中国BYDがホンダの世界販売台数を上回る…中国勢大躍進の裏でEV強化を図るホンダの勝算と懸念
集英社オンライン / 2025年1月30日 7時0分
2024年の世界新車販売台数で、中国の電気自動車(EV)大手BYDがホンダを上回った。ホンダは中国における販売台数が前年の3割減となる85万2269台となっており、4年連続で減少。EV化が進む中国で存在感を失った格好だ。しかし、巨大な市場を持つ中国はEV需要が低迷しており、今後は世界第2位の主戦場であるアメリカが自動車メーカーの成長のカギを握っている。そこにホンダが躍進する未来も見えてくる。
【画像】ホンダとは相容れない!? ホンダの未来を左右する自動車メーカー
1.7兆円のEV工場新設で年間生産台数は24万台に
1月30日の「2024年の世界販売実績」の発表に先んじて、ホンダは2026年に、3万ドル(約470万円)以下の低価格EVを北米で販売すると報じられている。
すでに2024年3月に北米向けに初の新型EV「プロローグ」を販売価格4万7400ドル(約740万円)で発売しており、11月に累計販売台数が早くも2万5000台を突破するヒットモデルとなっていた。今回発表のあった低価格EVは約470万円で、停滞するアメリカのEV市場を切り拓く可能性もある。
2024年4月には、カナダ東部のオンタリオ州にEVとEV向け電池工場を建設すると発表していた。これは1.7兆円という過去最大の巨額投資であり、ホンダのEV開発・生産が加速することを予見させるものだった。
2028年より稼働開始予定の同工場の年間最大生産能力は24万台。ホンダの2024年におけるアメリカのEV販売台数は3.1万台なので、その8倍規模の大きさの巨大工場に見合った生産能力を活かす車種の開発が必要だった。
さらに2024年5月に電動化に向けた取り組みの方向性を打ち出す「2024 ビジネスアップデート」を発表しており、その中でEV専用工場による生産技術と工場の進化によって、生産コストを35%引き下げる計画を掲げていた。
現在、販売しているプロローグの価格は4万7400ドルだが、単純に35%を割り引くと3万ドル。工場の新設計画やホンダが掲げていたKPIと照らし合わせると、低価格EVは現実のものとなりそうだ。
この3万ドルという価格設定も絶妙なものだ。
アメリカで最も売れているEVはテスラの「モデルY」で、価格は4万2990ドル(約670万円)。2023年にアメリカのベストバイ・アワードを受賞した、韓国ヒョンデ(現代自動車)の「アイオニック5」が4万1450ドル(約640万円)だ。
2024年のアメリカにおける新車の平均価格は4万8205ドル(約750万円)。プロローグもこれに並ぶものであり、各社EVモデルの価格は市場価格と歩調を合わせているようだ。しかし、新車の平均価格は5年前と比べて2割増加している。急速なインフレが進行して価格がつり上がっているのだ。
自動車市場調査会社エドマンズ・ドット・コムにより、アメリカの消費者は新車購入費用として3万5000ドル(約540万円)以下を考えていることが明らかになっている。
実際、米メディア『クリーンテクニカ』は、日産「リーフ」の2024年の販売台数が前年比57%増、「アリア」が47%増になったと報じている。リーフの販売価格は2万7400ドル(約420万円)、アリアが3万9590ドル(約620万円)だ。
アメリカの消費者の間にはインフレ疲れが見られており、低価格商品への消費意欲が強まっている。ホンダはプロローグでEVの売れ筋と肩を並べるモデルを市場投入したが、低価格EVで別の市場へとリーチすることができるというわけだ。
中国の国策として販売台数の底上げがノルマのBYD
現在、低価格EVの王者といえば、中国のBYDだろう。しかし、今後アメリカ市場でシェアを高める可能性は低い。高い関税が課されるからだ。
バイデン政権下の2024年9月、米政府は中国製EVに対して従来の4倍となる100%の関税を課すことを決めた。EV用のリチウムイオン電池の関税も従来の7.5%から25%に引き上げられている。さらにバッテリー生産に必要な天然黒鉛・永久磁石は2026年1月から25%に引き上げられる。
アメリカ政府は、中国のEVだけでなく、関連する部品の関税率も高めることでアメリカ国内での価格競争力を徹底的に削ぎ落し、中国製品が流入することを防ごうとしているのだ。
