映画化される「8番出口」、爆発的な人気の正体はホラー界の最先端の概念にあり! 恐怖の“気配”を味わうという“リミナルスペース”とはいったい…
集英社オンライン / 2025年2月11日 17時0分
2024年の「新語・流行語大賞」にノミネートもされたPC用インディーズゲーム「8番出口」。そんな同作が2025年に実写映画化されると発表されて再び注目を集めている。改めて「8番出口」の何がここまで多くの人を魅了したのか。大のホラーマニアとしても知られる、インターネットホラーラジオ「禍話」の語り手・かぁなっきさんにその理由を聞いた。
【画像】見るだけでなぜか不安に…「8番出口」が影響を受けた「リミナルスペース」とは…
ゲーム配信者界隈の心をつかんだことで爆発的に伸びた「8番出口」
異変を見逃さないこと。
異変を見つけたら、すぐに引き返すこと。
異変が見つからなかったら、引き返さないこと。
8番出口から外に出ること。
2023年11月29日のリリースからわずか1年足らずで累計140万ダウンロードを突破。YouTube上では総再生回数1億回を超える実況プレイ動画がいくつも投稿されるなど、爆発的な人気を獲得した「8番出口」。
昨年の12月27日に東宝によって実写映画化が発表されて再び注目を集めているわけだが、本作がウケた理由はどこにあるのか。
「ゲーム実況配信と相性がよかったのは大きいですよね。異変を探すというシンプルなルールは間違い探しと同じで誰でも楽しめますし、配信者的にはコメント欄と会話しやすいモチーフでもあります。
そのほかで言うと、死体や殺人は描かれませんし、登場する怪異も血みどろの幽霊や怪物などではなく、通路に同化した人影や巨大化したサラリーマン風のおじさんなど、どことなくマイルド。このマイルドさが広く受けた一因でもあるのかなと」(禍話・かぁなっきさん、以下同)
本作はウォーキングシュミレーターと銘打たれているが、テイストとしてはホラーゲームに近い。マイルドさを保ちながら恐怖感を演出できている理由が気になる。
「同じ場所をループしてしまったり、怪異に捕まったときに場面がプツリと途切れてしまったりなど、夢の中のような空間表現が不気味さを掻き立てますよね。
こうした表現って誰でも共感しやすいものだと思います。そしてこの夢で見たような光景は今話題の“リミナルスペース”の概念にも通じるのではないでしょうか」
令和のホラーマニアを刺激するホラー概念“リミナルスペース”
“リミナルスペース”という概念についてもう少し深く解説していただこう。
「リミナルスペースは、2019年ごろに海外掲示板で“不気味な雰囲気を醸し出している空間”を指す言葉として語られるようになりました。
本来は“空間同士をつなぐ、人が常駐しない人工的通路や待機場所などを指す建築用語”なのですが、今ホラー好きたちの間では前述の意味でよく使われています。
今のところホラー文脈で定義付けはされていないのですが、夢で見たような空間であることは特徴として挙がりますね」
8番出口の舞台は駅の地下通路だが、これは本来の意味でもホラー文脈の意味でもまさにリミナルスペースそのものだったわけだ。かぁなっきさんはリミナルスペースを構成する要素はまだまだあると指摘する。
「場所と場所をつなぐ空間というのは“スイッチする空間”とも言い換え可能です。
例えば、駅の地下通路やホームは電車に乗っていない状態から乗るという状態にスイッチする境目の場所ですよね。こうした空間で人は異界を想像してしまうのかもしれません。
2000年に2ちゃんねるの“洒落怖”スレに投稿された人気怪談『猿夢』は、スレ主が夢を見ると無人駅のホームに奇妙な電車がやってきて、それに乗ると乗客の殺され方を語る奇妙なアナウンスが聞こえてくる……という内容なのですが、この話における駅のホームは異界との境目という意味でとてもリミナルスペース的です」
リミナルスペースには“懐かしさ”も大きな要素だそう。
「リミナルスペースの閉塞感って90年代ごろのビデオゲームによくあった、何もない空間をさまよっているときに感じる居心地の悪さと似ています。
この“リアルだけどリアルじゃない感覚”は、例えば人体模型が動くといった“生きていないのに動いている”というホラーの定番表現にも通じるものです。
リミナルスペースの流行を思うと、現代ではその感覚が生物から“空間”に拡大されたのかもしれません」
日本と海外で異なる、リミナルスペースの取り入れ方とは
リミナルスペースの概念を取り入れたコンテンツは何も「8番出口」だけではない。
「8番出口」よりも先にリミナルスペースの概念を広めたのは、海外の創作都市伝説である「THE BACKROOMS」だ。
元々は海外の掲示板でリミナルスペースの画像に「これは現実から迷い込んでしまった異空間だ」という設定や物語をネット民たちが付け足したのが始まりで、その後は共同創作サイトを中心にファンが様々な設定を作り上げて人気となり、2020年ごろから一大ムーブメントを起こしたのだ。
「『THE BACKROOMS』も『8番出口』同様、リミナルスペースの概念を万人受けするようにマイルドにしたことで知名度を得ましたが、設定と物語を付与するという方法は『8番出口』とは対照的ですね。
一昔前の日本のホラー界隈では、嘘か本当かという真偽性を拠りどころにした実話怪談が人気でしたが、近年はホラークリエイターの皆口大地さんや映画監督の寺内康太郎さんが手がけている『フェイクドキュメンタリーQ』のように、真偽性よりも“怖いとは何か”という概念的な部分を追求する作品が好まれている印象があります。
実はこれは18世紀のイギリスから始まった怪奇・幻想小説の源流に近い考え方です。
これらの小説は時とともに大衆から『そうは言っても理由が欲しいよね』と怪物や幽霊といった恐怖の正体が付与されましたが、恐怖の気配を味わうリミナルスペースのよさを活かしている日本の作品は、時代の先を行っていると感じます」
ここまでの話を踏まえて、かぁなっきさんは「8番出口」の映画版にこう期待を寄せる。
「ゲーム版の魅力をそのまま映像化するのは、映画というメディアが物語を必要としがちな性質上難しいかもしれません。
ですが、恐怖の気配を楽しむ傾向が強くなってきた今の日本であれば、ゲーム版とは異なるアプローチであっても、リミナルスペースの魅力を十分に活かした作品に仕上げてくれるはずです」
取材・文/むくろ幽介
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