神戸市が“タワマン空室税”を検討するに至った切実な背景…加熱するタワマン投資の恐ろしい行く末「超有名マンション購入客の1割が中国人」
集英社オンライン / 2025年1月25日 10時0分
タワマン価格は相変わらず右肩上がりで、これに伴い「タワマン投資」も過熱する一方だ。そんな中、今年1月に神戸市がタワマンの「空き部屋」の所有者に対して新税を検討していることが明らかになった。その狙いと、タワマンバブルの恐ろしい行く末について不動産評論家の牧野知弘氏に話を聞いた。〈前後編の前編〉
【画像】政令指定都市としては異例、転出者多数の神戸市。一体なにが…
空室課税の実現可能性は低い
不動産評論家の牧野氏は今回の神戸市の政策について「市の心情は分かるが、実現可能性は低い」と見る。
「気になるのは、『どうやって空室を調べるのか』ということです。一軒一軒マンションをまわるアナログな方法では到底できないでしょう。
また、住民票の有無を見ても、当然賃貸オーナーが貸し出していて、単に借り手がいない場合もある。逆に投資用に借りた部屋でも、「まだ借り手がいない」と言い逃れできてしまいます。その辺りの検討が今回の神戸市の提案では判然としません」(牧野知弘氏、以下同)
実現可能性に乏しいだけでなく、最悪のシナリオもあるという。
「現在は『タワマンバブル』といえる状態ですが、歴史的に見ても、バブルは自然と収束します。けれども、投資熱がヒートアップしてくると国や自治体は心配になって、今回の空室課税のような議論をしてしまう。
議論するだけだったらいいのですが、それが実行に移された場合、逆に大きな副作用が生じることもある。例えば、平成バブルの崩壊も、融資額の総量規制を行なった結果、予想を上回る株価や地価の大暴落が起きてしまいました」
さらに牧野氏が指摘するのは、神戸市そのものの問題。
「神戸市は、2023年に人口が150万人を切っています。データを見ると転出者がとても多いんです。その結果、人口の社会的増減がマイナスになっている。これは政令指定都市としては異例です。
厳しい言い方をすれば、神戸には住みたいと思う魅力が不足しているのではないか。税金をかけて空き家を減らすぐらいであれば、もう少し根本的なまちづくりに力を注いだ方がいいと思います」
「転売目的」でのタワマン購入が空室を増やす
では、そこまでして神戸市が「空室課税」を行いたいのはなぜか。
「市が懸念するように、自身が神戸市に住みたいと思ってマンションを買われている方はかなり少ない。それでも2013年の大規模金融緩和でマーケットにお金が流れた結果、東京・大阪、そして神戸といった大都市のタワマンを中心とした投資需要が非常に盛んになってきました」
その際に空室が増えたのは、近年の不動産市場の性格が変化してきたことにある。元来の不動産投資は、物件を購入し、そこを賃貸として貸し出す家賃収入で稼ぐモデルだった。
一方、近年はタワマンが急激に値上がりしているため、物件を購入して値上がりを待って数年のうちに転売し、その差額で儲ける方法が増えている。だから、賃貸として貸し出されない空室が増えるのだ。
誰がタワマンを買っているのか?
では、マンション投資をしているのは、どのような人なのか。
「一つは、よく話題になりますが、外国の方です。湾岸沿いの一部のマンションでは半数ぐらいが外国の方の物件もあると聞いています。管理組合の総会資料が、日本語・英語・中国語で併記される、という話も聞きました。
さらに驚いたのが、この流れが都心部にまで来ている。以前、中国人の投資ツアーで講演をしたことがあるのですが、そのときあるツアー客に聞いた話では、都心の超有名マンション購入客の1割が中国の方だということでした。都心のマンションでもそうなのかと驚きました」
このように外国人が目立つ一方、国内で投資を行う人も多い。
「現在、マンション投資の裾野がどんどん広がっています。金融が非常に緩んだ結果、一般的なサラリーマンでもローンが組みやすくなり、銀行からお金を引き出しやすくなっています。
動画サイトを見れば「銀行からお金を引き出すノウハウ」を教えるものも多い。医者や弁護士、会社役員などの富裕層に加えて、副収入を得ようという普通のサラリーマンの方の姿も目立ちます。
それと、地方にいる富裕層も積極的です。戦後80年が経って、地方の中でも資産格差が出てきて、富を蓄えた地方富裕層はすごくたくさんいるんです。その人たちは優良な資産を東京や大阪、神戸といった大都市に持っておきたい。
これまでは一軒家が多かったのですが、マンションは管理を全て、管理組合がやってくれるうえにマーケット相場が形成されているので、投資対象として優れています。こうした人の中には、賃貸で貸し出さなくても、とりあえず持っておいて東京に行ったときに使う、という人も多いですね」
また、節税目的でのタワマン購入も増えている。「相続税」におけるタワマンの評価額は、市場価値よりも低くなる傾向にある。というのも、不動産の評価は、土地は路線価、建物は固定資産税評価をもとにしていて、時価よりも安く評価されるからだ。
例えば、市場価格1億円のマンションを買っても、その相続税評価額は6000万円ほど。現金で相続すると1億円に対して税金がかかるのに対し、現金をタワマンに変えれば、6000万円の評価に対する相続税しかかからない。さらに購入する際に借入金をしていれば、借入金額部分も評価額から差し引かれるという魔法のシステムになっている。
このようなシステムがある限り、タワマン投資熱は冷めやらない。神戸市が「空室」の解消に焦る理由も、ここにある。
しかし、牧野氏によれば、どうやら「タワマンバブル」のターニングポイントが近いようだ。後編では、そんな「タワマンバブルの崩壊」と「そこで最も損をする人々」について聞く。
#2に続く
取材・文/谷頭和希 写真/Shutterstock
〈プロフィール〉
牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研株式会社 代表取締役/不動産事業プロデューサー
1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、三井不動産に入社。2009年オフィス・牧野、2015年オラガ総研を設立、代表取締役に就任。著書に「空き家問題」「なぜマンションは高騰しているのか」(ともに祥伝社新書)、「家が買えない」(ハヤカワ新書)等。文春オンラインでの連載のほか、テレビ、新聞等メディア出演多数。
〈日銀、追加利上げ決定で聞こえる「タワマンバブル崩壊」の足音…世帯年収2000万円の「パワーカップル」に起きる最悪のシナリオとは〉へ続く
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