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〈マウンドで魂の咆哮〉「近未来の野球選手」バウアー復帰でDeNAが目論む“一石三鳥”の効果

集英社オンライン / 2025年1月31日 17時0分

横浜DeNAベイスターズに2年ぶりに復帰することが決まったトレバー・バウアー(34)。プレーはもちろんYouTuberとしても活躍する大物助っ人の復帰に球界がざわついているが、バウアー復帰はDeNAにとって吉と出るのだろうか。

【画像】バウアーの発信力とマッチしそうなDeNA球団のドキュメンタリー作品

「近未来の野球選手」バウアーの復帰

「この新しいユニフォームを着て、このタオルでチームを応援して、ファンのために優勝を勝ち取りたい」

1月27日に開催された「横浜DeNAベイスターズ 2025初春の集い」にてバウアーの2年ぶりの復帰が発表された。単年契約で年俸、出来高含めて契約総額600万ドル規模(約9億3000万円)。ファンたちが心待ちにしていた、サイ・ヤング賞投手の帰還はSNSでも大きな話題を呼んだ。

バウアーの復帰にはファンだけでなく、選手も興奮を隠せない。

2023年ドラフト1位の度会隆輝は「近未来の野球選手ですよね。ユーチューブやりながら野球選手をやる。ほんと新しい。自分も大好きなタイプの方です」と期待を抱く。同じく助っ人投手で、昨年日本一の立役者となったアンソニー・ケイは「大きな戦力だね。自分たちもいろいろ気づかせてもらうと思う」と話した。

チームの主将・牧秀悟も「頼もしい限りです。メキシコでやっていた映像で見ていた。日本でも1回(シーズンを)経験していて適応するのも早いと思う」「またいいコミュニケーションを取りながらやっていきたい。優勝するにはすごく大切な人が帰ってきた」と復帰を歓待している。

昨年シカゴ・カブスで新人賞に準じるような成績を残した今永昇太とMLBの大物・バウアーを擁した2023年、DeNAは優勝候補筆頭に挙げられた。しかし蓋を開けてみるとリーグ3位。クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージでは広島にストレート負けを喫した。

「前回日本にいたときはすべてを出しきれなかった気がする。最善を尽くしたけど怪我をしてしまってファンの前でシーズンを通して投げられなかった。ポストシーズンを投げられなかったし、優勝もできなかった。今年はそのすべてを変えたい」

復帰発表のサプライズ映像でバウアーはそう振り返っていたが、シーズン序盤は日本の野球への適応に苦しんでいたように見えた。8月に月間MVPを受賞したものの、怪我で9月以降は登板なし。沢村賞獲得とリーグ優勝を目指していた助っ人としては、手ごたえは感じたものの中途半端なシーズンであったことは確かなはずだ。

今回の復帰後はサイ・ヤング賞の本領を見せてもらいたいところだが、筆者はバウアーのプレーで忘れられないシーンがある。

球場全体が静まり返るほどバウアーが激怒したシーン

2023年7月1日、横浜スタジアムで行なわれた中日戦。6回2死一、二塁の場面。打者・岡林勇希が内野安打を放つと、一塁ランナーの龍空が二塁ベースを蹴って三塁に向かったものの、二塁ランナーだった石橋康太は三塁で止まった。二塁手の牧が龍空を三塁に追い詰めると、今度は石橋が本塁へスタート。牧はキャッチャーの伊藤光に送球したが、結果的にオールセーフとなってしまった。

この試合を現地で見ていたが、まるで逆回転の映像を見ているかのようで、何が起こっているかよくわからなかった。ただひとつ鮮明に憶えているのが、

バウアーがマウンドで激しく咆哮していたことだ。

その後、二死満塁と再びピンチを招いたバウアーだが、高橋周平をピッチャーゴロに打ち取ると、彼はボールを一塁に送球せず、怒ったように自らドスドスと走って一塁に駆け込みアウトにした。

そのバウアーの激しい怒りを目の当たりにして、球場全体が一瞬シーンと静まり返ったほどだった。そのときの心境についてバウアーはこう明かしている。

「かなり腹が立った。誰に対してではなく、強いて言うなら自分自身。本来なら7、8、9回と投げたかった中で、ああいう状況になったことに腹が立った。あの回は自分としてもいい投球ではなかったし、自分のエラー(記録は安打)もあって…」

そして「優勝するチームの野球ではなかった」と続けた。

サイ・ヤング賞獲得など個人タイトルでは輝かしい成績を持つバウアーだが、チームでの優勝経験は一度もなく、「優勝」の二文字への渇望は強い。その証拠に同シーズン後半を怪我で終えたバウアーは、当時、去就について聞かれた際、3つの残留条件を提示している。

「個人タイトルを狙えるチームであるか」
「ファンを沸かせるチームであること」
「優勝を狙えるチームかどうか」

MLB復帰を強く願っていたバウアーが翌年もDeNAで投げることには難しい現実があったものの、当時のDeNAが、残留条件としても挙げた「優勝を狙えるチーム」から遠かったことは否めない。昨季の「下剋上日本一」が、バウアーの望む世界を少なからず近づけたことは間違いないだろう。

「一石三鳥」のバウアー効果

そして今オフ、DeNAは上茶谷大河、浜口遥大、2人のドラ1を手放すという勝負に踏み切る。特に浜口とトレードでソフトバンクからやってきた三森大貴は怪我に苦しみながらも常勝ホークスの主力級の内野手だった。

三森の加入によって、DeNAの泣き所でもある球団最年長野手の宮﨑敏郎や、ほぼフル出場の牧のバックアップ問題が一気に解決する可能性が高い。貴重な先発左腕・浜口を放出してもほしい人材だった。そんな決断ができたことも、バウアーの復帰のメドが見えていたからかもしれない。

さらに、2024年のDeNAを悩ませていた計算できる先発ピッチャーの手薄さもバウアーの加入で解決する。中4日での登板を希望し、昨季のメキシカンリーグでも10勝を挙げていて今も衰えは心配なさそうだ。また前回所属時には、今永をはじめ多くの若手投手たちにアドバイスを惜しまず、投手陣の技術・メンタル面の底上げにも寄与した。

開幕当初は制球が定まらずバウアーと同じく苦労したアンドレ・ジャクソン投手が通訳を通じて助言を求めた際にも、快くそれに応じたという。バウアーの知識と経験は、その勝敗以上に大きな影響をもたらすに違いない。

また、バウアーといえば、球場内にカメラを持ち込み、自ら発信することも欠かさなかった。DeNAは昨年末に日本一までの軌跡をたどったドキュメンタリー映画『勝ち切る覚悟 〜日本一までの79日〜』を公開。球団はそれまでも多くの「舞台裏」ドキュメンタリーを公開し、本作はシリーズ第9弾となっている。

まだまだダグアウトにカメラが入ることに積極的ではない球団も多い中、多角的に野球の魅力を発信し集客につなげようとするDeNAとバウアーの目論見は多くの部分で合致する。また、自身の投球を科学的に分析しようとするバウアーは、野球の徹底的なデータ解析を目指すDeNAと補完し合う関係にもなり得るだろう。

「そして一人の選手として一番になるのが好きなんだ」

サプライズ映像で、バウアーはこう話す。

優勝を目指せるチームで高いモチベーションでプレーでき、泣き所だった内野手に三森を獲得、先発不足を解消する計算できる投手補強。バウアーの復帰は、まさに「一石三鳥」にもなり得る。

今年こそ昨季のような「下剋上日本一」ではなく、リーグ優勝からの「完全日本一」を見せてくれるだろうか。

文/西澤千央

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