「日本政府はわれわれよりも北朝鮮との対話を重視するのか!」韓国の拉致被害者家族が猛抗議…ドローンで朝鮮総連にビラ散布予告も、日本当局にけん制され…
集英社オンライン / 2025年1月31日 7時0分
北朝鮮に拉致された後に脱北し韓国へ戻った韓国人被害者や、未帰還者の家族が、被害者送還を要求するビラを東京・九段の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)上空からドローンで散布する計画を立てていたことが判明した。7人が1月28日に成田空港に着いたが、日本当局に入国・税関審査で6時間にわたって足止めされ、1人は即刻帰国。残る6人が30日、総連前で抗議行動を行なった。総連への抗議をけん制するかのような日本当局の動きは、対話を念頭に北朝鮮への刺激を避けたいと考えているからではないかと一行は反発している。
〈画像〉拉北者家族会が用意したビラ、横田めぐみさんの顔も一緒に掲載されている
「東京ではドローンで散布する」と宣言していたが…
来日したのは、漁船船長だった父が海上で拿捕・拉致された「拉北者家族会」の崔成龍(チェ・ソンリョン)代表(72)や、1975年に拉致され2007年に韓国へ戻った元漁船員Aさん(77)ら。
当初、昨年12月の来日を計画したが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(職務停止中)の戒厳令宣布による政情不安で延期していた。
ビラには横田めぐみさんや、めぐみさんの元夫とされる韓国人被害者・金英男(キム・ヨンナム)氏らの写真や拉致の状況などが記されている。
崔代表らは韓国内から北朝鮮に対し、風船に付けてのビラ散布をたびたび行なってきた。今回、韓国出国前から「東京ではドローンで散布する」と宣言。
朝鮮総連周辺は住宅街で、日本の航空当局が飛行許可を出す見込みはなかったが、崔代表らは飛行が認められなければビラの束を総連の建物に投げ込む計画だったという。
崔代表らは28日午後9時すぎに成田空港に到着。この直後、まず一行の中にいた脱北者団体「自由北韓運動連合」の朴相学(パク・サンハク)代表について、韓国内での違法行為の前歴が入国審査で問題にされ、通常、韓国人の短期滞在には不要であるビザ(査証)を求められて入国できなかったという。朴氏はその日の夜のうちに仁川行きの便で帰国した。
崔代表らの説明では、残る6人に対しては、税関でドローンに関する質問が続く中、「警視庁」を名乗る10人以上の捜査員が現れ、「ドローンを使用しない」という誓約書を書くよう求められたという。
これを拒否した一行との押し問答が29日未明まで続いた。崔代表らはその間に東京にある韓国大使館に状況を伝えている。
「このままでは帰れない」として30日、総連前を訪れた
結局、29日午前3時ごろになって当局側は「誓約書への署名は求めない」と伝え、6人は空港から出ることができたという。
この出来事の影響で、29、30両日に総連前で計画した抗議行動を中止すると一行は一時発表したが、「このままでは帰れない」(崔代表)として30日の午後、総連前を訪れた。
崔代表の父・崔元模(チェ・ウォンモ)氏は、朝鮮戦争(1950~53年)当時、韓国側の非正規ゲリラ部隊の隊員だった。朝鮮半島西側にある黄海の島々の間を、ゲリラ兵や武器、食料などを運ぶ工作船の船長を務めていた。
休戦後は黄海で漁船を操業していたが、1967年6月に海上で拉致され、北朝鮮は解放しなかった。韓国情報機関当局者は「入手した情報では、崔元模氏は1972年12月に北当局によって処刑されたとみられる」と話す。
韓国統一部当局者は、「これまでの集計では、北朝鮮は1953年7月の朝鮮戦争休戦協定締結後、少なくとも3835人の韓国人を拉致していますが、その97%は海上で拿捕した漁船員で、拉致した人のうち3310人はその後、韓国へ帰しています。労働力や対南工作員として養成するため525人は抑留したまま返さなかったのですが、このうちAさんを含む9人が、脱北に成功し韓国へ戻ってきました。
実は、北当局が拉致被害者を殺害したことはほとんどないとみられるのですが、崔元模氏は非常にまれな例外とみられるのです」と話す。
その理由について息子の崔成龍代表は「朝鮮戦争中のゲリラ活動が、拉致された後に発覚し処刑されたとの情報があるのです。私は母から『必ずアボジ(父)の遺骨を探し出せ』と言われたことを機に、父や他の被害者の情報収集を始めました」と話す。
崔代表は情報を基に北朝鮮に脱北ブローカーを送り、帰還できなかった拉致被害者を中国に脱出させることに次々と成功。今回一緒に来日したAさんもその一人だ。
さらに崔代表は2006年に、横田めぐみさんが北朝鮮内で結婚した相手が1978年に韓国西部の海岸で拉致された当時高校生の金英男氏であるとの情報を確認したと公表し、北朝鮮当局はこれを追認している。
「日本へ来れば大げさに言えば“VIP待遇”を受け丁寧に扱われてきました」
こうした縁もあって日本を数多く訪問してきた崔代表は、今回成田空港で受けた措置に驚いたという。
「ドローンを飛ばすことがだめなら、現場で指示されれば従いました。空港で長時間足止めをしたのは入国自体をやめて帰るよう暗に求められたのだと思います。
私たちはこれまで、日本へ来れば大げさに言えば“VIP待遇”を受け丁寧に扱われてきましたので、今回の仕打ちは想像もしませんでした。実は、今回配布しようとしたビラを昨年10月に印刷したのですが、ソウルの日本大使館から『めぐみさんに関する記述と写真を削除してくれ』と求められたのです。
韓国人被害者の金英男氏と一時夫婦だっためぐみさんは日韓の被害の象徴なのに、めぐみさんの記述を外せというのは、韓国とはこの問題で連携しないということなのでしょうか。岸田政権の時から北と対話すると言い続けている日本政府は、対話の環境をつくるため朝鮮総連を刺激する行動をやめさせようとしたのだと思います」(崔代表)
30日午後、総連本部のそばに来た一行は、ビラを投げ込むことも止められて断念した。50人以上の警視庁捜査員を前に崔代表は拡声器で「日本は拉致問題で(北朝鮮から)謝罪もされ、被害者を連れ帰ることもできた。しかし私たちは(拉致された)家族の生死確認もできない状態が続いています」と訴えた。
金正恩朝鮮労働党総書記と会談したトランプ氏が米国の大統領に再び就き、北朝鮮を巡る情勢が大きく動く可能性もある中、日本当局の今回の対応が何を意味するのか、注目される。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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