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太ももが太い選手は大成しない? 鳥谷敬が明かす「ショートの極意」

集英社オンライン / 2022年6月21日 16時1分

日本のプロ野球史上、2000試合出場をはたした選手が唯一いないポジションであるショート。そんな中、遊撃手として日本プロ野球歴代1位となる、667試合連続フル出場をはたした野球解説者の鳥谷敬氏が、この最も過酷なポジションの極意を語る

2000試合出場者がいない唯一のポジション

僕がプロに入って試合に出始めた頃、守備はめちゃくちゃ下手だったと思います。実際にプロ3年目の2006年は21失策。当時は、捕ることと、投げることの両方に不安がありました。

それがなくなったのは、レギュラーになって3年ほど経った時です。体の使い方がわかってきて、“捕る”“投げる”というプレーを別々の動きではなく、“一連の動作”としてとらえられるようになった瞬間がありました。



そこからは、状況に応じて自分の中で微調整をしながら経験を積み重ね、いろいろな不安材料を消していった感じです。無理のない動きができるようになってくると、シーズン途中に疲れて動きが悪くなるということもなくなっていきました。

現役を引退してから、プロ野球中継の解説などで、グラウンドを俯瞰する機会が増えましたが、見れば見るほどショートというポジションは、難しくて大変だということを感じています。

グラウンドの状態や、風の影響を受けやすいのはもちろんですが、打球の強弱や、距離感、前後左右に加えて斜めの動きがあるなど、ショートは動きの選択肢が多いことが特徴です。

さらに配球、サイン、ピッチャーの調子、バッターの状態、イニング、ランナーの状況など、あらゆる可能性を考えて守っています。打球が飛んできたから、ただ捕ってアウトにするだけではなく、捕る時にはグラウンド全体が見えるような視野で捕るということも、長くプレーするための秘訣になってきます。

日本のプロ野球史上、2000試合出場している選手がいないポジションがショートだけだということからも、その大変さがわかってもらえるかもしれません。

読売ジャイアンツの坂本勇人選手が、このままいけば史上初のショートで2000試合出場を達成する可能性がありますが、他の選手にもできるだけ長くショートを守ってほしいという思いがあります。

例えば、福岡ソフトバンクホークスの今宮健太選手。彼の身体能力はすばらしいものがあり、僕も明らかなヒット性の打球を何度もアウトにされました。ただ、身体能力が高すぎるあまり、その動きがケガにつながってしまう可能性が高いというリスクを背負っています。

京田(中日)と小園(広島)の共通点

僕は、年齢を重ねていくうちに、捕る、投げるという動作をどんどん楽にする作業をしていかないといけないと思っています。どれだけトレーニングをしていても年齢とともに筋肉や関節は衰えるので、同じ動きをしていたら、今まで15回できたことが、10回で少し痛みが出るようになります。

だからこそ、体の使い方を工夫することで、同じパフォーマンスを7~8割の力でできるようにして、2~3割の余裕を持つことが、試合に出続けるためには必要になってきます。能力が高い選手は常に10割の力を出せてしまいますが、できるだけ若いうちから余裕を持ってプレーすることを意識してほしいと思います。

現役でいうと、中日ドラゴンズの京田陽太選手、広島東洋カープの小園海斗選手はともに素晴らしい遊撃手ですが、気になっていることがあります。

2人に共通して言えることは、太ももがかなり太くなってきているということ。これは太ももの前側をかなり使って野球をしているということが原因だと思うのですが、この体の使い方でずっとショートを守ると、疲れ方が尋常ではありません。

僕は現役時代、太ももの後ろ側の筋肉を使った動きをすることを意識してきました。例えば、筋力トレーニングをしている時も、太ももの前側を使うと、パフォーマンスは上がっても、筋肉痛ですぐに動けなくなってしまいます。

疲労した状態で同じパフォーマンスを続けると、必ずケガにつながります。そうならないために、お尻と太ももの後ろ側(ハムストリングス)を使うことを意識していました。

守備の時にも、膝を足のくるぶしよりも前に出して構えていると、立ち上がる時に必ず太ももの前側を使わないといけないので、膝が足のくるぶしよりも後ろにあるような態勢でプレーしていました。

そうすることで疲れも軽減し、年間を通して同じパフォーマンスができます。さらに、膝が前に出ていないので、ランナーと交錯してケガをするリスクも減らせるというメリットもありました。

ショートを長く守ったプロ野球界の先輩方の姿を思い返してみても、小坂誠さん、石井琢朗さん、宮本慎也さん、井端弘和さんなどは、同じ感覚を持っておられたのではないかと思っています。

もし大和(DeNA)がFA移籍しなかったら

現役選手では、埼玉西武ライオンズの源田壮亮選手やオリックス・バファローズの安達了一選手は、飛びぬけた身体能力がなくても、堅実にプレーする形に共感できます。

そして、もう1人。横浜DeNAベイスターズの大和選手は、阪神タイガースでチームメイトだったこともあり、個人的には特に頑張ってほしいと思っています。守備に関しては僕よりはるかに高い能力を持っています。彼の打球に対しての距離感や捕ってから投げるまでの感覚は、練習してもなかなか掴めないものです。

例えば、打球との距離感で言えば、打った瞬間に走り出しているのか、自分で走ろうと思ってから走り出すのかでは、打球に追いつくスピードが全然違ってきます。大和選手は、そういう打球に対しての反応が抜群でした。

もし、大和選手がFA移籍をせずに阪神タイガースにいれば、遊撃手を長く守ることができる可能性はあったと思います。打撃にやや不安があるとはいえ、年間2割5分ぐらいの打率を残してくれれば、甲子園という土のグラウンドでの守備力は申し分ありませんし、年齢的にもチームを背負える選手の1人になっていたのではないでしょうか。

今の野球は、全てが数値化されるようになってしまいました。もちろんショートの守備範囲も数値化されていますが、これだと経験や感覚といった数値化されないものが評価されにくくなります。その結果、今後は長くショートを守れる選手がどんどん減っていくのではないかと危惧しています。

ショートというポジションは、長く守らないとわからない難しさや大変さがあります。僕の経験では少なくとも5年以上は守り続けないとつかめない独特の感覚があると思っています。数値だけでは推し量ることのできない視点からも、ショートというポジションを見てみると面白いかもしれません。

構成/飯田隆之 撮影/宮脇進

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