大学・就職先・勤めているSM風俗店も同じだというレズビアンカップルの“事情” なぜ彼女たちはSM風俗嬢になったのか?
集英社オンライン / 2025年1月20日 18時0分
〈「こんな清純そうな人が風俗に?」性行為にこだわりのない風俗嬢が処女にこだわる理由…カラダを求められることで満たされる承認欲求〉から続く
難関国立大学を卒業後、一部上場企業に就職しつつもSM嬢として風俗店に勤務するカオルさん。しかもカオルさんはれっきとした彼女がいるレズビアンだという。男性と肉体関係を持つことに抵抗はないというが、恋愛感情は抱けないという、そのワケは‥‥。
ノンフィクション作家・小野一光氏の書籍『風俗嬢の事情』(集英社文庫)よりカオルさんの“事情”を一部抜粋・再構成しお届けする。
大学・就職先・勤めている風俗店も同じ
私は尋ねた。
「女の子と付き合ってるのは、いつ頃から?」
「うーん、大学に入って3年生のとき」
「相手はどういう人なの?」
「相手は……シホさん」
恥ずかしそうに言う。
「え、××のシホさん?」
「そう」
ここで名前の挙がったシホという女性は、彼女が働くSMクラブに在籍している女の子だ。私自身は取材していないが、カオルと同い年でシホという女の子がいることは知っており、店でカオルの取材をしたとき、彼女から店で仲良くしている子として名前が挙がっていた記憶がある。
「シホさんは大学は別だったの?」
「一緒です」
「はーっ、そうなんだ」
「あと、就職先も一緒です」
「ええっ」
つまり、彼女たちは大学の同級生で同じ会社に就職し、密かに付き合っている同性のカップルであり、それに加えて、ともに異性を相手にするSMクラブで働いているということになる。その倒錯した世界に軽い混乱を覚えた。
「一緒に住んでるの?」
「いや、一緒には住んでないです。私が実家なんで」
「そうすると、彼女とのセックスはどこでするの?」
「うーん、たまに親が祖父母の家に行っていないときがあるんで、そのときにうちに呼んだりとか、ふつうにホテル行ったりとか、あとシホさんは一人暮らしなんで、そっちに行ったりとか……」
「なんで一緒に住まないの?」
「いや、住みたいんですけど、うちは犬を飼ってて、親も働いてるんで。犬の世話、誰がすんの、みたいなのがあるんです。両方とも一緒に住みたいとは思ってるんですけどね」
これが、ヒトの女性器なんだぁって
そこで私は、彼女がシホさんと付き合うことになるきっかけを尋ねた。
「まず大学に入って気が合う友だちって感じで、ほんとにずっと一緒にいて……」
「専攻とかは一緒なの?」
「そう。もう全部一緒です。それで3年生のときに私が合コンに何度か行ってて、相手の男の人と珍しくラインが続いたんですけど、そのとき私のなかで、でもなあ、この人と付き合うのかぁ~、でもなあ~、みたいに考えて、この人との未来が見えないって感じだったんですよ。ていうか、未来が楽しいものだと思えなくて、じゃあ私、誰が好きなんだろうって考えたときに、シホさんが頭に浮かんで、うーん、みたいな……」
「どっちが告ったの?」
「それから1週間くらいして、私から。あの、うちに泊まりに来たんですけど、そのときにちょっと『好きかもしんない』みたいに言って。そうしたら向こうも、『いや、(私も)好きだったっす』って」
「相思相愛だったわけだ」
「でも向こうは、『カオルさんが合コン、合コンとか、彼氏作んなきゃとか言ってたから、なんか(好きとは)言っちゃダメだなって思ってた』って」
当時はカオルなりに、周囲に同調しなければと、仮の姿を演じていたのだろう。そのときのシホさんとのやり取りが頭に浮かんだのか、カオルはフフフと思い出し笑いをする。私は単純な好奇心で質問した。
「初めてシホさんとセックスしたときって、どうだったの?」
「ああっ、いやでも、そうですね。クフッ、ふつうに興奮しました」
「女性とは初めてでしょ?」
「初めて」
「なにか男性との違いを感じたりした?」
