画や写真で見たことのあるような絶景を何度も目にしますし、それはそれでとても感動するんですが、ともすると紋切り型になってしまうため、新刊の『沸騰大陸』には盛り込んでいないのです。

ただ、そんな中でも、いま改めて心からの感動を思い出すのは、やはりアフリカゾウのことです。たまたま夕暮れ時、広大な草原で車のエンジンを止めて地平線を見ていたんですね。アフリカの地平線って、本当に丸いんですよ。

そしたら地平線の向こう側がこう、黒くて太い線になって、ところどころに点々が見える。何だろうな、と見ていたら、その線がだんだん太く、大きくなってくるわけです。ズン、ズン、ズンって。それらが、はるか遠くからこちらに向かってくるゾウの大群なんだと気づいたときには、本当に鳥肌が立ちました。まるで地平線が動いてるみたいなんです。

草原を埋めた数百頭のアフリカゾウの群れが、ブワーンとこっちに迫って来る。しかも先頭にいるのが、メスの一番の長老のゾウなんですが、それが鼻を高く押し上げ、耳をバタバタしながら、こちらを威嚇しながら迫ってくる。これを見たときは、もう胸がいっぱいで、アフリカに来て本当によかったな、と思いました。

――それは一度、ぜひ見てみたい光景です。

ぜひ、見てみてください。ゾウという生き物は、あまりに雄大で、優しく、彼らそのものが「大地」なんです。だからできれば、動物園ではなく、アフリカに出向いて、野生のゾウたちを見てほしい。

僕はよく、周囲から「一匹狼」と言われますが、実はオオカミは群れで生活する動物です。一方、アフリカゾウのオスは大きくなると、群れを離れて一頭で行動します。だから僕も、「一匹狼」ではなく、「一頭象」と呼ばれたいです(笑)。


取材・文・撮影/集英社学芸編集部

沸騰大陸

三浦英之
沸騰大陸
2024/10/25
2,090円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4087817607

「生け贄」として埋められる子ども。
78歳の老人に嫁がされた9歳の少女。
銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年。
新聞社の特派員としてアフリカの最深部に迫った著者の手元には、生々しさゆえにお蔵入りとなった膨大な取材メモが残された。驚くべき事実の数々から厳選した34編を収録。
ノンフィクション賞を次々と受賞した気鋭のルポライターが、閉塞感に包まれた現代日本に問う、むき出しの「生」と「死」の物語。
心を揺さぶるルポ・エッセイの新境地!

目次

はじめに 沸騰大陸を旅する前に

第一章 若者たちのリアル
傍観者になった日――エジプト
タマネギと換気扇――エジプト
リードダンスの夜――スワジランド
元少年兵たちのクリスマス――中央アフリカ
九歳の花嫁――ケニア
牛跳びの少年――エチオピア
自爆ベルトの少女――ナイジェリア
生け贄――ウガンダ
美しき人々――ナミビア
電気のない村――レソト

第二章 ウソと真実
ノーベル賞なんていらない――コンゴ
隣人を殺した理由――ルワンダ
ガリッサ大学襲撃事件――ケニア
宝島――ケニア・ウガンダ
マンデラの「誤算」――南アフリカ
結合性双生児――ウガンダ
白人だけの町――南アフリカ
エボラ――リベリア
「ヒーロー」が駆け抜けた風景――南アフリカ

第三章 神々の大地
悲しみの森――マダガスカル
養殖ライオンの夢――南アフリカ
呼吸する大地――南アフリカ・ケニア
「アフリカの天井」で起きていること――エチオピア
強制移住の「楽園」――セーシェル・モーリシャス
魅惑のインジェラ――エチオピア
モスクを造る――マリ
裸足の歌姫――カーボベルデ
アフリカ最後の「植民地」――アルジェリア・西サハラ

第四章 日本とアフリカ
日本人ジャーナリストが殺害された日――ヨルダン
ウガンダの父――ウガンダ
自衛隊は撃てるのか――南スーダン
世界で一番美しい星空――ナミビア
戦場に残った日本人――南スーダン
星の王子さまを訪ねて――モロッコ

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