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「死にたい…」と訴えてきた女性にかけたひと言がきっかけで、自殺未遂にまで発展 一度は退職した福祉職員がそれでも古巣に出戻ったわけ

集英社オンライン / 2025年1月26日 11時0分

〈出戻り社員のその後〉中途退職者は“裏切者”なのか? 5年ぶりに新卒時の古巣へ帰還も1年以内に再退職した理由〉から続く

昨年春、3年ぶりに、ホームレスや貧困層の母子などを対象に生活支援をおこなう社会福祉法人の職員に出戻ったのは、都内に住む30代の真由子さん(仮名、女性)。福祉に対し、並々ならぬ思いを抱いて新卒から入職した法人だったが、利用者の自殺未遂などをきっかけに心を病み、一度退職した。しかし、それでもなお、古巣に出戻った理由とはなんだったのだろうか。

【画像】女性利用者の自殺未遂がきっかけで退職した福祉職員が癒しを求めた先は…

原点は、ホームレスのお婆さんとの交流

昨年春に、新卒時の古巣である社会福祉法人の職員に出戻った真由子さん。3年ぶりに出戻って、まもなく1年経つが、現在の状況を聞いてみた。

「新卒で入職したときは、母子支援施設で働いていたんですが、出戻りで入職した際は、当初から希望していた『ホームレス支援施設』に配属になりました。今は利用者にゴミの出し方やお金の使い方を指導するなど生活支援全般を担当しています。小学生時代からの夢が叶ってすごくうれしいです」(真由子さん、以下同)

溌剌とした笑顔で語る真由子さんの表情からは、日々の充実感が垣間見られた。

真由子さんが働く社会福祉法人では主に、ホームレス支援施設と、経済面や家庭内DVなどを理由に入居した母子生活支援施設の2つの事業で構成されている。

クリスチャンの母とともに、幼少期から教会で、ホームレスの人に向けた炊き出しに参加していたという真由子さん。

福祉の道を志した原点は、小学生のときに経験した“ある出来事”がきっかけだった。

「小学校の通学中、道端で横たわっている70代くらいのホームレスの女性から『何か食べ物持ってない?』って突然話しかけられたんです。びっくりしましたが、なんだか放っておけず…、私は給食のパンをこっそりランドセルに忍ばせて、帰り道にそのお婆さんのところに寄って、パンを分け与えたんです。そこからどんどん仲良くなっていきました。

でもある日、いつものようにパンをお婆さんにあげようとしたら、通りがかりの中年女性に『あの人はホームレスで汚い人だから、ご飯をあげたり喋ったりしちゃいけないよ』って言われました。子どもながら『どうして同じ人間なのに喋っちゃいけないんだろう…』って思ったのが、福祉を志す原点でした」

その後、大学では福祉を学び、生活保護をテーマに研究論文を執筆。社会福祉士の国家資格も取得し、晴れて第一希望だったホームレス支援施設などを運営する社会福祉法人に新卒で入職したのだった。

利用者の自殺未遂と職場内いじめ

そんな福祉業界への並々ならぬ思いを抱き、入職した社会福祉法人だったが、“ある出来事”をきっかけに真由子さんは心を病み、入職6年目で退職することになってしまった。

「私は新卒から『母子支援施設』で子ども支援を担っていました。施設に帰ってきた子どもの勉強を見たり、一緒に遊んだり、行事を企画する仕事です。

ホームレス支援施設への配属は叶いませんでしたが、それでも退所した子どもが会いに来てくれたり、不登校の子どもが学校に通えるようになった時は、この仕事にすごくやりがいを感じていました」

仕事ぶりが評価されたこともあり、5年目で施設のリーダー職に抜擢された真由子さん。しかしそこから暗雲が立ち込め始めた。

「当時、職員が女性ばかりの部署で、職場内でいじめが発生したんです。後輩が、悪口陰口や嫌がらせのターゲットにされてしまい、うつ病を発症後、退職してしまいました。

自分にとっては初めてできた後輩だったので、『どうして守ってあげられなかったんだろう…』って責任を感じ、激しく後悔しました」

そこから真由子さんは不眠に陥り、職場の通勤中に眩暈や激しい動悸に襲われる日々が続いた。症状が3カ月続いたタイミングで、ようやく心療内科を受診。医師からは「適応障害」と診断された。服薬しながら常に脳にスモッグが掛かったような状態で働く日々だったが、“ある出来事”をきっかけに、真由子さんはついに心身ともに限界を迎えることになった。

「ある日、利用者の母親が突然『死にたい…』って言ってきたんです。ただ私もその時すごく疲れていて頭が回らなかったのもあって、全く気の利いた返しができず…。

『誰にでも死にたいって気持ちぐらいありますよ』って軽い感じで言ってしまったんです。そしたら翌日、その母親がベランダから飛び降り自殺を図ったんです。何とか一命は取り留めましたが、上司からは激しく叱責されました。もうあの時は全てが上手くいかなかった。私も限界だなって思いました」

その後、半年間の休職を経て退職した。

退職後の進路は、まさかのパン屋

退職後、新たな道として踏み出した先は、まさかのパン屋さんだった。

「ホームレス支援ができなかったのは唯一、心残りではありましたが、『福祉の仕事に就く』という幼い時からの夢は叶ったので、もう一つの夢だった『飲食業界で働く』という夢を叶えたいと思いました」

しかし、パン屋の朝は想像以上に早かった。体力的な面からわずか1年で退職。自分自身を見つめ直し「自分にはやっぱり福祉しかない」と思えた。次は障害のある子どもの放課後デイサービスで働き始めた真由子さん。

一度、別の道に逸れたからこそ、福祉へのやりがいを再認識することができたという。

「改めて福祉の仕事ってすごく楽しいなって実感して、これからの人生、福祉にとことん向き合おうっていう覚悟が決まりました。そんな中で、思い出したのが原点となったホームレス支援への思いでした」

ただ、ホームレスの支援施設は東京や大阪など限られた場所にしかなく、数も少ない。

「いくつか施設はありましたが、規模も小さく、求人がほとんど出ていなかったんです。そんなときに古巣で人事担当をしている元同期から『今、人手が足りなくて“アルムナイ採用” (自社を退職した元社員を再雇用する採用手法)を始めたところなんだけど、もしよければ第1号として応募してみない?』って誘ってもらったんです。

腫物扱いされたらどうしよう…って不安はありましたが、仕事の勝手も分かってるし、融通もきくかなと思いました」

思い切って昨年、アルムナイ採用枠で面接に臨み、見事第1号として昨年春に出戻ることになった真由子さん。配属先は当初から希望していたホームレス支援施設だった。

「もともと働いていた職場だったから即戦力にもなれましたし、配属にあたっては、原因となった職員と別の施設にしてもらったり、配慮していただきました」

実際に戻ってまもなく1年となるが、出戻りしてよかったか、単刀直入に聞いてみたところ、

「戻ってよかったなって心から思ってます!ずっとやりたかった仕事ができているし、遠回りした分、色んな経験値を得ることもできました。どの業界や職場でも合わない人はいると学べましたし、他人と自分の境界線を上手く線引きできるようになりました。

会社側も私含め退職者が相次いだ期間に、管理職が職場改善やアルムナイ採用に力を入れていることを職員から聞き、もう一度信用してもいいのかなと思ったのも大きかったです」

人手不足などを背景に、アルムナイ採用を取り入れる企業が増加する中、出戻り社員をどう定着させていくのかが、今後の課題の一つになるのかもしれない。

取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部

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