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「愚鈍な警察諸君 ボクを止めてみたまえ」日本中が“酒鬼薔薇聖斗”に震撼した「神戸連続児童殺傷事件」、そして同時期に起きていたもうひとつの殺人事件

集英社オンライン / 2025年2月10日 11時0分

日本中を震撼させた神戸連続児童殺傷事件から今年で28年になる。当時、ニュース番組の映像編集者として連日、この事件の情報を発信し続けていた宮村浩高氏には、同時期に関西で起きていた「もうひとつの殺人」も忘れることができないという。

【画像】「神戸連続児童殺傷事件」と同時期に起きていたもうひとつの殺人事件

「愚鈍な警察諸君 ボクを止めてみたまえ」

1997 年2月10日、小学生の女児2人が、何者かにハンマーで殴られ重傷を負うという事件が神戸市須磨区で発生しました。1カ月後の3月16日、またもや小学生の女児が何者かにハンマーで殴られ、一週間後に死亡。さらに同じ日に別の小学生女児がナイフで腹部を刺され重傷を負うという事件が連続して起こりました。

当時、事件が起こった地域はもちろん、マスコミも含め言いようのない緊張感に包まれていました。そして事件はさらに恐ろしい展開を見せたのです。

5月24日、小学6年生の男児が行方不明になりました。3日後の5月27日、須磨区の中学校の正門に行方不明だった男児の首だけが置かれているのが発見され、その口には「さあゲームの始まりです」から始まるメモが入っていたのです。

「さあゲームの始まりです 愚鈍な警察諸君 ボクを止めてみたまえ ボクは殺しが愉快でたまらない 人の死が見たくて見たくてしょうがない 汚い野菜共には死の制裁を 積年の大怨に流血の裁きを SHOOLL KILL(原文ママ)」

そしてメモには「酒鬼薔薇聖斗」という名前らしきものも書かれていました。ここにきて、事件は一気に猟奇殺人の様相を呈していきます。

私はこの事件の一報を、放送局に出勤したときに慌ただしく動き回る報道記者からの説明で知ったように記憶しています。驚きを通り越し、恐怖を感じました。

近隣住民らの目撃証言では「犯人は30~40代の男性」「黒の車に乗っていた」「いや、スクーターに乗っていた」などさまざまな犯人像が取りざたされました。私自身も映像編集をしていて、画面の端に映った人物を見て、「この人物が犯人かもしれない」という妄想まで出てくるような状態でした。

事件現場から離れた放送局の編集室で画像を見ているだけの私ですらこう思うのですから、地元住民の疑心暗鬼や恐怖は想像できないほど大きなものだったと思います。

その後も地元の神戸新聞社に犯人と自称する人物から手紙が届きます。文中では自分のことを「透明なボク」と表し、報道が酒鬼薔薇(さかきばら)を「おにばら」と読んだことに憤っていました。

子供の首を切り落とし、「人の死が見たくてしょうがない」と声明文に書くような殺人鬼が今も付近をうろうろしているという恐怖感で重い空気に包まれた日々が続きます。

そして6月28日、ついに犯人が逮捕されます。驚くことにその犯人は、児童の首が置かれていた中学校に通う14歳の少年だったのです。事件の残忍さと14歳という年齢のあまりのギャップに私たちも戸惑いました。

最初の事件から4カ月以上、今まで経験したことのない展開を見せたこの事件は、衝撃の結末を迎えたのでした。

「酒鬼薔薇聖斗」の顔写真を掲載した「FOCUS」

このときに話題なったのが、写真週刊誌「FOCUS」が犯人の少年の顔写真を掲載したことです。これは大きな論議を巻き起こしました。

少年法では「家庭裁判所の審判に付された少年犯の氏名、年齢、住所、容貌などが明らかとなる記事や写真を、新聞および出版物に掲載してはならない」とされています。これは雑誌の販売部数を増やすためだけの、あまりにも悪質な出版社の行為だったと思います。

この件で多くの人たちが「FOCUS」の出版元である新潮社に対して抗議をしています。その中には、新潮社で出版したすべての著作の版権を引き上げ、同社と絶縁した作家もいます。灰谷健次郎さんです。たとえ収入が絶たれようとも、自分の信念に反する出版社とは関係を断つと決めたわけです。

テレビニュースではもちろん少年の顔は使えません。しかし何とか映像化したい。そこでカメラマンが狙ったのは、少年が警察車両に乗り込む足元でした。

あるときに裸足にスリッパの少年の足元が一瞬ですが撮影できたのです。その後、この少年を表す映像は、常にこの足元の映像になりました。しかし、顔が見えずに常に足元が出てくるというのは、ある意味、不気味さを増したように感じていました。

この神戸連続児童殺傷事件は、関西で起こった事件でしたが、あまりにもセンセーショナルだったため、常に全国放送で報道されていました。そのため、日本中の人がよく知っている事件だと思います。しかし実は、この事件と同時進行で関西ではある事件が発生し、大々的に報道されていたのです。

