〈ハンガリー邦人女性殺害〉元夫からのDV・子どもとの帰国を訴えた被害女性に「元夫の同意をもらってきて…」大使館も警察も取り合わなかった末におきた惨劇
集英社オンライン / 2025年2月12日 11時0分
ハンガリーの首都ブダペストで、火災があったアパートから日本人女性(43)の遺体が見つかり、殺人容疑でアイルランド人の元夫が逮捕された。女性は2022年から現地の日本大使館や警察にドメスティックバイオレンス(DV)被害を訴え、子どもを連れての日本への帰国支援を求めていた。これに警察は取り合わず、大使館もDV加害の元夫から子どもの帰国についての同意を取り付けるよう女性に求めていたことが分かった。
〈画像〉邦人女性の遺影と、アイルランド人元夫の逮捕された際の写真
警察が火災を“事故”として扱うも、元夫のDVが発覚し計画殺人の容疑に…
1月29日、ブダペスト中心部のマンションの一室から出火し、焼け跡から女性の遺体が見つかった。
「女性は2人の子どもを育てていました。出火当時(部屋に)子どもはおらず、現在はハンガリー国外に暮らし女性を訪ねて来ていたアイルランド国籍の43歳の元夫が火災を通報しました。警察と消防は、女性がベッドでタバコを吸ったのが出火原因とみて事件性はないと一度は判断しました」(全国紙国際部記者)
男性の地元であるアイルランドのメディアによると、ブダペスト警察は火災当日の29日のうちに、女性の遺体を調べても犯罪を疑わせる痕跡はなく、目撃者の話や防犯カメラの映像からも不審な点はない、と発表している。
しかし地元で女性の権利擁護に取り組むNGO「パテント協会」が2月1日、女性が元夫からDV被害を受けていたことを明かし、当局に徹底的な捜査を求めたことで状況が変わった。
パテント協会は声明で「女性は2023年に法的な支援を求めて私たちに相談してきた。彼女はDVを続けてきた元夫を恐れ、祖国に子どもを連れて帰りたいと考えていた。警察には元夫について複数回相談をしたが警察は対処せず、(今回の)火災を“事故”として扱っている。事件を徹底的に調査することを求める」と表明した。
この後、警察の姿勢は一変する。
「現地やアイルランドのメディアによると、警察は2月3日に女性の遺体を解剖し、“暴行の形跡”を確認しました。これを受け、4日未明、警察は元夫を拘束して取り調べを始め、6日に裁判所が『計画殺人』の容疑で1か月間の公判前勾留を認めています。
元夫は無実だと主張し、この決定への不服申し立てをしている状況です。元夫は取り調べで、25年前にアメリカで女性と知り合って2002年に結婚し、2013年にハンガリーに落ち着くまで複数の国に住んでいたと供述したと、AFP通信が報じています」(国際部記者)
日本大使館に女性は助けを求めたが…
警察は、元夫が事件当日の朝、2人の子どもを学校に連れて行った後、服を着替えてヘルメットをかぶった姿でマンションに戻り女性を殺害したとみているという。
警察が公開した防犯カメラの映像には、ヘルメットをかぶった元夫とみられる男の姿が映っている。そもそも女性はタバコを吸わなかったとの友人らの証言もあり、警察などが最初に考えた“出火原因”自体が不審なものだった。
これだけおかしな状況があるなかで警察が発生直後に「事件性なし」として片付けようとした姿勢の裏には、女性からのDV被害を放置したことがあるのではないかとの疑念も沸いている。
テレビ朝日は、被害女性の弁護士の話として、女性は2回、警察に元夫からの被害を訴えたが、警察は「これはハンガリーでは犯罪でも何でもない。ばかげている」と取り合わなかったと報道。女性は昨年11月には元夫から「痛みとともにゆっくりと死ねるだろう」と殺害をほのめかすメールまで受け取ったが、その時も警察は対応しなかったという。
離婚した元配偶者からの付きまとい被害の予防で典型的な失敗を犯した警察の対応には現地で強い批判が起きており、パテント協会が8日に開いた追悼集会では当局への抗議の声が上がった。
警察は11日に、「対応は不適切だった」とHPにて謝罪し、幹部ら6人を懲戒処分にした。
しかし、さらに深刻なのは、女性がブダペストにある在ハンガリー日本大使館に助けを求めていたにもかかわらず、悲劇を防げなかったことだ。
同大使館関係者は2月10日、集英社オンラインの電話取材に「2022年6月くらいに当館は(女性から)元配偶者との関係について相談を受けました。『もしDVがあるような場合には警察に相談するのがいい』と説明したと(記録では)なっています」と話した。
その時点で女性が警察に相談していたかどうかは分からないというが、少なくとも女性は、パテント協会に駆け込む前に大使館に救いを求めていたことになる。
子どもの旅券の発給に相談に行ったが元夫の同意を求められ…
大使館から行けと言われた警察でも相手にされなかった女性は、翌2023年に元夫と離婚したと報じられている。その後2024年に女性はもう一度大使館を頼っている。
「24年夏くらいにお子様の旅券(パスポート)発給についての相談を受けています。その際には、未成年者の旅券発給には共同親権者である元配偶者の同意が必要であると説明しています。その後(女性からは)お子様の旅券申請は当館にはなされていません」(大使館関係者)
パスポート発給の相談は、子どもを連れて日本へ帰国する道を探っていたと考えられる。
現地では元夫が子どものパスポートを取り上げていたとの報道もあり、子どもの国籍や日本以外の国が子どものパスポートを発行した状態にあったのかなど、詳しいことは分かっていない。
また、日本は離婚した夫婦の一方が子を連れて国際的な移動をすることで起きる紛争への対処を定めた「ハーグ条約」の締約国で、同条約の規定を基に大使館は元夫の同意が必要だと伝えた模様だ。
しかしDV被害を訴え子どもと一緒に逃げたいと考える女性が、加害者である元夫から同意を取り付けることは非現実的だとの指摘が支援者らから上がっている。
こうした声が出ていることに大使館関係者は「今回の事件が発生して以降、大使館としてもご遺族のご支援等には当たっており、ご意向も踏まえつつできる限り丁重なご支援を行なっていきたいと考えています」と答えた。
今回の対応を検証する考えがないかとの質問には「できるだけ丁寧な対応をこころがけていこうと考えています」と答えるにとどめた。
在ハンガリー日本大使館のトップを務める小野日子(ひかりこ)大使は、菅義偉政権下の2021年から内閣広報官を務めたことでも知られている。外務広報官も歴任した小野氏は日本政府のイメージアップ広報の第一人者だ。
大使館のホームページでは事件後も、日本食品の販売促進を小野大使がアピールする華やかなイベントを伝える記事が新たにアップされているが、亡くなった女性への言及はない。
※「集英社オンライン」では、今回の事件についての情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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