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「即日」「翌日」配送は継続困難か…Amazon「ゆっくり便」導入など「物流の2024年問題」報道で消費者の意識にも変化の兆し?

集英社オンライン / 2025年2月10日 17時0分

社会全体の課題として、昨年大きな話題となった「物流の2024年問題」。ドライバーの労働時間制限により輸送力の不足が深刻化し、これまでのように物を運ぶことが難しくなる懸念が広がっていた。こうした状況を受け、東京都は2025年1月28日に「物流効率化セミナー」を開催。物流効率化に向けた最新の取り組みや、行政の物流施策が紹介された。

【画像】全日本トラック協会のHPでも大きく取り上げられた「物流の2024年問題」

時間外労働の制限で、モノが運べなくなる可能性も

2024年、多くのメディアで報じられ、社会全体の関心を集めた「物流の2024年問題」。SNSでも広く拡散され、日々の暮らしに直結する深刻な問題として、多くの人の耳に届いた。

簡単におさらいすると、「物流の2024年問題」とは2019年に成立した「働き方改革関連法」により、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されることで生じる一連の課題を指す。

最大の課題として、輸送能力の不足が挙げられていた。政府が2023年8月に公開した「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ」では、労働時間削減のために具体的な対応を行わなかった場合、2024年度には14.2%(営業用トラックの輸送トン数換算で約4.0億トン)、2030年度には34.1%(同約9.4億トン)の輸送力が不足するという試算も出されている(*1)。 

特に、長距離輸送への影響は甚大だ。ドライバーの労働時間が制限されることで、これまで深夜や早朝の運行で成り立っていた輸送スケジュールの維持が難しくなり、途中で人員交代が必要となるケースが増加することが懸念される。これに伴い、人員確保の負担が増え、運賃の値上げや配送遅延などが発生する恐れもある。

ドライバーの労働時間短縮により、実際に運送回数の削減や配送エリアの縮小を余儀なくされた中小の運送事業者も多いという。公益社団法人宮城県トラック協会の調査によると、物流の2024年問題への対応準備として、「事業の縮小、輸送エリアの限定」を対策として挙げた企業もいたそうだ(*2)。

この問題は運送業者や荷主に限らず、一般消費者にとっても他人事ではない。現在のEC市場では「即日配送」や「翌日配送」が一般的なサービスとなっているが、物流負担の増大に伴い、今後はその維持が難しくなる可能性がある。

こうした状況を受け、国民生活センターは消費者に対し、「確実に受け取れる配達日時を指定し、その時間は必ず在宅する」「宅配ボックスや置き配、コンビニ受け取りを活用する」「複数の商品をまとめて注文・配達依頼をする」など、物流負荷を軽減するための行動を呼びかけている(*3)。

物流効率化セミナーが開催。「スマート置き配」などの最新施策事例も

物流の最適化が急務となる中、東京都による物流効率化に向けた社会的ムーブメントを醸成するプロジェクト「東京物流ビズ」の一環として、2025年1月28日、「物流効率化セミナー」を開催。事業者による物流効率化の優良事例や、行政の物流施策に関する最新情報が紹介された。

会の冒頭、東京都の小池百合子知事はビデオメッセージで「物流は生活や経済、文化活動を支える重要なインフラ。効率化は待ったなしであり、荷主や消費者を含め、社会全体で行動していくことが大切」と述べ、荷主に対しては「一括発注で発送の頻度を減らし、ゆとりある納期を設定するなど、一層の効率化を目指してほしい」と語った。

また、消費者に対しても「通販を利用するとき、注文方法や受け取り方を工夫して、配達の回数や再配達を減らしていこう」と呼びかけた。

同セミナーでは、国土交通省が進める物流革新の取り組みや、東京都産業労働局による支援策など、物流の効率化に向けた政府や東京都の施策が詳しく紹介された。

たとえば、東京都都市整備局は現在、物流効率化を目的とした事業者や都民への広報活動を積極的に展開している。同局は、消費者が物流の理解を深めることの必要性に触れながら、都民や荷主に対して再配達の削減など物流効率化の重要性を周知するとしている。

また、事業者向けには企業・団体間の交流機会の提供や各種セミナーの開催、ポスター掲出などを通じ、事業者と荷主の相互理解を深め、輸送の効率化を促進する方針を示した。

さらに、物流の効率化に貢献する技術として、株式会社ライナフの「スマート置き配」も紹介された。同社は、不動産オーナーや管理会社に向けて、置き配の普及と導入を支援するサービスを展開している。

同社の「スマート置き配」は、集合住宅向けスマートロック「NinjaEntrance」をエントランス付近に設置し、オートロックマンションでも置き配を可能にする、というもの。入館できるのは提携する宅配サービスの配達員のみで、配達時の入館履歴も記録される。これにより、宅配ボックスが設置されていない、または不足している不動産でも、セキュアな置き配の導入が可能となる。

現在、全国14,000棟のオートロック付きマンションに導入されており、物流の効率化と利便性向上に寄与しているという。

負担となる「再配達」。削減のためには、消費者の行動変容が必須

ドライバー不足が深刻化する中で、「再配達」は運送業者にとって非常に大きな負担となっている。

国土交通省が2024年12月に公表したデータによると、昨年10月の宅配便再配達率は約10.2%。政府が取りまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」では令和6年度までに再配達率を6%に削減することが目標とされていたが、依然として高い水準となっている(*4)

再配達削減など、ドライバーの負担を軽減させる消費者一人ひとりの協力が不可欠であり、置き配は有効な手段とされている。国や自治体も置き配や宅配ボックスの利用促進に取り組んでいるが、消費者の行動変容を促すには難しい部分もあるだろう。

東京都の物流効率化に携わる都市整備局 都市基盤部 物流調査担当課長の岡本健一氏に、どのような施策が考えられるのか聞いてみると、次のように答えてくれた。

「まずは、現在の物流の状況や再配達削減につながる取り組みを知ってもらうことが、重要と考えています。通販利用時に日時指定や自分にあった受け取り方を指定するだけで、手間をかけずに1回で荷物を受け取れ、それが再配達削減になる、ということを理解してもらえれば、『物流事業者に協力する』という行動変容につながると思うんです。

実際にアンケート調査を行ったところ、『物流の2024年問題』に対し、報道機関で大きく取り上げられたこともあると思いますが、『受け取りの日時を指定するようになった』『置き配を利用するようになった』と再配達削減を心がけるようになったという方も多くいらっしゃいました。引き続き、物流効率化に向けて、現状や協力してもらいたい取り組みについて、都民の皆様へしっかり伝えていきたいと考えています」

物流業界の逼迫は深刻で、企業や自治体も効率化に向けた対策を進めている。しかし、それだけでは解決しない課題も多い。消費者も、確実に受け取れる日時の指定や置き配の活用、AmazonなどのECサイトでも導入が始まっている“ゆっくり便”サービスの選択など、小さな工夫を積み重ねることが重要になってくる。

まずは、物流の課題を「自分ごと」として捉え、できることから始めてみてはどうだろうか。


(*1)国土交通省|持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001626756.pdf

(*2)公益社団法人宮城県トラック協会|物流の2024年問題に関するアンケート調査結果について
https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/mg/kyg_17%20(13).pdf

(*3)国民生活センター|ウェブ版 国民生活「物流2024年問題と消費者」(2023)https://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/wko/wko-202311.pdf

(*4)我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議|「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/20231226_1.pdf

取材・文・撮影/毛内達大

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