「それは、やっぱりチンチンがないから。これが、ヒトの女性器なんだぁって。アハハ」
照れ笑いを浮かべる。そのように相手が恥ずかしがっているときは、こちらは却って遠慮のない聞き方をしたほうが、相手も答えやすい。
「そのときって、タチ(攻める側)はどっちだったの?」
「あ、た、し、だったですね」
「それは自然とそうなってたの?」
「そうでしたね。まあ、日によりますね、いまは……」
「いまは?ネコ(受ける側)になることもあるんだ」
「そうですね。私疲れてて攻めらんないよ、今日は、みたいなときに……」
「いまはどれくらいの割合で会ってるの?」
「働いてるんで……。えーっ、どうかなあ、2週間に1回会ったらいいほうかなあ」
ここで私は、最初に気になっていたことを話題にすることにした。「××(SMクラブ)に所属した順番でいえば、シホさんが先だったような記憶があるんだけど、それはどうしてだったの?」
取材対象を探すために、私は同店のホームページをまめにチェックしていた。結果的に、2人が揃って同じ店で働くようになった経緯を知りたかったのだ。
「なんでSM?」
「もともと、私がオナクラをやってたときに……なんかオナクラってあまり稼げないんですよ。お客さん全然来ないし。もう、おカネ欲しいとかって思ってて……。で、私は全然風俗慣れしてるんですけど、シホさんは大学2年のときに、風俗でほんのちょっと、それこそ1週間だけ勤めたくらいしか経験がなかったんですね。だから、『ちょっとどこか勤めてみてよ』みたいなことを私が言って、最初はSMじゃなくて、痴漢のイメクラみたいなところに勤めさせたんですよ。勤めさせたって、ほんと言い方悪いけど、フフフ。勤めてもらって……。そこがあんまり稼げなくて、『じゃあSMいってみよっか』って……」
「なんでSM?」
「SMってやっぱお給料が高いってのがあって……私は最初はM性感を調べてたんですね。けど、自分から言葉で責めるのって苦手というのがあって、じゃあやっぱSMかあって……」
M性感というのは、マゾ願望のある男性客を、女性側が言葉責めをしながらアナルを中心に刺激する風俗店である。それはさておき、彼女が当初の入店理由として口にしていた、「SMに興味があって、いじめられるとどういう感じかなって思ったんです」というのは、やはりリップサービスだったということがはっきりした。
いちばんの入店理由は、金銭的な問題だったのだ。彼女は続ける。
「最初はシホさんに入ってもらって、イケそうだったら、じゃあ私も~って。ハハハ」
「どれくらいの差で入店したの?」
「たしか1、2週間ですね」
「とりあえず確認しておくと、SMを選んだ理由って、やっぱりおカネだったわけだよね」
「うーん、そうだけど、興味もありましたね」
「シホさんと2人で、SMっぽいことをしてたとか?」
「そうですね。まああの、首輪買ったりとか、(お尻を)叩いたりとか……。あっちがドMなんで。向いてんじゃないって」
「カオルさん自身は、自分がMになる仕事をやってみてどうだった?」
「いや、痛いですね。フフフフッ」
「そうなんだ。じゃあカオルさんだけでもSMを辞めようってならないの?」
「私ですか?私はまあ給料いいし、なんか求めてもらってるし……。それに楽しい部分もあるし……」
彼女自身は前にも口にしていたが、やはり「求められる」という承認欲求が満たされることが、金銭面での満足とともに、風俗での仕事を続ける動機として、かなりのウエイトを占めているのだろう。
私はもう一つ気になっていたことを持ち出した。
レズビアンもアナルセックスも彼女はすでに知っている
「たとえばそこでね、互いの嫉妬ってどうなってるんだろう?」
「そうですね。最初は私は大丈夫だと思ってたんですけど、意外とあっちが勤めて、お給料いっぱいもらったって喜んでると、ああ~辛い、ウ~、みたいな」
「嫉妬で?」
