時代遅れとなった「総合スーパー」の苦境…買収が取り沙汰される西友をはじめ、食品から衣料品に活路を見出せるか
集英社オンライン / 2025年2月12日 7時0分
投資ファンドKKRの傘下にある大手総合スーパー・西友の売却が取り沙汰されている。企業価値向上の取り組みがひと段落し、北海道と九州の店舗を譲渡した。いよいよ本体の売却が近づいているようだ。これまで西友は食品スーパーを軸に収益改善を果たしてきたが、次なる成長ドライバーは食品以外の売場、特に衣料品になるのではないだろうか。
総合スーパーにおける衣料品の販売額は8割減少
近年、総合スーパーという業態そのものが苦境に立たされている。
イトーヨーカドーは2023年から2025年にかけて33店舗の閉鎖を決定。北海道や東北、信越地方の店舗を譲渡し、このエリアからは撤退した。
イオンの総合スーパー事業であるイオンリテールは2023年2月期に57億円の営業利益を出し、3期ぶりの黒字転換を果たした。しかし、2024年3-11月は162億円の営業損失。前年同期間と比べて赤字幅を50億円以上広げて今期の黒字化に暗雲が漂いはじめた。
総合スーパーは高度経済成長期の「一億総中流」の申し子のような存在だ。好立地に何でもそろう店舗を出店し、長きにわたって大衆消費社会の受け皿となってきた。
しかし、時代は変化して小売業も専門分化が進んだ。消費者の好みも多様化し、自分の趣味嗜好にあったものを購入するようになっている。
消費者の衣料品の購入場所を調べている伊藤忠グループの調査会社マイボイスコム(「【衣料品の購入に関する調査】」)によると、直近1年間の購入場所を「スーパー」と答えたのは2018年6月が39.7%で、2023年6月は28.6%だった。わずか5年で11ポイントも下がっている。百貨店も19.8%から12.7%に落ちた。
一方、「衣料量販店」は45.1%から44.6%とほとんど変化がない。専門店が並ぶショッピングモールも38.3%から36.5%ほどの小さな変化だ。
総合スーパーは食品売場の集客効果を利用し、衣料品や日用品のついで買いを狙う業態のため、消費者は目的を持って衣料品を購入するようになったとも言えるだろう。総合スーパーは衣料品の落ち込みが特にひどく、ここが苦境の理由のひとつである。
イオンリテールやヨークベニマル、ユニーなどが加盟する日本チェーンストア協会は、1992年から現在までの販売額を公開しているが、1992年の総販売額は15兆2943億円で、2024年は13兆307億円だ。15%ほど低下している。一方、食品の販売額は6兆6565億円から9兆1215億円へと37%増加した。
しかし、衣料品は3兆8727億円から6645億円と、83%も減少しているのだ。日用品や家具などの住関品はやや苦戦しているものの、24%ほどの低下に過ぎない。
“仕上がった”西友の食品スーパー化
昨年、西友の大久保恒夫社長は日本経済新聞のインタビューに答えており、西友における「アパレルの売上高は5%以下」だと語っている(「西友・大久保社長 データ分析で特売減らし、安売り脱却」)。
実はこの数字は日本チェーンストア協会のものにも当てはまる。2024年の衣料品の販売構成比率は5.1%なのだ。つまり、西友は総合スーパーから食品スーパーへと軸足を移したが、それは業界全体の流れと合致する。
それでは、西友は食品スーパーとしてさらなる成長が狙えるだろうか? それはなかなか難しそうだ。
西友はKKRが買収して大久保恒夫氏が社長に就任した後、希望退職者の募集などで経営改革に乗り出した。西友単体の2023年12月期における営業利益率は3.9%であり、前期から0.9ポイント上昇している。西友のように売上規模が1000億円以上のスーパーの営業利益率は2.8%ほど(「2024年 スーパーマーケット年次統計調査」)であり、西友の稼ぐ力は突出している。
大久保社長は収益率を高めるため、無駄な特売を減らすなど、価格を軸とした改革も進めてきた。もともと、スーパーは安売りを仕掛けて売上を追う商習慣にとらわれている傾向があったが、大久保社長は安売りよりも品質を高めることを重視し、利益が出せる体制へと変化させたのだ。
ポイントはそれを消費者がどう受け止めるかだ。
前出のマイボイスコムでは、「価格が最も魅力的だと思う大手スーパー」のブランド調査(「【大手スーパーのブランドイメージに関する調査】」)も行なっているが、KKRが買収する前の2018年5月の調査で、西友と回答したのは15.8%。利益重視へと変化した後の2023年5月の調査では12.0%まで低下しているのだ。
一方、「最も品質がよいと思う大手スーパー」で、西友との回答は4.4%から4.1%へとわずかに下がっている。つまり、大久保社長が改革を行なった後の西友は、安売りを改めることで利益率の向上を果たした。しかし、消費者の価格に対する評価は下がり、品質評価は横ばいというわけだ。
この数字だけで判断すると、西友の「食品スーパー化」は現時点ですでに仕上がっており、さらなる成長は別の領域に残されていることになる。そしてそれは、売上構成比率が5%以下にまで下がった「衣料品」に焦点が当たると考えられる。
「アピタ」「ピアゴ」の衣料品の売上構成比率は10%
かつてウォルマートの傘下に入っていた西友も、やはり衣料品での立て直しを計画していた。その際、スーパーの「安くてダサい」というイメージを覆すべく進めていた「SEIYU FASHION PROJECT」のなかで、イギリス発のプライベートブランド「George」を強化したのだ。
このブランドはウォルマートのイギリスの子会社が手がけていたファストファッションだが、ファッション性が高く、価格も安かった。子供服の強化も図ったものの、やや奇抜で日本人の嗜好に合わずに消えていった。結局、当時の西友は衣料品の販売に弾みをつけることができず、ウォルマートが手を引く形でKKRに主導権が移った。
こうした歴史もありながら、総合スーパー各社は衣料品の改革を進めている。
イオンリテールは、2023年からは従来のオペレーションと売場環境を一新した専門店モデルを構築。年齢や利用シーンに合わせた6つの専門店を一部の店舗で導入、売場改革を進め、展開するブランドにも手を入れている。カジュアル部門をイオンリテールの子会社トップバリュコレクションに移管、統合した。その後、カジュアルブランドを「トップバリュコレクション」から「TVC」へと刷新した。
イトーヨーカドーも2024年2月、「niko and...」などを手がけるアダストリアとの協業開始を発表。新たなブランド「FOUND GOOD」の展開に乗り出している。
西友の買収にはイオンのほか、「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)も手を挙げているようだ。PPIHは、現在伸長している「アピタ」や「ピアゴ」といった総合スーパーを扱っているが、2024年6月期の総合スーパー事業における衣料品の売上高は445億円で、構成比率は10.8%と高い。
この事業が展開するオリジナルアパレルブランドは、防汚加工・制菌加工などを施したワイシャツや、通気性が高く軽量化かつストレッチ性があるボトムなど、機能性を高めた商品を数多く取り揃えている。
衣料品の改革に邁進するイオンと、高機能商品の販売で衣料品の売上構成比率が高いPPIH。両社ともに西友の売場は魅力的に映っているはずだ。
取材・文/不破聡 写真/shutterstock
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