日銀、追加利上げ決定で聞こえる「タワマンバブル崩壊」の足音…世帯年収2000万円の「パワーカップル」に起きる最悪のシナリオとは
集英社オンライン / 2025年1月25日 10時0分
〈神戸市が“タワマン空室税”を検討するに至った切実な背景…加熱するタワマン投資の恐ろしい行く末「超有名マンション購入客の1割が中国人」〉から続く
2013年からの大規模金融緩和などにより起きた「タワマンバブル」だが、不動産評論家の牧野知弘氏は「2025年はターニングポイントになるかもしれない」と警鐘を鳴らす。そしてここで最も損をする人は、いわゆる「パワーカップル」だとか。タワマンバブル崩壊でおこる「最悪のシナリオ」とは?〈前後編の後編〉
【画像】世帯年収2000万円の「パワーカップル」に起きる最悪のシナリオ
2025年は「タワマンバブル」のターニングポイント?
2025年が「タワマンバブル」のターニングポイントになるとはどういうことか。
ポイントは、1月24日に0.25%から0.5%に引き上げることが決定した、日銀による金利上昇政策だ。金利が上がれば、企業や個人は資金を調達しづらくなり、景気の過熱が抑えられる。すると、これまでほどタワーマンションの価値は上昇しなくなる。
「投資はムードが大事なのですが、金利が上がることによってタワマン投資へのムードが冷めると思います。プロの投資家ほど早く手を引いて、今回のバブルに乗じてマンションを買った個人が最後は取り残されてしまう可能性があります」(牧野知弘氏、以下同)
パワーカップルを苦しめる金利の上昇と物価高
中でも危ないと牧野氏が考えているのが、世帯年収1500万円〜2000万円で、いわゆる「勝ち組」的な存在として世間からイメージされている「パワーカップル」だ。
「日本で言われる『パワーカップル』の年収から見ると、夫婦がタワマンを買おうとすると、1億円ぐらいの借金をしないといけません。それでも現在は銀行から融資が降ります。夫婦それぞれ5000万円ずつぐらいの借り入れをして、お互いが連帯保証をする、いわゆる「夫婦ペアローン」という制度です。ただ、その場合、生活はギリギリになります」
牧野氏は実際に、金利の上昇が彼らの生活にどう影響するのかをシミュレーションしている。
「期間35年、9500万円ぐらいのローンを借りている夫婦を例にしましょう。この場合、金利が1%上がると、月額の返済額は5万円ほど増えます。すると、年間で60万ほどの増加になるわけです」
そこに重なるのが、物価の上昇だ。
「現在は食料品にせよ燃料費にせよ、生活物価がどんどん上がっています。さらに、まだあまり気づかれていないのですが、毎月払うことになっている管理費と修繕積立金は今後、間違いなく上昇します。管理費は人件費、修繕積立金は大規模修繕と設備の更新を行うための資金の値上がりです。
人件費も高騰していますが、私が驚いたのは修繕積立金。最近、建設費がすごく高くなったと報道されていますが、同時に設備費の高騰も驚くほど進んでいます。
例えば、エレベーターや給湯器、ポンプのようなものですね。これが目の玉が飛び出るほど、値上がりをしています。
ということは、今後やってくる大規模修繕のために積み立てている現在の積立額では、全く資金が足りなくなるはずです。ですから、マンション側としては修繕積立金の増額を検討せざるを得ない。
ただ、その値上げを実行に移すまでは時間がかかるので、おそらく今年や来年の管理組合総会で諸経費の値上げを発表するのではないかと思います。ローンの返済も待ってくれないので、おそらくこの2〜3年でタワマン暮らしから脱落するパワーカップルが出てくるのではないかと思います」
「売ろう」と思っても、もう遅い?
このようなギリギリの状態が予想されるなか、それでも多くの人々がタワマンを購入するのは、次のような理由があるからだと牧野氏は指摘する。
「彼らの頭の中には、ちょっと苦しくても、いざとなれば物件を売ればいいんじゃないか、という期待があるはずです。現在もタワマンの価格は上がり続けていますから、その状態がいつまでも続くと思っている。
ところが、不動産マーケットは、住人が支えているのではなく、投資家で支えられているのが怖いところです。そこにはタワマン節税を目論む人など、いろんな思惑を持った投資家がいる。同じタワマンの購入者でも、彼らの思惑とはまったく違います。
投資家からしてみれば、所有物件の価値が下がったらリスクを避けてすぐに売り逃げます。特に外国人であれば、円高に振れると、自国通貨に換金したほうが得になるので、躊躇なく物件を売る。ただ、不動産の非常に怖いところは、全員が売りに回ると、買う人がいなくなり、暴落に歯止めがかからないこと。
そこで取り残されるのは、実際に住んでいるパワーカップルなんです。彼らにしても、自分の収入の中でローンを返していればいいわけですが、払えなくなったときに売却しても、売却額ががローン元本を割り込んでいる可能性があります。
そして、こういう話題が話題になればなるほど、マーケットにはネガティブな情報が出回り、さらに多くの人が売りに回るようになる。そして、さらにマンション価格の思わぬ下落を見せる可能性がある。これが2025年以降で考え得る最悪のシナリオです」
不動産市場のメカニズムを理解して、冷静になることが大事
牧野氏は、さらにこう警告する。
「このように、不動産市場のメカニズムは単純なのですが、近年のタワマン市場を見ていると勢いで買っている人も多いです。2025年以降で考え得る最悪の悪いシナリオも踏まえて、首筋が寒くなった人は早く売った方がいい、と私は警告しています。
また、大前提として、日本でいうパワーカップルは世帯年収1500万円や2000万円だと定義されているんですが、これは国際的に見れば全然パワーがありません。「日本の中ではいい」程度にすぎません。これもしっかりと認識する必要があります。簡単に言えば、奢ってはいけない、ということです」
多くの人を狂乱させる力を持つ「バブル」。しかし、それは常に「崩壊」の危機と紙一重だ。狂乱から一歩身を引いて、「タワマンバブルの崩壊」について考えなければならないときが、来つつあるのかもしれない。
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取材・文/谷頭和希 写真/Shutterstock
〈プロフィール〉
牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研株式会社 代表取締役/不動産事業プロデューサー
1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、三井不動産に入社。2009年オフィス・牧野、2015年オラガ総研を設立、代表取締役に就任。著書に「空き家問題」「なぜマンションは高騰しているのか」(ともに祥伝社新書)、「家が買えない」(ハヤカワ新書)等。文春オンラインでの連載のほか、テレビ、新聞等メディア出演多数。
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