〈急増するリベンジ退職〉休日返上10連勤、充電器忘れ3時間叱責…上司のハラスメントの末に若手社員が取ったまさかの行動
集英社オンライン / 2025年2月12日 11時0分
業務量の急増や厳しいノルマ、ハラスメントなど職場でのネガティブな体験を引き金に、労働者が対抗措置として退職する…その名も「リベンジ退職」。近年、アメリカで急増しているというが、日本も他人事ではない。
なぜ彼らは“リベンジ”という形で退職を選択するのか。その背景には、正当な形で訴えても対応や改善の見通しがない会社の在り方に絶望した末の“最終手段”の意味合いが強く込められていた。
充電器忘れ、3時間叱責
職場でのネガティブな体験に怒りを覚え、損害を与える形で「仕返し」や「報復」の意図を込めて突然会社を去る「リベンジ退職」がアメリカで急増している。SNSでもトレンド入りし、今年は日本でも増えるのでは、と囁かれているが、損害を与えるまでには至らなくても、不満や恨みを持ちながら退職する従業員は少なくない。
「休職し人事部に被害を訴えましたが、それすら握りつぶされたんです。自分は会社の歯車に過ぎなかった。もうあの会社には到底ついていけないと思い、退職を決めました」
そう語るのは、現在大阪府内の大学で韓国語の講師として勤務する男性・Hさん(32歳)。新卒時は新聞社に入社。大学院にも進学し、国際政治の専門性を身に着けた上での就職だったが、わずか3年半で記者職を退く結果に…。一体なにがあったのか。
「新人時代から2年半、ずっと警察本部で事件・事故取材を担当していました。取材先の警察官に対しては今でもすごくリスペクトがありますし、人脈を一つ一つ紡ぎながら記事化するプロセスなど、取材活動自体にはとてもやりがいを感じていました。
だけど、新聞社の昼夜問わない働き方に加え、公式発表より半日早く報道する“抜き抜かれ”合戦などのシステムに意味や価値を見出すことができませんでした」(Hさん、以下同)
速報性以上に深堀りする取材に重きを置いていたHさん。記者2年目の時には、22歳の孫による祖母介護殺人を裁判傍聴や周辺取材を含めて詳細に報じたところ、ネットニュースなどでも大きな反響を呼び、社内外で賞を受賞。会社には寄付金や手紙が多数寄せられた。
そんな順調な記者キャリアをスタートさせたかに見えたHさんだったが、2年目の秋には暗雲が立ち込めることに……。
「秋の異動で新たに赴任した次長が、労務管理に関心もなければ、『部下はいくらでも使い倒していい』というような思想の持ち主でした。そこから休日も関係なく働くことが奨励され、代休の申し出も却下されました。
『男だから』という理由で、担当外にも関わらず、車で片道2時間以上かかる遠方の取材に駆り出されたり、パソコンの充電器を忘れたことで3時間断続的に叱責されたりしたこともありました」
業務過多と精神的なストレスから胃腸の調子も悪くなり、みるみる痩せていったというHさん。ズボンも2サイズ落ち、心療内科で処方された抗うつ剤を服用しながら仕事をこなす日々を送るようになっていた。
しかし、そんな日々もついに限界を迎えた。
診断書叩きつけたとき、上司の反応は…
休日は月2日。10連勤という過労が続いた末、「限界であること」を訴えたが、一切真剣に取り合う様子のない上司の姿に堪忍袋の緒が切れた。
すぐさま心療内科に駆け込み、「うつ病」の診断書を片手に、上司の机に叩きつけた。
「こういうことなんで……。もう働けないです」
その一言を言い残し、会社を去ろうとしたHさんを慌てて引き止め、
「今までのことは会社に言わないでくれ」「希望の部署に推薦するから」と懇願した上司。その後、一応の謝罪の言葉をもらったというが、直後の2021年秋に休職に入った。
それから半年後、かなり体調が回復した段階で、「ハラスメントとして上司を正式に処罰してほしい」と証拠書類を持って人事部長のもとに赴いたHさんだったが、「今日は諸事情でハラスメントの受付はできない」と開口一番に言われた。
産業医に2度ハラスメント申請の要望を伝え、ようやくセッティングしてもらった人事部長面談での一言に、Hさんの心はさらに深く傷ついた。
「帰宅して冷静になったとき、『言いくるめられたな…』と絶望しました。僕はハラスメントの申請をしに行ったはずなのに、人事部長に言っても動いてくれないならもう無理だなと……。この会社に期待できることはなにもないと思いました」
さらに追い打ちをかけるようにその直後、本社への異動が命じられたHさん。「変わるべきは上司なのに、なぜ自分が厄介者扱いされるのか、全く納得できませんでした」
〈このたび、人事部長との面談において文書で伝えた内容から受けた心理的苦痛が大きくうつ病を発症し、現在も通院を余儀なくされており、心理的苦痛を軽減するために退職します〉
そう明記した退職届を、退職代行サービスを利用して会社に送り、2022年7月末で退職した。
退職を決めてから体調はみるみるうちに回復。現在は大学で講師として働く傍ら、新聞記者時代に培った取材力を生かし、韓国政治や文化に詳しいフリージャーナリストとしても活躍の幅を広げている。
「リベンジ退職」する社員は意外にも…
実際にどのような人が「リベンジャー」となりうるのか、エンカウンター社会保険労務士法人の社労士に話を聞いた。
「雇用側の視点からみたら、業務を抱え込んだ状態で突然姿をくらます悪質な愉快犯のように見えるケースでも、労働者側の視点に立つと、会社に対して服する精神が強かった人ほど、その分、働き甲斐や見返りを感じなくなり、『辞めないと分かってもらえない』という意識を持ちやすいのだと思います」(社労士、以下同)
向上心高く仕事に取り組んできた人ほどリベンジャー化するのは、意外にも思えるが……。
「最初は前向きに仕事に取組み、加速度的に評価されていく。ただそれがデフォルトになって基準値が上がった結果、評価は天井に達して止まります。
評価が止まりながらも、できる社員に業務は偏るし、年次を食うごとに払った犠牲と評価、待遇が連動しないと『消費された感』を抱いてしまう。しまいには義理すら消えて『引継ぎなんて知っちゃこっちゃない』『今まで自分の仕事に興味を示さなかった会社が悪い』と退職を助長させます」
と指摘する。さらに雇用側からは“突然”の出来事に見えても、労働者側は「リベンジ退職」までにいくつかのステップを踏んでいるという。
「労働者側は退職まで積もり積もった不満やSOSのシグナルを出してなにかしらのアクションも起こしているはずです。それを雇用側が見過ごしてきて、休職や退職に入る社員を『リベンジ』と呼んでいるにすぎません」
リベンジ退職を最小限にするために雇用者側が配慮すべきことはなんなのか。
「労働者側も、これまで尽くしてきた会社なので離れたくない気持ちは持ちつつも、愛情から憎悪に切り替わるのは一つの出来事ではなく、時間とわだかまりの積み重ねの結果なので、そこをどう会社としてキャッチできるかにかかっていると思います。
期待値が大きかった分、失望に変わるときの反動も大きいですから」
リベンジ退職の多発を防ぐためには、雇用主側にも日々の誠実な姿勢が求められている─。
取材・文/集英社オンライン編集部
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