〈異例の10時間超記者会見〉”フジテレビ倒産”はあり得るのか? スポンサーがCM出稿見合わせ…前代未聞の逆風で起こり得る最悪のシナリオとは
集英社オンライン / 2025年1月28日 7時0分
フジテレビが1月27日午後4時から28日未明にかけて一連の騒動に対して2回目となる記者会見を行なった。会見には191媒体、473人が参加。10時間を超える異例の会見の中で嘉納修治会長と港浩一社長の辞任を発表し、事態の収束を図った。今後は経営体制を刷新して信頼回復の道を模索する。
【図を見る】フジテレビの凋落がひと目でわかる平均世帯視聴率の推移
現在フジテレビを巡っては75社以上のスポンサーがCMを見合わせるという、国内のテレビ史において前代未聞の騒動の渦中にある。一部からは「倒産するのでは…」の声も聞こえてくるが、その経営の実情はどうなのだろうか。
4000億円を超える投資有価証券を保有
結論からいうと、多くのスポンサーが手を引いたからといって、フジテレビがすぐに倒産するようなことはあり得ないだろう。
フジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングスの2024年3月期の売上高は5664億円だった。そのうち、フジテレビ(フジテレビジョン)の売上高は2382億円。さらにテレビCMなどによる放送収入は1473億円で、ホールディングスの売上高の26%ほどである。
前期の下期における放送収入は770億円あまり。仮に今期下期において500億円程度の売上が吹き飛んだとしても、今期(上期通過時点)の通期売上予想5983億円の8.4%ほどに過ぎない。
しかもフジ・メディア・ホールディングスは2024年9月末時点で保有する現金が900億円近くあり、テレビCMを見合わせたキッコーマンや東京電力ホールディングスなどの株式を持つなど、4000億円以上の投資有価証券を保有している。
主な保有目的は広告出稿で取引関係があるためだ。フジテレビが資金繰りに行き詰まり、企業が出稿を控えたままであれば、株式の売却も視野に入るはずだ。
また、豊富な不動産を持っていることでもよく知られている。帳簿上の不動産価格で、東京サンケイビルは970億円、湾岸スタジオが343億円、本社ビルは101億円だ。(コロナ禍で大打撃を受けたエイチ・アイ・エスやエイベックスが、窮地を脱するために本社ビルを売却したことは記憶に新しい)
しかも、フジ・メディア・ホールディングスは全国展開しているグランビスタ ホテル&リゾートを主軸とした観光業が強みの一つであり、インバウンド需要の追い風を受けて盤石な収益基盤を構築している。2025年3月期上期における都市開発・観光事業のセグメント利益は98億円だった。同期間におけるフジテレビの営業利益は54億円である。
つまり、不動産事業は主力であるテレビ事業の2倍近くを稼ぎだしているのだ。
したがって、スポンサーが一時的に手を引くことで簡単に倒れるような会社ではない。
2011年にフジテレビを襲った異常事態とは?
一方、SNS上ではフジテレビに対して放送免許の取り消しを求める声も出ている。
しかし、今回の一件で総務省が行政処分するとは考えづらい。これは総務省の元幹部がフジテレビの取締役を務めることによる天下りうんぬんの話ではなく、国民の知る権利に応える放送事業者を国家権力で処分することには慎重であるべきだからだ。
外資出資比率違反など、法に抵触することが明らかとならない限り、行政処分に至ることはないだろう。
ただし、最悪のシナリオがある。それが、視聴者の信頼が長期間にわたって回復せず、視聴率の低迷で収益性を失うことだ。テレビはしきりに視聴率の話を持ち出すが、テレビ局の放送収入と視聴率には密接な関係がある。
フジテレビの2023年度平均世帯視聴率(全日)は4.4%だった。日本テレビが6.1%、テレビ朝日が6.3%だ。同期間におけるフジテレビの放送収入は1473億円、日本テレビ放送網が2261億円、テレビ朝日が1668億円だ。
2022年度までは日本テレビが視聴率でトップを走っていたが、2023年度以降ではテレビ朝日が追い抜いている。今はちょうど過渡期であり、テレビ朝日が収入面で優位に立つ未来もあり得るだろう。
フジテレビは2009年3月期の放送収入が2687億円だった。この年までは視聴率のトップをひた走っており、他局の追随を許さなかった。異変が起きたのが2010年度である。日本テレビに抜かれ、ここからジリジリと数字を落とすことになった。
特に2012年度の落ち込みはひどく、前年の8.0%から7.1%に低下している。
その境目に起こった出来事といえば、フジテレビの偏向放送を主張する抗議デモだ。
株主提案にあった75歳以上定年制を導入すべきだったのでは……
2011年、俳優の高岡蒼甫(現・蒼佑)氏がSNSで、フジテレビが韓国寄りの偏向報道を行なっているなどと告発。「韓流ゴリ押し」などという言葉とともに、インターネット上で大炎上しはじめた。この影響は収まる様子を見せず、2度にわたる抗議行動へと発展した。
この問題が視聴率に直接的な影響を与えたかどうかは判断しがたい。しかし、この時期を境として、数字が下がったことは事実であり、フジテレビの収益性も低下した。それにもかかわらず、当時のフジ・メディア・ホールディングスは何ら効果的な手を打つことはできなかった。
こうした業績悪化を受け、2014年の株主総会で個人による株主提案が行なわれている。その中に取締役の75歳定年制を導入するべきだというものがあった。その狙いは明白で、会社に絶大な影響力を持つ日枝久氏(当時76歳)の退任要求である。
結局、これは否決されたが、高齢の経営者がいつまでも居座る経営体制は当時から疑問視されていた。
フジテレビとしては、抗議デモは取るに足らない問題だったと認識していたのかもしれない。しかし、これはネット上の小さな声が抗議活動にまで発展したものであり、今回の騒動と相通ずるものがある。
時代が変化しているにもかかわらず、フジ・メディア・ホールディングスは高齢の経営幹部が実権を握り、権力を手放そうとしなかった。視聴率が低迷して、業績が悪化してもその状態を続けたのだ。
もし、女性トラブル問題に揺れる今のフジ・メディア・ホールディングスの経営体制が変化しなければ、視聴者の信用を失って収益性のさらなる低下を招きかねない。大量の離職者を出し、番組の質が低下して低視聴率にあえぐという最悪なシナリオが見えてくる。
6月の株主総会は大荒れの予感
ターニングポイントは2025年6月に開催される株主総会だ。
第三者委員会の調査報告書は3月に提出される見込みであり、株主総会前には公表される可能性が高い。組織的な関与や社員による斡旋が本当にあったのか、などの事実関係が見えてくるだろう。
ガバナンスの欠如や、旧態依然とした組織風土で社員が声を上げづらい空気が醸成されていたことが明らかになれば、株主総会でフジ・メディア・ホールディングスの経営体制の刷新を要求する声が大きくなるはずだ。
また、フジ・メディア・ホールディングスの大株主にも名を連ねることすらないフジサンケイグループという会社が、ホールディングスを統べる立場にあるという組織形態も時代にそぐわなくなっている。
昨年、中古車販売のビッグモーターは不祥事を機に生まれ変わり、信頼回復に向けて再スタートを切った。フジ・メディア・ホールディングスも、経営幹部や組織体制を刷新するタイミングが訪れているように見える。
そしてそれは、時代の変化に敏感であるべきテレビ局にとっていい方向に進むはずだ。
取材・文/不破聡
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