奈良県月ヶ瀬村女子中学生殺人事件

神戸で小学生が殺傷される事件が起こり、関西の報道が騒ぎ出していた1997年5月4日、奈良県添上郡月ヶ瀬村という山間の村で、当時13歳の女子中学生が行方不明になる事件が発生、着衣などが血の付いた状態で発見されます。

そして、その容疑者はすぐに浮上しました。同じ村に住む25歳の男性でした。すぐさまマスコミがこの男性の自宅に押し掛け、大騒ぎとなったのです。

犯人と目されたその男性は、記者やカメラマンに向かって常に反抗的な態度で、声を荒げるなどしていました。しかしそれは、マスコミにとって“インパクトのある格好の映像”になるだけでした。テレビは連日その男性を犯人のように報道していたのです。恥ずかしながら私もその一員でした。

しかし、その段階では警察の発表があったわけではありません。事件が起こったときから、村人の間では「彼がやったに違いない」という噂が出ていたことが発端のようなのです。それを聞きつけたマスコミが、あたかも犯人と決まったかのように連日その男性を追いかけ回していたのでした。

そんな状態が2カ月ほど続いた7月23日、この男性は逮捕されました。

そして8月1日、男性の自供通り、山中から行方不明だった女子中学生の遺体が発見されたのでした。警察から発表された事件の概要はこうです。

新車に乗った犯人が、たまたま近所に住む顔見知りの女子中学生が歩いているのを見かけて、「家まで送ってやろう」と声を掛けます。しかし、女子中学生は無視して歩いていってしまいます。

その態度に腹を立てた犯人は彼女を背後から車で轢き、そのまま連れ去ってしまったのです。連日映像を繋いでいた私も、「その程度のことで殺してしまうなんて、なんというやつだ」という気持ちで編集していました。

この事件は容疑者も犯行を認めており、短気な不良青年が起こした殺人事件として決着しました。そして早々に人々の関心は薄れていきました。というのも、この事件は先にお話しした神戸連続児童殺傷事件と時期が重なっていたからです。

2月10日【神戸】 小学生の女児2人が何者かにハンマーで殴られる
5月4日《月ヶ瀬》 13歳の女子中学生が行方不明になる
5月24日【神戸】 小学6年生の少年が行方不明になる
5月27日【神戸】 中学校の正門に少年の首だけが置かれているのが発見される
6月28日【神戸】 14歳の少年が逮捕される
    《月ヶ瀬》 犯人と目される男性が連日報道される
7月23日《月ヶ瀬》 25歳の男が逮捕される

まさに同時進行のように両事件は推移していたのです。

この月ヶ瀬の事件はマスコミからも世間からも早々に忘れられていきましたが、今の私にとっては心に引っかかるものが残っている事件です。のちに知ったこの犯人の“ある情報”に考えさせられたのです。

メディアスクラムと”村八分”

この犯人は、2000年に無期懲役の判決が出た際、上告を拒否し、そののちに、収監先の刑務所で自殺をしています。逮捕から約4年後、29歳でした。それを知った私は、テレビカメラに向かって噛みつくように怒りまくっていた男の印象と、自死というイメージがなかなか一致しませんでした。

そこでいろいろと調べてみると、今まで知らなかったことがわかってきました。

当時の奈良県添上郡月ヶ瀬村という所は、前時代的な旧習が残る土地だったようです。村の一員になるためには2人の紹介者が必要で、紹介者が居ない人は村のコミュニティに参加させないという独特のルールがありました。犯人の一家に紹介者はいませんでした。

さらに、犯人の家系には朝鮮人がいるというだけで、村人からかなりひどい差別を受けていました。村に何か事件が起これば犯人でもないのに犯人扱いされるなど、今では放送禁止用語ですが、完全な〝村八分〟だったのです。

事件が起こってすぐに、「犯人はやつに違いない」という声が村人からマスコミに流れたのでしょう。すぐに彼が取材対象になった理由がよくわかりました。

生まれてからずっと受けてきた苛烈な差別への鬱積した怒りが、顔見知りの女子中学生に無視されたことによって爆発したのでしょうか。当時、「その程度のことで殺してしまうなんて…」と犯人の身勝手な犯行に強い嫌悪感を抱きながら編集していた私でしたが、彼にとっては「その程度のこと」ではなかったのかもしれません。

この事件で問題になったのは〝メディア・スクラム〟でした。大勢の記者やカメラマンが押しかけて、当事者や家族、近隣住民や知人などに強引に取材をすることをこう呼びます。

これは取材される側からすると〝リンチ(私刑)〟とも言える行為です。昔から問題視されてきましたが、現在に至るまで決して改善されることはありません。

改善されない理由は、視聴率至上主義や他社が撮影できた画は撮り逃がすわけにはいかないというもの。また「マスコミは社会の代弁者である」という思い上がりなどいろいろあると思いますが、私のような編集者も当然反省しなくてはいけません。

実際に私も警察発表を鵜吞みにして映像を繋ぎ、少々疑問に感じても、時間に追われる中、何も意見することなく放送し続けてきたことも多くありました。「あれは行き過ぎた報道ではなかったか…」と、今でも思うことが少なくありません。

文/宮村浩高

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