〈フジ記者会見〉なぜ企業の“火消し”会見は失敗ばかりなのか? 小林製薬、ビッグモーター、宝塚…専門家が指摘する“ダメ謝罪会見”の共通点
集英社オンライン / 2025年1月30日 7時0分
中居正広さんと女性とのトラブルを巡る一連の問題で、2度にわたる記者会見を行なったフジテレビ。1度目のクローズドな形での会見が批判を集め、多くのスポンサーが離れたことで、オープンな形での“出直し”会見に臨んだものの、大きな経営的痛手を被った。
【画像】フジテレビと共通点の多い“失敗会見”をした大手企業
不祥事を起こした企業が、さらに失墜度合を深めるか、もしくは信頼を回復させるか、その大きな分かれ道となるのが「謝罪会見」だ。今回は過去の“ダメ”会見と“上手な”会見をそれぞれ振り返りつつ、そこから学ぶ信頼回復に必要な条件を専門家に聞いた。
責任逃れに隠ぺい…伝説の“ダメ”謝罪会見3選
これまで多くの会見を手掛けてきた「記者会見のプロ」である広報コンサルタントの石川慶子さんに、平成以降で最も“ダメ”だった企業による記者会見を3つズバリ聞いてみた。
「1つ目は、小林製薬の紅麹サプリ事件の謝罪会見です」(石川さん、以下同)
紅麹サプリ事件とは、2024年3月に製薬会社「小林製薬」が製造した紅麹を原料としたサプリメントが原因で、少なくとも死者5人以上を含む多数の健康被害を出した事件だ。
報告書では製造現場で青カビが混入、増殖していたにも関わらず、問題を放置。同年1月に健康被害の事例が報告されるも同年3月下旬まで公表を控え、実態調査に乗り出したのも公表以降だった。
「まず会見が4時間半にも及び、経過表などを書いたペーパーも配られなかった。誰から、どのような通報があってどう動いたか、もしくは動けなかったかの5W1Hの説明がなく、ただただお詫びしているだけでした。
会見でのキーメッセージも分かりづらかったし、1度目の会見を定例会見でやって、死亡者が出てからオープンな形で会見をしたのも、今回のフジテレビの会見と似ている部分があります」
石川さんが挙げた2つ目は、中古車販売大手「ビックモーター」が事故車の修理に伴う保険金を水増ししていた不正請求問題における会見。
2023年7月に社長が会見に臨んだが、「私の怠慢」と繰り返しながらも、独自の経営哲学を展開させながら関与を否定する姿は、「責任逃れ」と多くの批判を集めた。
「修理担当者がゴルフボールを入れた靴下を振り回して車体を叩く不正行為が指摘された際に『本当に許せない。ゴルフを愛する人への冒涜だ』といった社長の発言から、当事者意識が欠如しているし、被害者の痛みに全く寄り添っていない。このあたりはフジテレビと共通する部分です。
さらに社長が辞任して、翌日に代わった部分に関しても同じです。辞任の表明はいいんですけど、翌日からいなくなると、その後の対応は全て新社長になる。どうしても逃げている印象になります。辞任するにしても責任をもって対応しなくてはいけないと思います」
“ダメ”会見の共通点とは
3つ目は、宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が上級生からのパワハラなどを苦に自殺した問題における会見だ。
2023年9月に劇団員の女性が自宅マンションで自殺し、遺族側の弁護士が「過重労働と上級生からのパワハラがあった」と主張したものの、同年11月に行われた宝塚歌劇団の会見では、「ハラスメントの事実はなかった」という旨の調査報告書が公表された。
「遺族側の弁護士が証拠資料を提出したにも関わらず、それを一切反映させない調査報告書を作成し『パワハラは分かりません』という内容で公表しました。前例のない過去最悪の報告書でした。
さらに『パワハラの証拠を見せてください』と会見で言い放った姿などを踏まえても被害者に寄り添わないばかりか、さらに被害者遺族を傷つけています。第三者委員会も設置するといいながら結果的にしませんでした。
それをもって遺族弁護士らが何度も記者会見を開いていましたが、結局、宝塚側が遺族と会ったのは最後の最後だけ。和解ではなく合意書を締結して決着をつけました」
3つの“ダメ”謝罪会見から見える“失敗”の共通点とはなんなのか。
「『クライシスコミュニケーション』で一番重要なポイントは、被害者の目線に立つことです。被害者の目線に立って、しっかり事実に向き合う姿勢です。
ここが一番失敗しがちなんですが、問題が発覚した際、企業の利益を優先し隠ぺいしてしまう。そのため初動が遅れ、調査もせず、会見もクローズドにするような逃げの姿勢が見え、結果的に被害が拡大する。これが“ダメ”会見の共通点です。
会見は、被害者目線に立ちながら、事実と向き合い、何が原因で、どこで経営判断を失敗したのか、そして今後どのように再発防止をしていくのかを伝える場なんです。それがフジテレビも“ダメ”会見として選んだ3つの企業もできていませんでした」
信頼を回復させた“上手”な謝罪会見は…?
「どこで判断を誤ったのかという本質的な原因を自分の言葉で述べた上で、責任の取り方を明示し、再発防止策を伝えること」が謝罪会見での信頼を回復させる必須条件であると話す石川さん。
では、それら全てをクリアし、見事信頼を回復した“上手”な謝罪会見はあったか、と聞いてみると、
「企業では、リクルートが就活生の内定辞退率を予測し、有償で企業に提供していた問題、個人ではアメフトタックル問題での日大の選手側の謝罪会見です」
それぞれ“素晴らしい”と思ったポイントを聞いてみると、
「リクナビは、どこからどんな質問が飛んでも『学生に申し訳ないことをした』という被害者目線に立って答えていましたし、体制を立て直すための再発防止策も明示していた点がよかったです。前出の“ダメ”会見と違って、上手な謝罪会見って世の中的に目立たないんです」
一方、アメフトタックル問題の日大選手の謝罪会見でよかった点を聞いてみたところ、
「まず『関学大の選手に直接謝罪したいが、それができないと言われたから会見を開いた』という会見のキーメッセージが明らかでした。
さらに会見では、経過が細かく書かれたペーパーも用意されていましたし、『顔を出さない謝罪はない』と20歳の青年が真摯に自分の気持ちを紡ぐ姿には胸打たれるものがありました。記者からの誘導尋問にも責任逃れせず、『タックルした私が悪い』と自らの非を認める姿勢も含め、歴史に残る良い会見でした」
会見を開くまでSNSで叩かれていた日大選手だが、この会見により、世論の風向きが一変したことで、結果的に自らの人生を守る形となった。
コンプライアンス違反などの不祥事が発覚した際、企業や個人にとって顧客や取引先から一定の信頼を失うことは免れない。しかし、大事なことは事実と向き合い、そこから何を学んで、どう立て直していくかの姿勢が問われているのではないだろうか。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部
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