チョコレートがキャビアと同じ“セレブの食べ物”に!? 「販売自体をやめてしまったほうが…」カカオの歴史的高騰に苦しむ洋菓子業界の嘆き
集英社オンライン / 2025年1月18日 10時0分
子どもからお年寄りまで、世代や性別を問わず愛されるお菓子の定番、チョコレート。特に1月後半から2月中旬にかけては、バレンタイン商戦の影響により1年でもっともチョコレートが売れる時期だ。しかし、今年は例年と少し様子が異なっている。チョコレートの原料であるカカオが、“カカオショック”と呼ばれる歴史的な価格高騰に見舞われており、業界全体がさまざまな工夫や苦戦を強いられている状況だ。
【グラフ】ほぼ直角に爆上がり…チョコレートの原料・カカオの先物価格推移
個人店も大手メーカーも大苦戦。次々と値上がりするチョコレート製品
「結論から言うと、これからもチョコレートの価格は上がっていくと思います。もはや、個人店はやっていけないでしょうね」
そう語るのは、東京の下町エリアにあるカフェの店主。同店では昨年10月、チョコレートの原料であるカカオの価格高騰に伴い、仕入れ業者からチョコレートの値上げを告げられたという。
その後、年明け1月にはさらに値上げがあり、現在の仕入れ価格は従来の約1.5倍にまで上昇しているとのことだ。
「うちでチョコレートを使っているのは、パフェやパン・オ・ショコラ、ホットチョコレートなどですね。仕入れコストが上がっているぶん、当然ながら利益率は下がっています」(同カフェ店主)
それにもかかわらず、現時点で商品の値上げは検討していないという。
その理由について、「うちはもともと価格設定を少し高めにしているため、原材料費が上がったとしても、まだ余裕があるんです」と明かしてくれた。
一方で、個人経営の洋菓子店の中には、商品の値上げを行なうべきかどうかの決断を迫られている店もあるようだ。
インタビューに答えてくれた都内の洋菓子店も、やはり仕入れ業者からチョコレートの値上げを告げられたという。
「去年、業者から何度かチョコレートの値上げがあり、現在では仕入れ価格が以前までのほぼ倍になっています。具体的な金額はお話しできませんが、かなりの負担になっていますね。
他店ではさらに値上がりしているケースもあるようで、このあたりは取引業者との関係性によって差があるみたいです。
当店では、昨年すでにチョコ系のケーキを値上げしました。なので、再び価格を上げるのは正直、気が引けます。
現在、物価が高騰している一方で、賃金の上昇が追いついていませんよね。消費者が節約を考える際、真っ先に削られるのが食費。特にケーキのような嗜好品は、最初に購入を控えられてしまいます。
対策するのであれば、価格は据え置いたまま、小さくして内容量を減らす、なども考えられます。
でも、うちはシュークリームやタルトを買っていくお客さんのほうが多いんですよ。だからコスト面だけを考えたら、チョコ系のケーキは販売自体をやめてしまったほうが、合理的かもしれません」(都内洋菓子店店主)
また、個人店だけでなく、大手メーカーも厳しい経営環境に直面している。
たとえば森永製菓は、昨年から複数回にわたって値上げを実施しており、今年2月以降も「チョコボール」や「小枝」といったチョコレート菓子の値上げを予定している。
明治は昨年からチョコレート製品の値上げや内容量削減を繰り返し、1月17日には、3月1日出荷分から「チョコレート効果」の一部ラインナップを最大約3割値上げ、5月20日からは「きのこの山」「たけのこの里」の内容量をそれぞれ約1割ずつ削減することも発表した。
さらにロッテも、昨年11月出荷分より「コアラのマーチ」や「パイの実」といった人気商品を最大約4割値上げしており、大手各社が次々と対応を迫られている状況だ。
史上最高値を更新するカカオ高騰。原因は…
それにしても、なぜカカオの価格はこれほどまでに急騰しているのだろうか。
その主な原因は、主要な原産国である西アフリカの気候にあるという。
「ここ数年、西アフリカ諸国では猛暑や干ばつ、さらには大雨による洪水といった異常気象が続いています。それだけでなく、カカオの木を枯らすウイルスが広がるなどの被害もあり、生産量が激減しているんです」(前出・カフェ店主)