「そう。嫉妬みたいのがあって、私いっつも怒ってるんですよ、あっちを。こういうとこが辛いんだよって。それであっちが泣いて、ゴメンって仲直りして……。1回、こっちが辛いとか言ってから仲直りすると、しばらく大丈夫になるんで、私が。だからもういまは私が『いくら稼いだの?』で、シホさんから『×万円』って返ってくると、『あ、すごいじゃん』みたいな感じですね」
「なんかそういう関係性を見ると、やっぱりカオルさんが元からタチだったってことなんだね」
「そうですね」
「ところで、これからどうなっていくんだろう。男女ともにいけるバイセクシャルでいくのか、それともレズビアンだけかってことについては?」
「私ですか?そうですねえ。気持ち的には、男の人に対して恋愛感情を抱くのはできないかな~って思って。まあ別にセックスが……男の人とプレイするのは嫌じゃないんですけど、やっぱ感情的には女の子のほうが好きだなって……」
カオルの声はやや低めで、例えるなら女優の山口智子が静かに喋っているような雰囲気がある。その声色で言う。
「ていうか、男の人とはセックスも大丈夫なんですけど、やっぱ一緒に暮らしたりして、家族になるのって、難しいかな~って」
彼女の言葉を聞きながら、私のなかに突拍子もない想像が浮かぶ。「あのさあ、シホさんにペニスバンドを付けてもらって、処女を奪ってもらうのってどうかなあ?」
「ああ、そうですね。時々してもらってて、今日こそは濡れてるし、いけるでしょうって、やってみるんですけど、やっぱり私が途中で痛くて、『ゴメン、やっぱ無理~』って、ハハハハ……」
「なんだ、試そうとはしてたわけだ」
「ですね。いつもやめちゃって、フフフッ、結局はできないんですよ……」
笑い声のままカオルは現状を説明する。
「ちっちゃめのバイブなら入るんですけど、ふつうの大きさのディルドだと、もう入んないんですよ」
念のために説明しておくと、ペニスバンドは男性器を象ったディルドをベルトにつけて下腹部に装着する器具。また、ともに男性器型の大人のオモチャでも、バイブは振動するがディルドは振動しない。
男性器の実物は経験していなくても、それを模した大人のオモチャを、〝処女〟のカオルは豊富に経験している。それだけではない。レズビアンもアナルセックスも彼女はすでに知っている。なんというか、〝処女〟という単語に反応してしまった自分がとても愚かに見える。
就活をして入社した上場企業はやめる予定
そろそろ約束の1時間が経とうとしていた。私は「いや、面白かった。ありがとう」と、取材の終わりを告げた。
謝礼の1万円を渡し、目の前で領収書を書いてもらうと、彼女はなんの躊躇もなく実家の住所と本名を記す。その無防備な姿を見ながら、この先、悪い客に出会わなければいいけど、と心の中で案じる。
「あのさあ、またしばらく時間が経ったら、同じような感じでインタビューさせてもらえないかな?これからどういう変化が起きるのか知りたいから」
「あ、全然いいですよ。また連絡してください。変化といえば、もうちょっとしたら私、会社を辞める予定なんですよね」
さらりと口にする。
「ええっ、辞めちゃうの?どうして?」
「いやなんか、働いてみたら、全然予想と違ってたんですよ。だからもういいかなって」
就職活動をしてようやく入った一部上場企業のはずだが、彼女の口調にはまったく未練や迷いが感じられない。
「次はどうするか決めてるの?」
「いや、まだなにも。でも、とりあえず貯金もあるし、そんなに焦らずに探します」
「そうなんだ。わかった。じゃあ今度はその点も含めて話を聞かせてね」
「はーい」
なんとも拍子抜けするあっさりした態度に、私はなんだか未来の楽しみを得たような気分になった。もちろん、彼女が心変わりをせずに取材を受けてくれれば、という前提ではあるが、カオルがこの先、年齢と経験を重ねてどのように変わっていくのかを知ることができるのだ。それはとても贅沢なことのような気がしていた。
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