ジャンプ編集部からも当初は「ウケないんじゃないか?」と…『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦が明かす最大の敵“ディオ”のキャラ設定秘話
集英社オンライン / 2025年1月24日 17時0分
漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズをはじめとする荒木飛呂彦作品に登場する名悪役たちの魅力とリアリティはどのようにして生まれるのか? これまで語られてこなかった漫画家・荒木飛呂彦の「企業秘密」を掘り下げた書籍『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』が話題だ。
本記事ではジョジョ・シリーズ序盤の最大の敵であるディオ・ブランドーの設定秘話をお届けする。
悪を際立たせる主人公の立ち位置
悪役キャラに必要な条件のひとつは、「主人公は、こいつに勝てそうにないんじゃないか?」と読者が心配になるほど強い! ということですから、第1部では、とにかく「ディオはこんなにすごい!」ということを描いていた記憶があります。
相手が強ければ強いほど、主人公vs.悪役の戦いがおもしろくなりますし、主人公はその困難な戦いを通して大きく成長できます。貴族の息子として幸せに暮らしていたジョナサンに対し、強烈な悪の魅力を放つディオは常に先を行っているので、その分、ジョナサンはどうしても平均的な人物にならざるを得ません。
そんな平凡な若者だったジョナサンも、強大な敵であるディオと戦うことで、大切なものを守り抜くヒーローになっていきます。ディオという素晴らしい悪役の存在が、ジョナサンをそこまで引き上げていったのです。
一方、悪役というものは主人公がいてこそ成り立つのですから、悪を魅力的に描くためには、主人公をどういうキャラクターにするかということが軸になります。
ジョナサンをディオと同じくらい強烈なキャラクターにするということもできなくはないですが、必ずしも「善」と「悪」を拮抗させる必要はありません。平凡なジョナサンは、いわば『シャーロック・ホームズ』シリーズにおけるワトスンの役回りで、ファンタジー漫画の中の「基準点」という立ち位置です。
『魔少年ビーティー』の公一くん、あるいは『ジョジョ』第4部の康一くんのような、読者と同じ常識を持っているキャラクターという「ゼロ地点」があるからこそ、そこと悪との間にあるギャップの激しさが浮き彫りになっていきます。
漫画には、こういう平凡な人物が少なくともひとりはいないと、何が基準かわからなくなってしまう恐れがあり、もし出てくるキャラクターが皆、ディオのようなタイプだったら、ああいう邪悪さが「普通」になってしまうでしょう。
これがディオ・ブランドーの身上調査書だ!
実は、ディオの身上調査書もジョナサンの身上調査書も、もう手元にはありません。見直すために取ってある身上調査書もいくつかありますが、漫画に描いたらもうそこにキャラクターはいるわけなので、「もういらないや」と捨ててしまったり、気づいたらどこかにいってしまったりしていることが多いのです。
これはキャラクターのスケッチも同様で、ファイリングしても後で探すのが大変ですし、あればあったで消したり書き直したりしたくなるでしょう。それより漫画で描いていく方が重要なので、身上調査書をわざわざ取っておくということはしていません。
というわけで、『ジョジョ』第1部をスタートする当時のことを思い出しながら、今回新たにディオの身上調査書を作ってみることにします。
ジョナサンを常に上回っている存在としてのディオをどう描くかは、第1部において決定的に重要なポイントでした。まず考えたのは、「悪のかっこよさ」を体現するキャラクターにしようということです。
昔で言えば『巨人の星』の星飛雄馬に対する花形満のように、少年漫画には「かっこいい悪役」の伝統があり、ディオの身上調査書も、海外のアイドルのビジュアルなどもイメージしながら、「美しい、かっこいい少年」として作っていきました。
