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「ニチガク」破産は始まりにすぎない!? 「東進ハイスクール」「早稲田アカデミー」など大手躍進の裏で7期連続赤字の会社も…予備校・学習塾の大再編時代へ突入か

集英社オンライン / 2025年1月16日 7時0分

「バイデン大統領の行動は恥ずべきもの」USスチールのCEOも激怒…日本製鉄による買収不成立なら工場閉鎖で大量の失業者も〉から続く

大手受験予備校「ニチガク」を運営する日本学力振興会が1月10日に東京地裁に自己破産を申請した。教室に通っていた生徒は約130人。本格的な受験シーズンを迎える直前に事業を断念するという最悪の結末を迎えた。予備校や学習塾は個別指導ニーズが高まるなど転換期を迎えており、「スタディサプリ」といったオンライン教育サービスも台頭。中小の運営会社が大淘汰される未来も見えてくる。

【グラフ】学習塾指数と人口の推移

受験戦争は過熱の一途を辿るも生徒数は増加せず…

少子化で学習塾・予備校が苦戦する未来は、経済産業省が示したデータから容易に読み取ることができる。

経済産業省の大臣官房 調査統計グループ 経済解析室は、学習塾を利用する6歳から18歳までの人口推移と、受講生徒数に基づいて指標化した学習塾指数を公表している(「止まらない少子化、学習塾への影響は?」)。

学習塾指数は2015年を基準値の100と定めているが、2016年以降、人口減少が続く中でも基準値を上回って推移していた。2016年が101.3、2017年が102.4、2018年が102.5、2019年が101.7である。

つまり、塾の需要は衰えておらず、市場は盛り上がりを見せていたということだ。

しかし、2020年は95.2まで下がってしまう。コロナ禍で休校要請が出たのだから当然だ。

ポイントはここからの推移だ。2021年、2022年は反動で98を上回ったが、コロナ収束後の2023年は2020年の95.2を下回っている。

人口減とデジタル化の進行によって塾の需要が消失したのは明らかだ。

リクルートホールディングスが運営するオンライン学習サービス「スタディサプリ」は、2021年3月末時点の会員数が前期比97.4%増の157万人に急増した。

このサービスは、学習者向けの独自コンテンツのほか、駿台予備校、河合塾、東進ハイスクールなどの有名予備校講師の協力を得て作成した動画を配信。現役の難関大の生徒から勉強に関するアドバイスを得ることもできる。合格特訓コースで料金は月額1万780円。

通学の時間や手間、講師の雑談、黒板の字を消す時間の短縮も考慮すれば、月2~3万円程度で学習塾に通うよりもコスパ、タイパ(タイムパフォーマンス)は圧倒的にいい。

ただし、教室に生徒を集めるタイプの塾が、志望校に導く確かな実力を持っているとなれば話は別である。

さらに経済産業省は学習塾の売上高指数も調査しており、2015年を基準値の100とすると、この数字は右肩上がりで上昇している。コロナ禍で跳ね上がり、2023年は110を軽く超えて過去最高に達した。

難関中学受験の名門として知られる「SAPIX」の小学部は、6年生の1年間だけで130~150万円の費用が必要。1年生から通うと400万円はかかる。

首都圏の2023年における私立・中学入試は受験生が過去最多となったが、受験戦争は以前よりも過熱しており、実力のある塾は高単価化が進んでいるのだ。

大手の営業利益率が8%前後と好調な裏で7期連続赤字の会社も

学習塾はもともと大手による再編が進んでいた業界だ。

ベネッセコーポレーションは「お茶の水ゼミナール」や「東京個別指導学院」を買収。「代々木ゼミナール」を運営する学校法人高宮学園も「SAPIX」の運営会社2社を取得し、「東進ハイスクール」のナガセは、「四谷大塚」「早稲田塾」を傘下に収めた。

実は学習塾は規模が大きいほど収益性が高まりやすいという特徴がある。

売上高500億円規模のナガセは、2024年3月期の営業利益率が8.6%。300億円規模の早稲田アカデミーが8.8%、同規模で「TOMAS」を運営するリソー教育が7.9%だ。

一方、「城南コベッツ」の城南進学研究社の売上高は60億円に届いておらず、営業利益率は0.5%。100億円台の秀英予備校も2.1%だ。

城南進学研究社と売上同規模の進学会ホールディングスに至っては、7期連続の営業赤字である。

現在の塾ビジネスにおいては教室数で面を押さえつつ、顧客ニーズに柔軟に対応できるソフト力を醸成できるかが重要だ。

塾専用のバックオフィスツールを提供するPOPERは、学習塾に通う子供を持つ保護者にアンケート調査を実施している(「【保護者300人と学習塾70教室に聞いた「保護者と学習塾の意識調査」】」)のだが、その調査において、子供が通う学習塾を知るきっかけで最も多いのが「知人・友人の口コミ」で47.0%。次いで「教室を見かけた」が30.7%を占める。

一方、学習塾選びの基準を尋ねる項目において、「自宅・学校から近い」が49.7%、「子どもに合うカリキュラムがある」が44.0%、「講師や教室長とのコミュニケーションが取りやすい」が41.3%だ。

つまり、自宅から近い場所を基準とし、カリキュラムやコミュニケーションの取りやすさなどソフト面を重視。知人の高評価が背中を押しているということだ。「成績アップが見込める」(23.3%)ことや、「合格実績がある」(17.7%)かどうかは選択基準としては高くない。

塾は「SAPIX」のように圧倒的な合格ノウハウを求める層と、学習塾のソフト力を重視する層の2極化が進んでいるのだ。

特に後者は「スタディサプリ」のようなWeb型が新たな脅威になっており、競争が激化している。

さらにいえば、学習塾は集団指導型の比率が下がっている。2009年は69.0%だったが、2017年は63.0%だ(三井住友銀行「学習塾業界を取り巻く事業環境と今後の方向性」より)。

これも塾のソフト力が上がっている例だが、知名度が高く、塾講師を雇用しやすい大手がより有利になっているのだ。

大手はマス広告から手を引き始めたか?

興味深いのは大手の広告宣伝費が下がっていることだ。

ナガセは2019年3月期の売上高広告費比率が13.6%だったが、2024年3月期は7.9%だった。早稲田アカデミーも同じ期間において、6.0%から3.9%に下がっている。

名のある学習塾や予備校はテレビや新聞、公共交通機関などに大量の広告を投下して集客するのが一般的だった。

一方、中小の運営会社はポスティングや看板、リスティング広告などエリア限定の手法を使って集客しており、集客手法の棲み分けができていたのだ。

今後、大手がマス広告からローカルマーケティングへの移行が進むと、中小の運営会社が影響を受けることになるだろう。

生徒との接点が多いことも集客メリットとなる。

2020年に臨海セミナーの運営会社に対し同業他社が業務改善を求める申入書を送付していたことは記憶に新しい。これは、塾の生徒を通して個人情報を集め、それを勧誘に使っているというものだった。

これは悪質なケースだが、学習塾や予備校による生徒に対する季節講習などの勧誘は少なからず存在する。塾経営においては、いかに多くの生徒や親と接点を持つかが重要なのだ。

東京商工リサーチによると、2024年の学習塾の倒産件数は53。2000年以降で過去最多となった。

中小の運営会社の倒産またはM&Aによる再編が加速する未来が見えてくる。

取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock

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