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第二次大戦後、アインシュタインも提案していた「世界から戦争をなくすただひとつの解決策」とは?

集英社オンライン / 2025年2月12日 7時0分

なぜ今もなお世界で戦争が起きるのか。この問いを理解するためには、「暴力を管理する権限」を持つ「警察」の不在という、国際社会の根本的な特徴を理解する必要がある。地政学動画で平均150万回再生を記録する社會部部長が、不変の地政学の法則を解説した『あの国の本当の思惑を見抜く地政学』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

【画像】つい最近の日本でも、1位の企業に対抗するために2位以下の企業が協力して…

「世界の警察」は存在しない

世界からなぜ戦争がなくならないのか。この疑問にはさまざまな答えがあるでしょう。例えば、国と国との間に利害の対立があるから、宗教や文化の違いで争いが起こるから、歴史的な憎しみが続いているから、あるいは人は本質的に愚かだから、といった哲学的な理由まで考えられます。



しかし、ここでは少し視点を変えて考えてみましょう。なぜ、戦争が起きたときに誰も強制的に止めることができないのでしょうか? ここで鍵となるのは、国内社会と国際社会における、暴力への対応の違いです。

まず、日本国内での場合を考えてみましょう。日本国内で誰かが暴力を振るったら、すぐに警察がやってきて、その人を捕まえます。日本には「暴力を振るってはいけない」という法律が存在し、問題を話し合いで解決するよう人々は強制されます。

そして、もしこの法律を破る人がいれば、警察が力ずくで制止します。つまり、国内社会では警察が「暴力を管理する権限」を持っており、これのために警察以外の人による暴力を防ぐことができるのです。

では、これが国際社会ではどうでしょうか。もしある国が別の国から突然攻撃を仕掛けられたとしても、110番通報をして、警察が止めに来てくれることはありません。なぜなら、そもそも「世界の警察」なるものは存在しないからです。

例えば、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻したとき、ウクライナはなす術もなくクリミア半島を奪われてしまいました。欧米諸国はロシアを強く非難しましたが、ウクライナまで駆けつけて助けることはありませんでした。

軍隊は絶対になくならない

一応、「戦争を起こしてはいけない」という国際法は存在します。しかし、それをすべての国に強制する機関が、世界には存在しないのです。だからこそ、一部の国は「戦争を起こしても罰せられないだろう」と考え、問題を暴力で解決しようとします。

よって、世界から戦争をなくす究極的な解決策は、世界全体を1つの国にまとめ、単一の警察を作ることです。言い換えれば、「世界政府」を樹立し、世界全体をある国の「国内」にしてしまうことなのです。

世界政府ができれば、「この地球上で暴力を振るってはいけない」という法律を制定し、「世界警察」が違反者を取り締まることができます。実際に、アインシュタインは第二次世界大戦後に同様の提案を行いました。

「私が世界政府を擁護するのは、今まで人間が遭遇した最も恐るべき危険を除去する方法が他にはあり得ないからである。人類の全体的破滅を避けようという目標は、他のいかなる目標よりも優位でなければならない」(アインシュタイン『国際連合総会へ』より)

世界政府が無理ならどうするか

しかし、現実的に「世界の警察」が存在しない以上、国家は他の国から攻撃されたときには自分たちの手で自国を守らなくてはなりません。こうして、各国は「強い国」になろうとします。

少し想像してみましょう。もし日本に警察がいなかったら、あなたはどうするでしょうか? 暴力を振るわれても、誰も助けに来てくれません。泥棒に家財を盗まれても、誰も取り返してくれません。

このような状況下では、最悪の場合、あなたは生きていけません。究極的には、殺人すら誰も止めてくれないからです。そこで、あなたが自らを守るために取る方法が、今より強くなることです。例えば、武器を手に入れたり、家の防犯を強化したりすれば、暴力や泥棒から身を守れるでしょう。

ところが、ここで問題が生じます。もし隣の家の人が自分よりももっと強力な武器を持っていたら、どう感じるでしょうか? おそらくあなたは、不安になるでしょう。もし隣人の攻撃に遭えば、自らを守り切れないからです。

1つの国が強くなりすぎないように

そこであなたは、「隣人に負けないように、もっと強くならなければ」と考えて、より強力な武器を手に入れようと努力します。しかし、今度はあなたの行動を見た隣人も同様に「もっと強くならなければ」と感じます。こうしてあなたと隣人はどんどん強くなっていきます。

この競争が続くうちに、お互いに「これ以上の力は必要ない」と感じるときが来るかもしれません。それは、どちらも相手と同じくらい強くなり、相手が攻撃しようとしても自分も反撃できるくらいの力を持っていると認識するからです。

こうして両者が同じくらいの力を持ち、どちらかが攻撃してもおそらく失敗する、「力の均衡状態」が成立します。こうなれば、お互いに攻撃を仕掛けても意味がない状態が確立されます。

国家間でも同じような関係が成立します。人間や動物と同じく、国家は「生き残り」を至上目標とします。国際社会には警察がいないので、各国は強くなって他の国から自らの生存を守らなければなりません。しかし、周りの国々もそれに対抗して強くなり、力を均衡させようとします。この力が均衡した状態を「勢力均衡」と呼びます。

ここでいう「勢力」とは、ある国が他国に対して自らの意思を押し通す能力、要するに「国の強さ」を表します。一口に「国の強さ」といっても、完璧に測ることはできません。経済力や軍事力は良い指標ですが、それだけで勢力は決まりません。