こうした説明は、他のメディアでも多く取り上げられている。しかしチョコレート専門店によれば、気候要因だけでなく、地政学的リスクもカカオの価格上昇に影響を与えているという。
「当店では、ドミニカやベトナム、グアテマラなど、さまざまな産地のカカオを使用した製品を取り扱っています。でも、たとえばグアテマラでは、内戦が原因で工場が焼けてしまって……。供給が非常に困難で、グアテマラ産のカカオを使用した製品は、現在店頭に並んでいる分で終売となります」(都内チョコレート専門店Aの店員)
カカオの価格動向を具体的な数字で見てみると、ニューヨーク市場のカカオ先物相場では、過去10年ほど1トンあたり2000~3000ドル程度で推移していた。
しかし、2023年から徐々に価格が上昇し始め、2024年に入るとさらに値動きが激化。3月には1トンあたり6000ドルほどから10000ドルにまで急騰し、4月には12000ドル台をつけた。
その後、一時的に7000ドルを下回る水準まで“調整”が入ったものの、昨年11月ごろから再び上昇。12月には再び12000ドルに達した。そして、1月初旬現在でも1トンあたり11000ドル前後と、依然として高値が続いている状況だ。
こうした状況下で迎えるバレンタイン商戦は、確実に各店を苦しめている。
「当店を含め、今年のバレンタイン商戦では、チョコレートをあまり使わない商品を展開する店舗が増えています。
価格が高額になると、ボンボンショコラやタブレット(板チョコ)のような純粋なチョコレート製品はどうしてもお客様の手が伸びにくくなってしまうので、チョコフレーバーの焼き菓子などのほうが主流になっていますね」(都内チョコレート専門店Bの店員)
バレンタインなのに“チョコ離れ”が加速……米のように高価格が続く見込みも
また、先ほどの都内チョコレート専門店Bの店員は、この価格高騰が業界にさらなる打撃を与えていると指摘する。実は近年、バレンタイン商戦そのものが盛り下がりつつあるという。
「『バレンタイン=女性が男性にチョコを渡す』というのは、すでに過去の話です。現在では、性別を問わずチョコ好きが“自分用”に購入するイベントへと変化しています。
しかし、いまはどの商品も値上がりしているため、これまで複数の店舗でバレンタイン限定商品を購入していた客層も、今年はお気に入りの1店舗に絞って買う傾向が強まると思います。
さらに最近では、バレンタインにチョコレートではなく、バッグや財布、アクセサリーといった別のプレゼントを選ぶ人も増えています。
そうした状況で現在の価格高騰が起きているため、『この値段なら、もう少し頑張ってアクセサリーを買う』という人が、今年はもっと増えるかもしれません。
チョコレート店にとって、バレンタインの時期は年間売上の半分近くを稼ぐ、まさに“稼ぎどき”です。この重要な期間に“チョコ離れ”が加速するのは、非常に大きな痛手です」(前出・都内チョコレート専門店Bの店員)
“泣きっ面に蜂”のごとく、洋菓子業界に追い打ちをかけている“カカオショック”。
しかし、この状況は今後も続く見通しであり、将来の展望も決して明るいとは言えないようだ。
「カカオは栽培から収穫までに数年単位の時間がかかるため、当分の間、この高価格帯が続くと思います。昨年の“米騒動”以降、お米の価格が下がらず高値が続いているのと同じような状況になるのではないでしょうか。
当然、このままではチョコレートの消費を控える人が増えるでしょうね。人々の賃金が上昇して余裕が出ない限り、業界の未来はあまり明るくないのかなと……」(前出・都内チョコレート専門店Bの店員)
厚生労働省が1月9日に発表した昨年11月の毎月勤労統計調査によれば、実質賃金は前年同月比で0.3%減少しており、これで4カ月連続のマイナスとなった。
このままでは、庶民に愛されてきたチョコレートも、キャビアやフォアグラのような“手が届かない贅沢品”になってしまうかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 サムネイル/Shutterstock
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