〈産後クライシス〉「使えねーな」イライラを募らせた妻のひと言で離婚危機に…夫婦間のすれ違いはなぜ起こるのか?
集英社オンライン / 2025年1月12日 13時0分
産後急速に夫婦仲が悪化する現象「産後クライシス」。主な原因として、出産を経た妻に育児や家事の負担が偏り、夫に強い不満を持つことから起こるとされている。特に0~2歳児期に多いとされるが、厚生労働省の調査でも、ひとり親になった女性の4割がこの時期に離婚に至っている。「子はかすがい」とも言われるが、産後の夫婦間のすれ違いはなぜ起こってしまうのか。
【画像】「使えねーな」のひと言で翌日夫から無視され続けたマキさん
出産を機に180度変わった夫婦関係
「もともと夫婦仲はよかったんですが、出産を経て夫婦関係は180度変わりましたね」
そう語るのは、東京都に住む会社員のマキさん(仮名、32歳)。現在、5歳年下の夫と1歳の息子と3人で暮らしている。現在は育児に追われながらも穏やかな日々を送っているというが、産後半年間は、ホルモンバランスの乱れから他人に対して攻撃的な態度になる“ガルガル期”に陥り、夫婦関係も悪化、離婚危機にまで発展したという。
「産後は今まで感じてこなかったイライラを夫に対して感じるようになりました。イクメンパパで有名なインフルエンサーの男性の投稿をSNSで見るたびに、『うちの夫にだってできる!』と期待しては裏切られ、不満を溜めていってしまいました」(マキさん、以下同)
夫とはマキさんが7年前に留学した先の外国で出会った。自然と意気投合した2人は、日本に帰国して互いの仕事が安定したタイミングで結婚した。
「喧嘩もないし、友達みたいにすごく仲がよくて、家の中では毎日居心地よく過ごしていました。
夫は家事が苦手なタイプだったんですが、当時は何の不満もなくて、むしろ『私がやってあげたい!』ぐらいに思っていました」
しかし、2023年9月、長男が誕生してから一変、夫婦関係に暗雲が立ち込み始めた。
「今までは自然と家事全般を担っていたんですが、赤ちゃんを連れて買い物に行ったり、料理したり、掃除したりする中で、『あれ…私負担多いな』って感じるようになっていきました。それに加えて夜は夜泣きでほとんど寝れない。
夫は仕事の都合上、育休を取らずに毎日帰りは午後11時。休みの日もゴロゴロして家事も手伝わない。最初こそ大目に見ていましたが、どんどんイライラを募らせていきました」
「使えねーな」妻のひと言で離婚危機にまで発展
「食器ぐらい洗ってよ」「息子のこと何で見てくれないの?」
動かない夫に対し、次第にチクチク嫌味を言うようになったマキさん。指摘された夫も最初のうちは「分かった!ごめん!」と素直に応じていたが、“チクチク攻撃”が増すごとに「うるさいな…」「そんなんだったらもういいよ」と怒るようになり、休日のたびに喧嘩するような状況が数週間にわたって続いた。
そして決定的な亀裂が生まれたのが、産後5カ月目のことだった。
いつもの休日。この日もマキさんは家事育児を担う傍ら、朝遅くに起きてスマホゲームをする呑気な夫の姿にイライラを募らせていた。
息子をお風呂に入れていた時、何かを感じ取ったのか、夫が突然風呂場にやってきたのだ。
「なんかごめん…何もやってなくて」
謝罪の言葉を口にした後で、夫は
「友達とサウナ行きたくて、出かけてきていい?」
と聞いてきた。マキさんは承諾したが、夫は
「出かける前に何か手伝うよ!」
と言ってきた。しかし、すでに息子は風呂から上がって着替えも済ませ、残りはミルクを作って寝かしつけるだけだった。
「もう何も手伝えることないからサウナ行ってきていいよ」
とマキさんが伝え、息子を抱っこして寝室まで向かうと、その後ろを「手伝う!手伝う!」とついてきた夫。そこから「もう手伝えることない!」と拒むマキさんと、「手伝う!」と言って聞かない夫との喧嘩が勃発した。
