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中国政府発表の「春節で90億人が移動」は“水増し”? それでも訪日客激増で懸念される感染症拡大とオーバーツーリズム

集英社オンライン / 2025年1月31日 11時0分

中国は1月29日に旧正月の春節を迎えた。今年は日本人気が高く、中国の旅行サイトでは一番人気になっているとも報じられている。観光地ではインバウンド商機到来になるが、地元民にはいいことばかりでもなさそうだ。 

(画像)昨年の5割増し…今年、訪日するとみられる中国人観光客の数は…

「経済が好調だと宣伝する要素が強いです」

「20か国近くが春節を自国の祝日に定め、世界人口の約5分の1が春節を祝っています。中国の春節はすでに“世界の春節”です」 

中国国営の対外宣伝メディアは春節休みの前から、春節を祝う文化を持つ国や人々が多いことをアピールしている。春節を祝う慣習は、昨年12月には国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間委員会が中国政府の求めを受け、無形文化遺産に登録。

世界各地の華僑や中国文明の影響を受けたアジアの国々に残る文化を、現在の中国政府の影響力と混同させるかのような宣伝は、無形文化遺産登録運動と軌を一にするものだ。

 さらに中国政府は、国内経済に勢いがあるように見せる手段にも春節を活用している。

「今年の連休は1月28日から2月4日までの8日間ですが、その前後、1月14日からの40日間は里帰りなどの民族大移動が起きることに対応した交通機関の特別輸送態勢がとられる『春運』期間とされます。今年、中国政府はこの期間に過去最多の延べ約90億人の移動が見込まれると発表していますが、経済が好調だと宣伝する要素が強いです」

そう話す全国紙国際部デスクが実態を解説する。

「人口14億人の中国で、延べ人数で世界の総人口(81億人)よりも多い数が移動する見込みだと強調するのは、里帰りだけでなく観光地に行く人も多く、それだけ消費が旺盛だと示すためです。

中国メディアによれば2020年までは延べ30億人程度で推移していたとされますが、コロナ禍の21、22年は激減。コロナ禍から抜けたと宣言した後の23年には47億人といわれていました。それが、昨年からは一般道を走る自家用車の移動人数まで含めるようになり、昨年は一気に84億人という数字になったのです。

今年はそれも上回る過去最大規模の移動が見込まれると宣伝していますが、実は昨年も春節前の予測は90億人としていたので実際にどうなるかはわかりません」(国際部デスク)

日本が旅行先の人気1位に…なぜ? 

国営の対外宣伝メディアは、「毎年春運の数字が注目される理由は、これが中国経済の底力を表すバロメーターとなるから。帰省は人々の消費意欲を刺激し、地方経済を活性化させます。過去最高の90億という数字は、中国経済にとって幸先のいいスタートといえるでしょう」と、中国の状況をバラ色に喧伝する。

「深刻な不動産不況などで停滞感が続く中国社会では、通り魔的な殺傷事件が続き、共産党指導部は実際には人が大移動する時期の治安悪化を警戒しています。また、患者が増えている呼吸器感染症が人の流れに乗って拡大することも心配されています」(北京駐在特派員)

一方、中産層以上が楽しむ国外旅行のうち、日本を目指す人は増えそうだ。

「中国の国家移民管理局の予測では、連休中の出入国者は1日当たりの平均で延べ185万人になるとしています。日本やタイ、韓国などアジアの近隣国の人気がもともと高いのですが、今年はタイで中国人の誘拐事件が次々に起きていることが報じられ、タイ行きを敬遠する傾向があるともみられています。

韓国も、大統領が弾劾、逮捕されるなどの政情不安が止まらないうえに、職務が停止された尹錫悦大統領の支持者らが『大統領失脚は中国の陰謀だ』などとデマを飛ばしており、魅力が高まる要素がありません。そうなると相対的に日本の人気が高くなり、中国の旅行サイトでは日本が一番人気になっていると報じられています」(社会部記者)

日本政府観光局の統計では、中国からの観光客はコロナ禍前の2019年が最も多く、約959万人だった。コロナ禍から脱した後、東京電力福島第一原発の処理水問題などが響き、客足の戻りが鈍い状態が続き、昨年は約698万人にとどまった。昨年春節があった2月は46万人弱で、コロナ禍前の2019年2月の約72万人には遠く及ばなかった。

「しかし今年は対照的に好調で、春節時期の飛行機利用の観光客は昨年比で5割程度伸びるとの見通しも出ています。中国から日本への年間の観光客数は初めて1000万人を突破し、過去最多になるのではないかとの期待の声も出ています」(テレビ局記者)

「市内のバスにはずっと乗れないことも日常茶飯事ですわ」

 ただ、コロナ禍前に見られた「爆買い」は鳴りを潜め、サービスを利用することで得られる体験を重視する「コト消費」を好む人が増えるとの分析から、受け入れ側も商品に工夫を凝らしている。

産経新聞などによると、大阪市の相撲体験施設「THE SUMO HALL 日楽座 OSAKA」は、春節期間中に相撲の歴史を中国語で解説したり、相撲を体験してもらったりする催しを行う。

神戸市のスキー場、六甲山スノーパークでは簡単な中国語に対応したスノーボード教室を開催。京都や岐阜の白川郷、北海道の温泉など、以前から人気が高かった観光地にも中国人客が押し寄せている。

しかし相当なボリュームの観光客による“オーバーツーリズム”に、対応が追い付いていないのも事実だ。

京都市に住む70代の女性は「えらい数の観光客が大きなトランクを引いて移動しはりますので、市内のバスにずっと乗れないことも日常茶飯事ですわ。観光業者さんは儲かるかもしれませんけど、市民の生活は大変です。あんまりひどいんで閑散としていたコロナ禍真っ最中のころが懐かしいくらいですわ。個人的にははっきり言って来ないでほしい。コロナは嫌やけど、街の風景はあのころに戻ってほしい」とも言う。

日本政府は中国人訪日観光ビザ(査証)の緩和を進めるなど中国からのインバウンドに頼る姿勢を強めているが、副作用の対策も同時に進めてほしいとの声は強まる一方だ。

※「集英社オンライン」では、今回の記事に関連して、オーバーツーリズムにまつわる情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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