<フジ会見> 「不規則発言」は悪なのか? “進行に支障が出るレベルの不規則発言を繰り返した”フリー記者が問う
集英社オンライン / 2025年1月30日 11時0分
1月27日に行なわれた2回目のフジテレビ記者会見は、1回目と打って変わってオープン形式で参加制限を設けずに実施された。それによって話題となったのが、記者による「不規則発言」だ。SNS上では賛否の声が多く上がっているが、「不規則発言」の存在意義について、フリーランス記者である筆者が実体験に基づいて解説する。
記者会見に参加制限は必要?
中居正広氏に関連して発覚した社員の人権侵害疑惑に端を発するフジテレビの2回目の記者会見(1月27日)。質問者が記者クラブに限定された1回目(1月17日)への批判を受けて、今回はいわゆるオープン形式で参加制限を設けずに開催。
しかし、制限なくさまざまな記者が多数参加・質問したことで不規則発言も増えて進行が滞ったり、質疑が紛糾したりした面もあり、「1回目の参加制限はむしろ正解だったのでは?」という意見も散見される。
前提として、筆者は問題のフジテレビ会見に参加しておらず、映像で断片的に確認したのみ。10時間超も現地参加した記者たちに比べれば、当日の実態を詳細に把握できているわけではない。
しかし、それでも記者会見のオープン化に逆行する意見には強い違和感をおぼえるため、フリーランス記者としてこれまで参加した多くの記者会見での実体験に基づいて意見を述べる。
まず、筆者は記者会見に過度な参加制限を課すべきではなく、むしろオープン化を進めるべきという立場だ。理由は、フリーランスである自らも排除されるという個人的事情だけでは決してない。閉鎖的な会見は癒着の温床となり、市民の知る権利を侵害し、社会全体に悪影響を及ぼすからである。
例えば閉鎖的な会見の悪い特徴が色濃く出ている有名な例として、昨今の首相会見や都知事会見を思い出してほしい。質問できるのは記者クラブに所属する大手メディアの記者に事実上限定される中、周知の通り、重大な不祥事や問題が起きても記者はご機嫌うかがいのような質問に終始。
たまに本質的な質問があったとしても、質問に全く答えないゼロ回答に対して更問いもせずあっさりと引き下がってしまうことが常態化している(※)。
こうした記者クラブと権力者の関係性が思いがけない結果を引き起こしたのが、昨夏の都知事選直前の都知事会見ではないだろうか。投開票を約1週間後に控えた会見(2024年6月28日)で都庁記者クラブの複数名が選挙戦の手応えやSNS戦略などを堂々と質問し、小池百合子都知事も嬉々として回答。
本来は「現職の都知事」として臨むべき会見で「候補者」としての質疑が繰り返されており、これは公選法(136条の2 第1項1号)で禁じられた「公務員の地位利用による選挙運動」に該当すると思われる。記者と知事による公選法違反の証拠が東京都の公式会見映像として残るという失態となった。
会見中の不規則発言は絶対に悪?
また、「会見中の不規則発言は絶対に悪なのか?」については、筆者は時と場合によっては必要だと考えている。もちろん被害者・関係者のプライバシー保護には十分配慮すべきだし、会見の円滑な進行にも可能な限り協力すべきではある。
しかし、そうした信義則や建前を政治家や経営者が悪用し、自らの説明責任から易々と逃げてしまう会見がここ10年ほどで蔓延してしまったように感じている。結果、重大な不祥事や問題は曖昧なまま放置され、その不利益は市民がさまざまな形で被っている。
こうした状況に加担しないため、筆者も記者会見で不規則発言をしたことは複数回ある。
例えば、能登半島地震発生から3日後という緊迫したタイミングで開催された、昨年(2024年1月4日)の首相会見。筆者は現地参加して挙手し続けたものの、指名されないまま会見は打ち切り。
しかも、地震後に志賀原発で複数のトラブルが発生して多くの国民が不安を感じていたにもかかわらず、指名された内閣記者会を中心とする全7名の記者から原発に関する質問はゼロ。
そもそも、内閣記者会は「ぶら下がり」という形で地震発生当日(1月1日)〜会見前日(1月3日)まで連日にわたって岸田文雄首相(当時)に質問する機会を独占的に得ていたにもかかわらず、そこでも原発に関する質問はゼロ。
結果、地震発生から丸3日以上が経過しても総理が「原発」について一言もコメントせず、そもそも記者から質問すら出ない異常事態となっていた。
こうした事態を重く見て、筆者は首相会見打ち切りのタイミングで、「志賀原発について質問させて下さい!」と約20秒にわたって大声で猛抗議。それでも岸田総理は一切の反応を示さずに退室してしまった。
「結局、回答は得られなかったので不規則発言をしても無意味では? ただの自己満足のパフォーマンスでは?」という見方も当然あるだろう。
しかし、この抗議は決して無意味ではなかったと筆者は考えている。なぜならば、ハッキリと聞き取れるレベルの大声で問題点を指摘しても、首相は原発について一言も発言できない状況だったことが、この不規則発言によって浮き彫りになったと筆者は考えるからだ。
現に、その後に北陸電力はさらに深刻なトラブルを次々と後出しで発表。表向きは訂正の形をとったものの内容は明らかに訂正の域を超えており、意図的な矮小化・隠蔽が疑われる展開を辿った。
フジテレビの会見時間が10時間超となった重要な要因
話をフジテレビの2回目の記者会見に戻す。参加制限を設けずに挙手した記者は全員指名という方針で開催した結果、会見時間が10時間超になった。このことを受けて、「やはり記者の参加制限は必要」と主張する方もいるだろう。
しかし、重要な大前提を思い出して欲しい。会見時間が延びた要因は、フジテレビ側が質問に対して正面から答えず、要領を得ない回答を繰り返したり、酷い場合にはあっさりと前言を撤回したりするような言動をとったことにもある。
現に、筆者は挙手すれば全員が指名される記者会見に参加したことも多々あるが、質問にしっかりと回答する登壇者であれば、あそこまで会見が長くなることはなかったはずだ。
最後に改めてまとめると、「いわゆる記者クラブに所属する大手メディアの記者」と「フリーランス記者」にもさまざまな人がいるので一括りにはできないものの、やはり質問者が記者クラブに事実上限定された閉鎖的な会見では記者がルールに従順過ぎるため、「権力監視」という報道機関としての役割を近年果たせなくなっている。
こうした権力者の不祥事や不正をやすやすと逃さないためにも、そして社会の健全化のためにも、記者会見に過度な参加資格は設けず、かつ公平に指名されるように開催することは重要ではないか。
(※)首相会見ではフリー記者も厳しい参加条件を満たせば現地参加は可能。しかし、指名は内閣記者会がほぼ独占。現に、筆者は10回ほど現地参加して指名は1回のみ。また、都知事記者会見ではフリー記者もオンライン参加は可能。しかし、小池百合子都知事はオンライン画面上で挙手するフリー記者を完全に無視して決して指名しないため、質問は事実上不可能。現に、筆者は5回ほどオンライン参加して指名は0回。
文/犬飼淳 写真/村上庄吾
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