「正直、最後の最後で手伝うとか言ってきて『なんだこいつ…』って感じでした。でも何か手伝わせないと出ていかないかもって思って、『リビングにベッドのシーツが置いてあるから寝室まで持ってきてほしい』って頼んだんです。
そしたら『分かった!』と威勢よく夫が取りに行ったんですけど、しばらくして『ないんだけど』と寝室に戻ってきました。代わりに私がリビングに探しに行ったら、目立つ場所にシーツが置いてあったんです」
それを見て、マキさんは思わずぼやいてしまった。
「使えねーな…」
その後、寝室に戻ると、悲しみと怒りが入り混じったような表情でこちらを睨む夫の姿があった。
「マキちゃん、今『使えない』って言ったよね」
そう言い残し、扉をバタンと閉めて出て行った夫。翌日からマキさんが夫に話しかけても無視される“冷戦”状態が4カ月間続くこととなった。
雪解けのきっかけは意外にも…
「使えねーな」事件勃発後、家庭内別居状態でのワンオペ育児が4カ月続いたマキさんだが、当時の心境はどうだったのか。
「もう毎日めっちゃしんどかったです。最初は『こんなヤツ離婚してやる』って気持ちが強かったんですが、悶々と考えていく中で、『私も悪かったな』と自身の言動を顧みるようになりました」
きっかけは、“冷戦”状態の夫婦仲を相談すべく義母に頼ったことが大きかった。
「義母に相談するうちに、夫に関するいろんな話を聞いて『だからこういう態度を取るんだな』と理解が深まったのが大きかったです。夫に優しくしようとも思えましたし、息子や自分自身のためにも明るい家庭にしたいと思うようになりました」
その後、マキさんから話し合いを持ち掛け、夫婦仲を改善する方向で話し合いがまとまった。
とはいえ4カ月の“冷戦”状態からの雪解けは、気まずくもあったが、夫からも「体調大丈夫?」「手伝うよ」などの声かけが増えていき、現在は完全に雪解けしたという。
改めて、「産後クライシス」になった原因はなんだったのか。マキさんに率直な疑問をぶつけてみると、
「自分がすごく偉くなったような気持ちになってしまったところです。子どもも産んだし、家事育児全般を担ってて、『自分は偉い』『自分が正しいんだ』と思いすぎていました。
あとはイクメンパパのSNSの投稿を見て、切り取った一部に過ぎないのに、自分の夫に落とし込んで期待しすぎてしまった。期待外れな結果になるたびにイライラしてたし、産後半年間は気性が荒くなる“ガルガル期”も重なり、怒りのコントロールができませんでした」
話し合いの末、結果的にマキさんが家事全般を担いつつも、上手く手を抜くように工夫したことで安定したという。
「結局、分担すると夫のやり方が気になってしまうので。家事全般を担うと割り切ったことで喧嘩もなくなりました。
あとは頼み方も嫌味な言い方ではなく、優しく伝えて、たくさん褒めることを意識しています。多少オーバーに褒めれば、棒読みだったとしても気付かれませんので(笑)」
最後に、「産後クライシス」に悩む夫婦や、出産前に不安を抱える夫婦に何かアドバイスはあるか、と聞いてみた。
「産後は大変で余裕もないし、どうしても『夫が全部悪い』と思ってしまいがちですが、私の場合は『自分にも非がある』と認められたことが解決のきっかけでした。そこから相手に『ごめんね』が言えるようになったり、改善しようという気持ちが生まれたので」
出産は夫婦にとって「幸せのはじまり」であり、夫婦関係が真の意味で試される「正念場の始まり」でもあるのかもしれない。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部
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