「武器オタク石破」の真骨頂? 防衛費初の8兆円超、アメリカ追従の「衛星コンステレーション」構想はなにがヤバいのか
集英社オンライン / 2025年1月24日 7時0分
1月24日開会の通常国会で審議される2025年度当初予算案の中で、防衛費が初の8兆円超えとなる見込みだ。中でも注目は「衛星コンステレーョン」と呼ばれる新たな人工衛星群の保有計画だが、これには「またアメリカに煮え湯を飲まされる」との声もあがっているようで…
【画像】大統領令に署名したトランプ米大統領がアレを投げたっ!
自衛隊の主戦場は一転して宇宙へ
1月24日開会の通常国会で審議される2025年度当初予算案の中で目立つのは、初の8兆円超え予算(8兆7005億円)となった防衛費だ。
その特徴は攻撃力の向上に必要な長射程のミサイル導入にとどまらず、「衛星コンステレーョン」と呼ばれる新たな人工衛星群を保有することだ。
「武器オタク石破(茂首相)」ならではの新機軸といえるだろう。実現となれば、演習場を這いずり回る泥臭いイメージがある自衛隊の主戦場は一転して宇宙へと拡大する。
岸田文雄政権が2022年12月に安保関連3文書を改定して「敵基地攻撃能力の保有」「防衛費の対GDP比2%増」を閣議決定したことを受け、専守防衛に徹してきた自衛隊に攻撃力を与え、そのために必要な兵器を導入する防衛費倍増が認められた。
その結果、23年度以降、防衛費は毎年約1兆円ずつ増加、その大半は敵よりも遠方から攻撃できるミサイルの保有を意味する「スタンド・オフ防衛能力の向上」に充てられた。
具体的には米国製の巡航ミサイル「トマホーク」購入や国産の12式地対艦誘導弾能力向上型など5種類の長い射程のミサイル開発・生産に使われたほか、「いずも型」護衛艦2隻の空母化改修費にも回された。
1954年の創設以来、専守防衛でやってきた自衛隊は侵攻する敵を排除するための武器を揃え、そのための部隊を編成し、訓練を繰り返してきた。当然、他国への攻撃を求められてもどこに敵基地があるのかを知るための情報は乏しい。
すでに日本には情報収集衛星という呼び名の事実上の偵察衛星があるが、敵基地攻撃には力不足なうえ、飛来する弾道ミサイルの探知には役立たない。そこで浮上したのが「衛星コンステレーション」という新たな衛星群を持つことだった。
「衛星コンステレーション」について、防衛省の予算書には「一定の軌道上に多数の小型人工衛星を連携させて一体的に運用するシステムのこと」とある。このシステム構築に政府は2025年度防衛費予算案で2832億円を計上した。
多数の衛星を軌道上に載せることで敵基地の特定に活用するとともに、HGV(極超音速滑空兵器) と呼ばれる超音速で予測不能な飛び方をする新型ミサイルに対処する狙いがある。
HGVとして知られ、ウクライナ戦争でも使用されたロシアの「アバンガルド」、「ツィルコン」や中国の「DF(東風)17」、北朝鮮の「火星16B」は大気圏の上層部を滑空しながらマッハ5以上の超音速で飛翔し、目標に向かって落下してくる。
こうした新型ミサイルは水平線の向こうから突然現れるため、地上レーダーの探知では遅れが生じ、迎撃失敗となりかねない。だが、宇宙から俯瞰すれば、発射から飛翔、落下までを漏れなく監視することができる。
防衛省は2021年度防衛費の宇宙関連分野に過去最大の約659億円を計上、初めて「ミサイル防衛のための衛星コンステレーション活用の検討」が登場した。25年度防衛費では本格導入を目指し、「令和7年度末から構築を開始する」としている。
「アメリカが非公式に協力を打診してきた」(防衛省幹部)
衛星コンステレーションで先行するのは米国だ。米国防総省は2019年3月に宇宙開発庁を新設し、最大1200基の衛星コンステレーション網を構築する計画を発表。25年までにシステムの中核となる250基による運用開始を目指すとした。
ノースロップ・グラマン、レイセオン、レイドス、L3ハリスの4社が衛星群の開発を進めているが、米国防総省はこれで十分とは考えていない。
なぜか? 衛星群の維持管理が難題なのだ。「衛星コンステレーション」は1基数百キログラムの小型衛星となるため、搭載できる燃料が限られ、寿命は短い。寿命を5年として計算すれば、毎年240基を打ち上げる必要がある。
1基あたり1千万ドル(15億円)程度と安価とはいえ、1200基もの衛星群を維持するには巨額の費用がかかる。その費用試算はロケットの打ち上げ費を別にしても年間約24億ドル(3600億円)にのぼる。
防衛省幹部は「『衛星コンステレーションを一緒にやらないか』と米側が非公式に協力を打診してきた」と打ち明ける。これを受けて防衛省は、高い衛星技術を持つ三菱電機、NECなどが参加できるか、模索を開始した。