例えば、日本は経済力でロシアを上回っていますが、ロシアより強いかというと、そうでもありません。ロシアは領土、人口、軍事力、その他多くの側面で日本を上回っているからです。とはいっても、世界には「強い国」と「弱い国」が確かに存在します。アメリカは明らかに強い国ですし、ニカラグアは明らかに弱い国です。勢力はこうした国の大体の強さを表します。

勢力均衡を全世界規模で保つために大事なのは、1つの国が強くなりすぎないようにすることです。1つの国が他の国よりも圧倒的な勢力を得ると、その国は他のすべての国を征服できるようになってしまいます。

世界征服を防ぐには

例えば、全部で4つの国がある世界で考えてみましょう。A国は10の勢力、B国、C国、D国はそれぞれ2、3、2の勢力を持つとします。すると、B国、C国、D国の勢力をすべて足し合わせても7しかなく、A国(10)に対する勢力は均衡しません。

こうなると、3か国がどれだけ力を合わせて対抗してもA国の攻撃を防げないので、世界はいずれA国によって征服されてしまいます。

A国のように圧倒的に強く、他のすべての国を支配する勢力を持つ国を「覇権国」と呼びます。覇権国の成立を防ぐことは「国際政治の鉄則」であり、古代から現代までどんな地域でも重視される普遍的な原則です。

古代ギリシャの歴史家ポリュビオスも、「我々は、単一の国家がその明白な権利についてさえ争うことを誰もが恐れるほど圧倒的な力を持つようになることに決して貢献してはならない」と述べました。

では、覇権国の成立を国際社会はどのように防ぐのでしょうか? その方法は、「潜在覇権国」を封じ込めることです。潜在覇権国とは、将来的に覇権国になるかもしれないほど強い国です。前の例に戻ると、仮にA国が6の勢力を持っていれば潜在覇権国と見なされます。B国、C国、D国の勢力7でまだ対抗できるものの、そのまま強くなり続ければいずれ覇権国になるからです。

国際社会では、他の国々が協力して潜在覇権国の勢力を抑え込もうとします。こうした潜在覇権国を抑えるための集まりを「対抗連合」と呼びます。諸国は手を組んで、潜在覇権国が覇権国になる前にその勢力を止めようとするのです。

どんな社会でも、潜在覇権国を対抗連合が抑える現象は起こります。例えば、戦国時代の織田信長に対する武田・上杉・毛利の反信長連合。この場合、織田信長は日本を統一する可能性が最も高い「潜在覇権国」で、武田・上杉・毛利はそれを阻止する対抗連合です。

中国の春秋戦国時代にも、強大な秦に対して韓・魏・趙・燕・楚・斉の6か国が連携する動きが見られました。第一次・第二次世界大戦においてドイツを封じ込めたイギリス・フランス・ロシア(ソ連)の連合、その後の冷戦でソ連を封じ込めた西側陣営、また、近年の中国に対抗するための台湾・日本・アメリカ・フィリピンの連携も勢力均衡策の1つです。

あるいは、ビジネスにおいてある業界の1位の企業に対抗するために2位と3位の企業が協力する動きも勢力均衡の一種です。このように、勢力均衡は人間社会において平和を維持するための普遍的な原則です。

写真/shutterstock

あの国の本当の思惑を見抜く 地政学

社會部部長
あの国の本当の思惑を見抜く 地政学
2025/1/24
1,980 円(税込)
336ページ
ISBN: 978-4763141880

地形的に見ると、アメリカもロシアも中国も弱い。
だから、戦争をやめられない。


近年、「世界情勢を理解したい」という需要が増えています。
ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル戦争、中国の台湾・尖閣諸島・南シナ海での野心的行動など、ニュースで不安定な国際情勢にまつわる話題を見聞きしない日はありません。

国際政治を考える上で、まず見るべきものは何でしょうか?
歴史、文化、統計、報道——どれも重要です。
しかし、本書はそれが「地理」であると考えます。

ニュースを普段見ていると、外国首脳の発言や人々の意見ばかりが目に入ります。
それらを見ていると、世界情勢を動かしているのは「人間の意志」だとつい思いがちです。
しかし、人間の思考や行動は、私たちが思っている以上に地理に動かされています。
それも、気づかないうちに。

地理を基準に世界を眺めると、次のようなさまざまな事実が見えてきます。

●アメリカは広い海で隔てられるので「攻められづらい」国だが、同時に他国を「攻めづらい」国でもある
●ロシアはヨーロッパの大国と平らな地形で繋がっているせいで、領土を拡大し続けなければならない
●対立を深めるアメリカと中国は、実は国土や隣国との関係など、「似た者同士」である
●日本にとって朝鮮半島はユーラシア大陸との「橋」。朝鮮半島の安全を確保することは伝統的な地政学的課題

寒い場所では、港が流氷で閉ざされて、貿易ができません。
「国を守ろう」と思っても、地形が平坦だとかなり苦労します。
地理が「檻」だとすれば、国は「囚人」です。
囚人に何ができて、何ができないかを知るには、まず檻の形を知らなければならないのです。

本書は、地政学動画において平均再生回数150万回という圧倒的な支持を得る著者・社會部部長が、不変の地政学の法則を解説する1冊。
「海と陸」というシンプルな切り口を中心に、これまで世界で起きてきたことの真の理由を知り、今の世界で起きていることを「自分の頭で考えられるようになる」本です。

【目次より】
序章 今、地政学を学ぶ意義
第1章 アメリカ 強そうで弱い国
第2章 ロシア 平野に呪われた国
第3章 中国 海洋国家になろうとする大陸国家
第4章 日本 大陸国家になろうとした海洋国家
終章 地政学から学べること

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