ディオという名前はジョナサン・ジョースターの「ジョジョ」と対比させ、同じ「ジョ」で始まらないというのはもちろん、言葉のシルエットのようなもの、たとえば丸い語感にしないとか、濁点が多いとか、そういう部分でも悪役としてのディオを表現したいと思いました。
ディオという名前には、イタリア語の「ディオ」より「神様」というニュアンスを被せ、全能感のイメージにつなげているのですが、そのころ、ロニー・ジェイムス・ディオというロック・ミュージシャンがいたので、「ディオ」には元々馴染みがあったのです。
さて、ディオのビジュアルです。身長は185センチぐらいと背が高く、セクシーな肉体を持っている。黒髪のジョナサンと対比させるために髪の色は金髪にし、瞳の色はグリーン。
昔ながらの悪役と同じく、目はちょっとつり目で、笑うとエクボと牙が出る。女の子にはモテるけど、自分から誰かを愛するというより支配的な感じ……そんなちょっとしたメモのようなことを書いていくうちに、ディオというキャラクターが、ビジュアルとしてだんだん浮かび上がってきます。
『ドラゴンボール』『キン肉マン』『シティーハンター』
次は家族関係です。実際に漫画には描かないとしても、僕がキャラクターを考えるときは必ず「この人はどういう生い立ちなのかな」と想像するようにしています。
ジョナサンは貴族の息子で、母親が早くに亡くなったこと以外は、何不自由ない境遇にいますから、対するディオは貧しい、悲惨な家庭に育ったということにしました。母親が早くに亡くなったことはジョナサンと共通していますが、ディオの方はアルコール依存症の、どうしようもない父親からDVなども受けています。
ただ、それだけではまだ何かが足りない感じがしたので、「ひどい父親は嫌いだけど、お母さんは好き」となりがちなところを、「あんなおぞましい父親に尽くした母のことも軽蔑している」という設定にしました。このあたりのディオの心情は漫画では描きませんでしたが、描かれていない部分も「こんなとき、ディオならどうするか」と考える際の大事な情報になるのです。
そんな不幸な生い立ちに負けずにのし上がっていくディオですが、それができるのは単にハングリー精神が旺盛というだけではなく、何か突き抜けた才能があるということにすれば、さらに「かっこいい」キャラクターになります。そこで、学校には通えなかったけれども、通う必要がないくらい抜群に頭がいい、天才的な少年という要素も付け加えました。
続けて埋めていったのが、「性格」の項目です。「ウソと虚飾」「次に支配」「そして排除」などの言葉が並んでいますが、要するにディオはパラサイトなんです。
自分の本心を隠してジョースター家という貴族に寄生し、奪えるものを奪いながら、乗っ取っていく。そのときジョナサンが邪魔なので、排除しようとするわけです。そこから、ジョナサンとディオの戦いが始まっていきます。
そうやってディオのキャラクターをだいたい作ったところで入れていったのが、吸血鬼の世界観でした。
なぜ「吸血鬼」だったかというと、当時の『少年ジャンプ』は『ドラゴンボール』『キン肉マン』『シティーハンター』などヒット漫画の名作揃いで、その中で自分の個性を出していくには、『ジャンプ』ではほとんど誰もやっていないダークな世界を描いてみるのがいいのではないか、と考えたからです。
編集部からは「そういうのはウケないんじゃないかな」と言われましたが、そもそも僕が描きたかった「自分には身に覚えがない、先祖からの因縁で敵が襲ってくる恐怖」は、イケイケの明るい世界観とは水と油です。
もし、「やっぱり明るい世界観じゃないとダメかな」と自分を曲げていたら、『ジョジョ』のキャラクターと世界観が融合せず「なんかしっくりこない漫画」になっていたでしょう。
「絶対に譲れない」と自分の想いを貫いて、「吸血鬼だったら、不老不死だよね」「ディオなら、こういうセリフを言うだろうな」と、いろいろな要素を融合させていき、出来上がったのが、ディオというキャラクターでした。
漫画・表/書籍『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』より
写真/shutterstock
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