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〈居酒屋倒産 過去最多〉鳥貴族、ワタミら“上場企業系”好調の裏で苦戦が続く居酒屋チェーンの実情

集英社オンライン / 2025年2月4日 7時0分

帝国データバンクによると、2024年の酒場・ビヤホールの倒産件数は212件。前年から8件の増加で、コロナ禍以降で過去最高となった(「「飲食店」の倒産動向調査(2024年)」)。飲食店の経営は中小零細、または個人で行なっているケースが多く、売上が十分に回復せずに資金繰りが悪化したケースが目立つ。

【画像】あのディスカウント・ストアにまさかの鮮魚店がオープン

 

一方、「鳥貴族」や「ワタミ」などの上場企業は回復が鮮明になりつつあるが、「金の蔵」を運営するSANKO MARKETING FOODSは苦戦している。

居酒屋需要は2019年比で8割に満たず

日本フードサービス協会によると、2024年のパブレストラン・居酒屋の売上高は前年比105.5%だった(「JF外食産業市場動向調査」)。堅調に回復しているように見えるが、この数字を2019年との比較で計算し直すと75.1%となる。飲食需要がコロナ禍から回復しても、居酒屋の売上はいまだ8割にも達していないのだ。

しかも、牛肉や野菜などの食材費は高騰。アルバイトの時給も上がり続けている。「TOWN WORK」を運営するジョブズリサーチセンターの調査によると、2024年12月の三大都市圏の平均時給は1219円。2019年12月は1089円だった。

つまり売上が回復しないうえに、インフレで食材費や店舗運営費の負担は重くなっているのだ。そこにコロナ支援策の縮小・終了が加わってゼロゼロ融資の返済が開始。キャッシュフローが回らなくなる事業者が続出しているというわけだ。

しかし、資本力がある上場企業の稼ぐ力は戻り始めている。特に客単価が低い店舗や専門店を運営する企業の好調ぶりが目立つ。

「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループは、2024年7月期の営業利益が前期の2.3倍となる32億円、純利益は3.5倍の21億円に急回復した。鳥貴族は低価格の大衆居酒屋を展開しており、大人数での宴会への依存度が比較的少ない収益構造をしていた。実際、2023年7月期からすでに黒字転換を果たしている。

「ワタミ」の国内外食事業、2025年3月期上期におけるセグメント利益も前期のおよそ1.6倍の7億円に回復した。2019年3月末に480あった店舗を2024年9月末には319までスリム化。ワタミは宴会への依存度がやや高い店が多かったが、需要の変化で不採算となった店舗の閉鎖や業態転換を急ピッチで進めたのだ。

「塚田農場」のエー・ピーホールディングスは2025年3月期上期に1500万円の営業利益を出し、黒字転換を果たした。「塚田農場」も宴会需要の受け皿という色合いが強い店舗だったが、会社全体で鮮魚や地鶏、ホルモンなどの素材を活かした専門業態の出店を強化。宴会に強い居酒屋からの脱却を図っている。

「テング酒場」のテンアライド、「庄や」の大庄、「はなの舞」のチムニーも黒字化した。

かつて倒産したオーディオメーカーとよく似た構図に…

一方で赤字から回復できていないのがSANKO MARKETING FOODSだ。2024年6月期は期初に3000万円の営業黒字を計画していたが、着地は7億円近い営業赤字。2025年6月期第1四半期も赤字でスタートしている。

SANKO MARKETING FOODSは、焼き牛丼の「東京チカラめし」や低価格居酒屋「金の蔵」で一世を風靡した。しかし、今では2業態ともに店舗数は縮小しており、大衆酒場「アカマル屋」で業績回復を狙っている。

