精神安定剤をお菓子のようにポリポリ…「児童虐待」の裏側にあった父親の精神疾患。障害のある親に対する子育て支援の実態
集英社オンライン / 2025年1月11日 13時0分
〈「妹にネコ缶を食べさせ」「80歳の認知症の母親を半監禁と暴行」…訪問介護者が見た壮絶な家族虐待のリアル〉から続く
「精神科から処方される精神安定剤を、小皿に山盛りにし、お菓子のようにポリポリ食べる虐待父親でした。粗暴な人で、ヘルパーも怖くて、近づけなかったため、亡くなった際も生きているかの確認ができず発見が遅れました」と振り返るのは、介護福祉士で都内の訪問介護事業所のサービス管理責任者の澤田さん(49歳)だ。今回は精神疾患を持つ父親がした家族虐待の実態を聞いた。
【画像】今での虐待されていた子どもを心配する介護福祉士の女性
夫の暴力に耐えきれず泣く泣く子を手放した妻
父親は30代後半から40代前半、子どもが小学校1年生の男児、父親の母は70代という家庭だった。
「その父親は女好きで、元々は、父母と子の3人家族でしたが、妻が夫の殴る・蹴るの暴力に耐えきれず、離婚しました。
夫は離婚後、子どもを手放さず、お母さんは泣く泣く子どもを手放しましたが、父親は子を育てられず、児童養護施設に預けていたんです。
しかし、子ども系の手当が入らないことを嫌がった父が、連れ戻しました」(澤田さん、以下同)
最初は父親も仕事をしていたので、まだよかった。そのうちに、双極性障害を発症し、失業する。祖母も高齢で、足腰が悪く、仕事はできず、一家は生活に困窮していった。
父親は精神障害者手帳を取り、障害福祉サービスを利用した。息子の体には、父からの暴力の痕跡があった。
その際にヘルパーとして入った事業所が、澤田さんの勤める訪問介護事業所だった。
「通常、父親の障害福祉サービスは、その父親の身辺の世話だけです。ですが、昨今のノーマライゼーションの考えから、区役所から子どもの見守りも含むという特例が出て、健常児である子どもの登校の準備・着替えや朝食の手伝い・子どもを学校に送迎するというサービスも含んでいました」
それなので、澤田さんたちヘルパーは、主に息子の日々のケアも担っていた。
子どもへのサービスに問題はなく、ヘルパーたちは「学校への行き渋りがないのが逆に気持ち悪い」と感じていたという。
澤田さんは「父親からの虐待がある家よりも、学校に行く方が精神的に楽だったからではないか」と振り返る。
精神科の処方薬をお菓子のようにポリポリ食べる父
父親の男性は息子をネグレクトし、管理者に「お前の会社にいい女はいねえか」と尋ねるなど、女好きでもあった。
澤田さんが朝にヘルパーとして入ると、精神科病院から処方された精神安定剤を、小皿に山盛りにして、菓子のようにポリポリ食べていることがよくあった。
昼から酒を飲むなど、粗暴な面があったので、子どもの虐待に気づいても、注意することはできなかったという。
「“これは何のあざですか?” と指摘すると、息子さんは、次回からは着替えて出てくるんです。だから、虐待があるのに気づきながらも、見守ることしかできませんでした」と、澤田さんは無念そうに答えた。
父の死により解放された息子
そんな父親に対し、母である祖母も、ヘルパーたちも腫れ物に触るように接していた。そんな状態だったので、布団の中で父が死んでいることに、1日中、誰も気づかなかった。
「起きていないのは珍しいなと思っていました。だけど、子どもも祖母も、寝ている父に声をかけませんでした」
翌日になっても、起きてこない父をさすがに心配した祖母が確認すると、そのとき初めて死んでいたことが分かった。
「警察の検視になりましたが、結果は、OD(オ―バードーズ)による心不全ではないかとのことでした。
子どもは、結局、児童養護施設に戻ることになりましたが、虐待されていた頃よりも幸せだったと思いたいですね」と澤田さんは、語った。
親が知的障害や精神障害を持っていると子どもを虐待しやすい
こども家庭庁は令和4(2022)年度9月7日、令和4年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)を公表した。
件数は21万9,170件で、前年度より11,510件(+5.5%)増え、過去最多を更新した。
親に障害がある場合に限っての統計は存在しないものの、こども家庭庁のデータから、虐待の増加傾向がみられる。
アメリカの国立障害児親研究センター(NRCPD)の調査によると、親が障害を抱えている場合、子どもへ虐待のリスクが高まる可能性が指摘されている。
特に、知的障害や精神障害を持つ親は、子育てにおける困難やストレスが増加し、それが虐待の要因となる場合がある。
障害を持つ親は、就労が難しい場合が多く、経済的な困難が虐待リスクを高めやすい。
また、地域社会や家族からの支援が不足しやすく、孤立感がストレスを増幅させる可能性も指摘されている。
現状の日本の福祉制度では、障害のある親に対する子育て支援は、十分とはいえない。
虐待の早期発見と対応を目的とした法律の制定や改正や地域の相談窓口や支援ネットワークを拡充し、特に障害を持つ親が孤立しない環境作りを推進すること、障害を持つ親が就労しやすい環境や、経済的支援の制度を整備することが、虐待リスクを減らすことにつながるだろう。
フィンランドでは、障害を持つ親に対する包括的な支援が功を奏しており、虐待率が低下しているという報告もある。
具体的には、訪問支援サービスや家族間のコミュニケーションを助けるプログラムが導入されている。そういった対応が急務だ。
取材・文/田口ゆう サムネイル/Shutterstock
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