韓国ユン大統領の留置場メシは1食180円!? 元留置係員が解説「日本では1日3食で1300~1400円」
集英社オンライン / 2025年1月30日 17時0分
韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領に対する逮捕状が発布され、SNSなどでは拘置所の食事メニューが話題となった。「味噌鍋を食べた」「1食180円」など、事件や捜査とは関係ない些末な情報にも思えるが、ニュースで大々的に報じられると確かに気になってくるもの。逮捕後、有罪判決が確定していない“被疑者(容疑者)”に提供される食事とは、いったいどのようなものなのか? 30年にわたって神奈川県警に務め、看守として留置場勤務の経験もある犯罪ジャーナリスト・小川泰平氏に聞いた。
留置場メシは3食で1300〜1400円
法治国家である先進国の多くは、逮捕後、拘置所に送られるが、日本では「留置場」に入れられ、刑事事件の被疑者・留置人はそこで警察や検察の取り調べを受けることになる。
有罪判決が確定していない未決拘禁者を収容する「拘置所」や刑罰が確定した受刑者を収容する「刑務所」は法務省の管理施設だが、逃走や証拠隠滅を防ぐことを目的とする留置場は警察署内にある警察の管理施設だ。
「警察署内に食堂などの調理施設がある場合は、フードサービスや給食サービスを展開する事業者が入っているので、そうした委託業者が留置場の食事も提供しています。ただ、そうした施設のある警察署は少なく、多くの警察署では出入りする仕出し弁当屋などから調達しています」
そう語るのは元神奈川県警・刑事で、現在は犯罪ジャーナリストとしてメディアでの事件解説などで活躍する小川泰平氏。最大約60名(当時)が収容できる警察署内の留置係員としても働いていた過去を持つ。
留置人の世話をする留置係員は「担当さん」と呼ばれ、現在は捜査関係部署と留置管理係とは同じ警察でも組織上は分離されている。
「時間に合わせて用意されている一般的な仕出し弁当なので温かい状態で提供されます。留置人に提供する際は容器などの容れ物やメニューは少し違いましたが、看守を担当する警察官も同じ弁当屋の弁当を食べていました」
予算は警察署によっても多少の違いはあるそうだが1日3食で1300〜1400円ほど。最新のカレーライス物価指数 (※)は377円なので、一般国民の食事と比べて見劣りするものではない。(※野菜、肉、米を使った日本人の食生活の代表とも言えるカレーライスは、物価のいい目安になり、カレーライス1食分に必要な食材と水道光熱費から算出したもの。帝国データバンクが公表している)
基本的人権の考えから摂取カロリーはもちろん、栄養バランスもある程度は勘案されているようだ。
「いわゆる“豚箱メシ”的なイメージから連想される粗末な食事ではないです。1日2300カロリーとカロリー計算もされており、健康的な食事とも言えるでしょう」
刺身などのナマ物は出ない
韓国の公捜庁によって内乱容疑などで1月19日に正式に逮捕された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領。
拘置所では餃子スープや牛肉スープ、豚肉丼、イワシの煮物、トッポッキ、中華麺、キムチ鍋、鶏肉スープ、キムチスープ、豆腐スープ、ワカメスープ、カレーライスなどなどの食事が提供されたという。
国際捜査課時代に韓国警察と合同の出張捜査なども担当してきた小川氏は、「1食180円」という報道を率直にどう感じたのだろうか?
「個人的には本当かなと疑問に思います。近年の韓国の物価を考えても、その予算では普通に1食を用意できないでしょう。偶然、そんな食事が1回くらい出た可能性もありますが、少なくともそうした食事が常に提供されているとは思えないし、予算感は日本と大きな差はないと思います」
スープ系が多く韓国の食文化が反映されたメニューになっているようだが、やはり日本の留置場で提供される食事にも“お国柄”はあるようだ。
「凝った中華や洋食といったメニューは出ないです。ただ、和食でも刺身などのナマ物は出ません。留置人を入院させる際は24時間体制で警官が付き添う必要があり、万が一、食中毒で集団入院となると対応が大変なので。衛生面は徹底されています」
宗教上、食べられない食材などがある留置人も現在はマニュアルがあり、本人の意向に沿って特別な食事を用意する配慮もあるそうだ。
「単に“ベジタリアンだから野菜だけにしてくれ”といった意向は通りませんが、宗教上の理由などがある場合はすぐ対応します。近年は外国人の留置人も多く、“どうしても豚肉が食べられない”といった場合なども、それぞれの事情を踏まえて対応することがあるそうです。食事に全く手をつけない留置人は、“特異被留置者”として動静を注意深くみていくことになります」
「また揚げ物かよ」的な雰囲気も
「飲み物は瓶ではなく紙パックなどで提供され、スプーンやフォークを使わせることはありません。とくに注意が必要な留置人が箸を使うときは看守が常に監視し、最後に必ず箸の本数も確認しています。片っ端から身体検査していくことになるので、箸が1本足りないだけで大騒ぎになります」
留置場などでの食事は公金によって賄われるが、収監される際に自らの預けた所持金の“領置金”で買える食事もある。
「切手や便箋、歯磨き粉やタオルといった洗面道具などを買うもので、基本的に食品類は買えません。
しかし、『差弁(さしべん)』・『自弁(じべん)』という、少し特別な1000円以内ぐらいで注文できるお弁当が買える留置場も一部あります。
『差弁』は2種類ほどの中から注文するかたちで、パンなどが買えることもあります」
衛生面の事情や1日2300カロリーを満たす必要から、留置場での食事は揚げ物が多い傾向もあるそうだ。基本的に提供されるのは食事だけなので、デザートや菓子類などの甘いものは、あまり口にできないという。
「留置場によっては日曜の朝食だけ、予算の中で菓子パンなどを提供することがあります。私がいた留置場は神奈川県で一番大きい留置場で、365日3食必ず用意されていましたが、小さい警察署・留置場の場合は官弁の業者さんが日曜・午前だけ休みということがあるんです」
その場合、留置人はパンの具体的なリクエストもできるそうで、あんぱんやメロンパンなどの菓子パン、コーヒー牛乳などの甘い飲み物を希望する人が、やはり多いらしい。
「だいたい前日の土曜夜や昼に要望を聞くんですが、日曜の朝食のことばかり考えている留置人もいるくらいです。
基本的にはどんなメニューも人気でしたが、どちらかというと揚げ物は「またかよ」みたいな雰囲気はありましたかね(笑)。わりと炒め物などの評判がよく、揚げ物の中では春巻きはけっこう人気だったような気がします」
取り調べを受ける留置人にとって、3食の食事はやはり特別な時間であり、唯一の楽しみのようだ。
【プロフィール】
小川泰平。1961年愛媛県松山市生まれ。1980年、神奈川県警察官を拝命。1年間の交番勤務の後、機動隊に2年、留置場の看守勤務を経て所轄の盗犯係の刑事を皮切りに、警察本部機動捜査隊、警察本部刑事部捜査第3課、刑事総務課、国際捜査課、警察庁刑事局刑事企画課、等で第一線の刑事として主に被疑者の取り調べを担当。警察庁刑事局刑事企画課時代にはソウルに出張し韓国警察庁との合同捜査に参加。知事褒賞のほか、警察局長賞、警察本部長賞など受賞歴多数。柔道四段。30年奉職し退官、現在は犯罪ジャーナリストとして、執筆、講演活動の他報道番組、情報番組等で事件の解説等を行っている。YouTubeチャンネル「小川泰平の事件考察室」
取材・文/伊藤綾
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