会社はコロナ禍を迎える前から苦戦気味だった。2018年6月期から7期連続の営業赤字。本業での現金の動きを見る営業キャッシュフローも7期連続のマイナスだ。

異なる業種だが、2022年5月に自己破産申請を行なったオーディオメーカーのオンキヨーホームエンターテイメントは、2019年3月期から3期連続で営業キャッシュフローがマイナスだった。赤字が続くことよりもキャッシュが企業活動の命運を握っており、7期連続マイナスというのは極めて珍しい。

SANKO MARKETING FOODSが2024年9月末時点で保有する現金は3億円。EVO FUNDというアメリカ系の機関投資家に新株予約権を発行して資金を調達し、急場を凌いでいるが、その構図もかつてのオンキヨーと酷似している。オンキヨーは期待していたEVO FUNDからの資金調達が途絶えたことが、倒産の直接的な引き金となった。

SANKO MARKETING FOODSが足元で力を入れている「アカマル屋」は、レバ刺し、もつ煮込みなどを提供する典型的な大衆酒場で、カウンターとテーブルが中心。店づくりは脱宴会そのものだ。ビルの1階に出店する路面店がほとんどで、ふらりと立ち寄る今の居酒屋需要に合致している。それにもかかわらず、赤字なのはなぜだろうか。

足元がおぼつかないなかで水産事業を強化

赤字の主要因になっているのが水産事業だ。SANKO MARKETING FOODSは2023年9月に伊豆半島の下田の漁業者から、漁獲や魚種、相場にかかわらず全量買取する取り組みを開始。2024年6月末時点で計5隻、月間漁獲高目標値3.5トンとし、鮮魚の仕入力を強化した。

これは、捕獲から販売までをシームレスに提供するという新たな取り組みだ。水産加工から販売までの仕組みはすでに整っていたため、一次産業へとリーチしたのだ。それが顧客への付加価値になるというものだった。2024年7月には千葉市地方卸売市場の仲卸業者と資本業務提携契約を締結し、千葉エリアでの販路・流通機能も加えた。

しかし、水産事業は船団形成コストなどが重荷となり、2024年6月期の水産事業は3億2200万円の赤字を出している。期初予想では2600万円の黒字だった。飲食事業そのものは1億円を超える黒字で着地をしている。

すなわち、顧客への付加価値を高めようと川上へのアプローチを仕掛けたあまり、そのコストの増加を本業で抑えきれなくなっているのだ。

SANKO MARKETING FOODSの一次産業を強化するという取り組みそのものは否定されるものではない。疑問に感じるのはその進め方だ。かつての主力店舗だった大型店「金の蔵」は業態転換ではなく、退店によって縮小させた。撤退するのには退去費用が必要で、大胆な構造改革が必要となる。コスト負担が重いのだ。

一方で、路面店が中心の「アカマル屋」を新規出店していた。路面店は人気があるために物件を見つけ出すのは容易ではない。2023年6月期から2024年6月期はそうした経営のかじ取りをする難しい時期にさしかかっていた。それにもかかわらず、漁獲や魚種、相場に関係なく全量買取するという契約を進めたのだ。

居酒屋に来店した顧客にとって、独占契約した漁業者から直接仕入れた鮮魚の料理というものに、どれだけの付加価値を感じるだろうか。大衆居酒屋の来店客が重視しているのは、単純に安くて美味しいものであるはずだ。

かつて「はなの舞」を運営するチムニーも鮮魚の直接調達にこだわり、居酒屋のブランド力を強化しようとしていた。しかし現在は、インバウンドや修学旅行需要の獲得など、セールスを強化している。

SANKO MARKETING FOODSは2023年4月、MEGAドン・キホーテ本八幡店内に「サカナタベタイ」という鮮魚店をオープン。さらに経営破綻した東海エリアの飲食店9店舗を2023年12月に承継した。フードコートで魚介料理を提供する店舗だ。

その裏側で、資金面で機関投資家に頼っていることが気がかりだ。鮮魚の強化を進めた先で黒字化ができなかった未来は、暗いものとなるはずだからだ。

取材・文/不破聡

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