トランプ政権では、2月1日からカナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税を課すと発表した。こうした政策も第三国を経由した中国からのEV輸入への牽制とも見ることができる。
通商ルールにおいては、生産した国が原産地であり、その会社の資本がどの国のものかは一切関係がない。カナダやメキシコで生産されたものは、その国のものとしてアメリカに輸入される。(昨年、BYDはカナダとメキシコに工場を新設するとの報道があったので、関税はそうした動きを封じる意味合いもあるだろう)
さらに中国製EVには生産過剰感が漂っている。日本貿易振興機構(ジェトロ)は中国のEV生産稼働率が2023年に57.5%になったと報告がした(「中国、2023年の自動車販売台数は初の3,000万台超えも、内需に弱さ」)。2018年までは70~80%で推移していたので、稼働率が低下傾向にあることがわかる。
中国政府は産業界の研究開発費に必要な補助金や、税還付による支援を続けている。2023年の企業への税還付額は10年前の5倍。2023年は上場企業の99%が補助金を受け取っており、総額は5兆円を超える。BYDは直近5年間だけで、780億円近い税還付を受けている。
BYDは2024年の新車販売台数がホンダを上回ったが、いわば国策としてその成長を後押しされているのであり、とにかく価格を下げて販売数を増やさなければならないという事情がある。
各国が中国のEVに高い関税をかけて保護主義に動くのも、こうした背景があるのだ。
北米主力のCR-V人気は依然として強い
一方で、アメリカのEV市場は伸びが鈍化している。
2024年の販売台数は前年比7%増の130万1411台だった。販売台数は3年連続で増加したものの、1.5倍に伸びた2023年の勢いは失われている。アメリカでは、郊外の長距離移動を伴う自動車需要が強い。そのため、ハイブリッド車の人気が高いのだ。
政権復帰したトランプ政権もEV促進策を撤回している。トランプ大統領は化石燃料を「掘って、掘って、掘りまくれ」と呼びかけたことで有名だが、石油や天然ガスなど化石燃料の増産によってエネルギー価格を下げ、インフレ抑制と雇用を促進する狙いがある。ガソリンが市場に出回ることで価格が下がり、EV市場のさらなる停滞を招く可能性もある。
しかし、ハイブリッドはホンダが得意とする領域だ。CR-Vは2024年にアメリカで売れたハイブリッド車の第3位に入っている。
中期的にハイブリッド車の人気が集まったとしても、主力車種でカバーができる。しかし、長期的にEV化へとシフトするのは間違いなく、その間にホンダがEVのラインナップに幅を持たせることができれば、シェアを高めることになるだろう。カナダEV工場の稼働は2028年だ。
カナダの関税懸念はあるが、大統領の任期は4年。2029年は状況が変化している可能性もある。
ホンダと日産が経営統合する違和感……
ホンダの懸念材料が、日産との経営統合案だ。確かに日産はEVにおける先行技術を持っているものの、この2社には決して相容れない要素がある。企業風土だ。
ホンダは自転車販売から始まったベンチャースピリット溢れる会社だ。現在はその精神がやや薄れている兆候もあるが、自由闊達に議論できる風通しのよさがある。一方、日産は典型的な官僚型の組織だ。経営再建に乗り出したカルロス・ゴーン氏が社内で強い支配力を持つに至り、人事権も掌握されたことで、もの言えぬ企業風土になったと言われている。
日産は2024年に「下請けいじめ」問題で、公正取引委員会から下請法違反で再発防止勧告を受けている。しかし、経営陣は知らなかったとの説明に終始した。こうした風土が醸成されていることそのものが問題なのだ。
M&Aは実業や資産、業績、キャッシュフローへの影響が取り沙汰されるが、大切なのは同じ方向を向いて走れるかどうかだ。M&Aがよく結婚にたとえられる通り、うまくいくかどうかは性格や価値観こそが重要なのだ。
EVを強化するという目的があるにしても、経営統合によるホンダのメリットは少ないように見える。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock
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