もともと日米には2015年4月に設置された日米宇宙協力ワーキンググループ(審議官級)があり、宇宙政策や戦略にかかる幅広い議論を続けている。その成果として24年8月には「宇宙に関する日米包括的対話における日米両政府共同声明」を発表。「衛星コンステレーション」について「協力を進めることを含め、宇宙安全保障協力の更なる強化について議論した」と表記された。
つまり、「衛星コンステレーション」をめぐっては米国が先行し、後続の日本と連携することを検討中ということになる。とはいえ、25年度防衛費で運用を開始する以上、日米で連携するか、日本独自の衛星群とするか早急に決断しなければならない。
問題は、日米連携が進めば、日本が米国の戦略に組み込まれることにある。米国防総省は「衛星コンステレーション」構想が浮上する以前の2013年、「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想を発表した。「衛星コンステレーション」がハードウェアだとすれば、IAMDはソフトウェアにあたる。
IAMDは「敵のミサイル攻撃阻止のため、防衛的、攻撃的能力をすべて包括的に結集させる」とされ、防衛にとどまらず、攻撃を含む。防衛省が衛星コンステレーションの日米連携を進めれば、いずれIAMDへの参加に踏み切らざるを得ない。
2020年3月には日米で情報を共有できる新システム「共同交戦能力(CEC)」を搭載したイージス護衛艦「まや」が就役、翌21前年3月には同じく「はぐろ」が就役した。さらにCECを搭載した航空自衛隊の早期警戒機「E2D」も配備された。
既存のデータ共有システムでは自らのレーダーが探知した場合しか攻撃できなかったが、CEC搭載により共有したデータを相互利用して遠方にいる味方が敵を攻撃できるようになった。戦闘技術の革命といえる。
このCECはIAMD構想の柱であり、日米がIAMDに参加すれば、米軍の情報をもとに自衛隊が敵基地攻撃をしたり、自衛隊の情報をもとに米軍がミサイルを発射したりする「武力行使の一体化」に踏み込むことになる。
「オスプレイ」「グローバルホーク」の二の舞を不安視する声
政府は2018年に「防衛計画の大綱」を改定する際、IAMDへの参加を検討したが、憲法上の問題が浮上するとして見合わせたいきさつがある。
ところが、その4年後の22年に前記大綱を改定した安保関連3文書では中国や北朝鮮、ロシアの脅威を大義名分にして「敵基地攻撃能力の保有」を閣議決定し、「我が国の反撃(敵基地攻撃)能力については、情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する」(国家防衛戦略) とした。
日米共同の協力態勢を構築するには日米一体化を進めるしかない。岸田前首相は24年4月に米国であった首脳会談でバイデン大統領と「指揮統制の連携強化」で合意した。
帰国後の国会で「米国の言いなりになるのか」と野党から追及を受けた岸田前首相は「自衛隊のすべての活動は主権国家たる我が国の主体的判断のもと、憲法、国内法令に従って行われる。自衛隊と米軍がそれぞれ独立した指揮系統に従って行動する。これらに何ら変更はない」(24年4月18日衆院本会議)と釈明した。
だが、現実に「指揮統制の連携強化」をするには情報力、攻撃力とも圧倒的に勝る米軍の言いなりにならざるを得ない。連携を強化すれば、岸田前首相が答弁した「主権国家たる我が国の主体的判断」は失われ、「憲法、国内法令」は無視される。つまり、憲法は空文化し、安全保障政策は米国に乗っ取られ、自衛隊と米軍は完全に一体化することになる。
憲法も安全保障政策も異なる日本と米国が「米国に飲み込まれる形」になって、よいはずかない。その一方で、日米が連携しなければ衛星群の維持はコスト面、技術面で困難を極める。深刻なジレンマである。
拙速に日米連携を進めれば、米国に便利に使われるおそれも出てくる。米政府は当然、費用の分担を求めてくるだろう。日米で折半しても日本側の負担は毎年1800億円にもなる。
振り返れば、事故続きで開発した米国以外、日本しか購入していない垂直離着陸輸送機「オスプレイ」や米空軍が「中国の脅威に対抗できない」としてお払い箱にした滞空型無人機「グローバルホーク」など、日本はアメリカからガラクタ兵器の「爆買い」を求められ、何度も煮え湯を飲まされてきた。
米国の罠にはまり、ふたたび煮え湯を飲まされることはないのか、衛星コンステレーションをめぐる日米連携について、熟慮が求められる。
文/半田滋
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